毎日が「13日金曜日」だ

9月13日は金曜日だった。キリスト教文化圏に属する欧州の国民は「13日金曜日」が何を意味するかを知っている。大吉ではなく、最も好ましくない不吉な日を意味する。当方は家人に「明日は13日金曜日だぞ」と警告を発する気分で言った。まるで治安機関関係者がテロ情報を告げるようにだ。

ドナウ川に向かって南北に流れるカンプ川の水位が急増=オーストリア国営放送(ORF)二―ダーエステライヒ州支局公式サイトから、FFFuglau撮影

話を始める前に、「13日金曜日」が欧州ではどのように受け取られてきたかを説明する。「13日金曜日」は、キリスト教を含む西洋文化では最も不吉な日とされている。その背景について少し説明する。

まず、「13」の数字の意味だ。キリスト教では「12」は完全性や秩序を象徴している。例えば、12使徒、12か月だ。「13」はその秩序を崩すものと見なされ、不吉と考えられた。また、新約聖書では、イエス・キリストが十字架にかけられる前夜に行われた「最後の晩餐」では、イエスを含めて13人の人が食卓に着いていた。このうちの12弟子の一人、イスカリオテのユダが後にイエスを裏切った。その結果、「13」は「裏切り」や「死」と結びついていると考えられた。

次に「金曜日」の意味だ。イエス・キリストは金曜日に十字架にかけられた。すなわち、金曜日は受難の日だ。その結果、不吉な数字「13」と「受難の日」の金曜日が結びつぃた「13日金曜日」は不吉な日とされてきたわけだ。

その「13日金曜日」が来たが、大多数の現地メディアは「金曜日13日」を話題にしていない。古いテーマであり、迷信に過ぎないからだろうか、と考えていた時、知人のポーランド人は笑顔を見せながら「もはや『13日金曜日』だけが不吉な日ではなくなったからだよ。考えてみろよ。ウィーンでもイスラム過激派事件が起きたばかりだ。ウィーンで開催予定だったアメリカのポップスター、テイラー・スウィフトのコンサートはキャンセルされた。ドイツでは橋は崩れ、至る所に洪水や大雨だ。少なくとも、欧州では最近、毎日が『13日金曜日』となったのだ。そんな時、誰がわざわざ『今日は13日金曜日だぞ』と叫ぶだろうか」と言うのだ。

知人の説明は説得力がある。当方が住むウィーンでもこの夏から9月初め、日中は34度まで気温が上がった。その数日後の12日には気温は10度に急落した。気温が24度も下がったのだ。われわれは人間が気温の変化にどれだけ耐えられるかを実験されているような状況にある。先の知人は「2、3日前まで異常な暑さで服も体も汗でびっしょりになったし、今日は大雨で服がびしょ濡れだ」と説明した。

ウィーン市当局は12日、警戒情報を発し、「不要な外出は避けて下さい。来週初めまで大雨が降る可能性があります」と警告し、週末に開催予定だったイベントは危険ということで中止を要請している。

ところで、ロシア軍が侵攻し、多数のウクライナの民間人が殺害されている。それに対抗するためコメディアン出身のゼレンスキー大統領はロシア軍への対応で四苦八苦している。同大統領は「自分には昔のように週末は無くなった。毎日が月曜日だ」と語った。そのゼレンスキー氏の嘆きを真似ていうならば、オーストリアを含む欧州の人々にとって、毎日が「13日金曜日だ」といった気分だろう(「ゼレンスキー大統領『毎日が月曜日』」2022年8月17日参考)。

駐オーストリアの日本大使館領事部は12日、大雨洪水警報のメールを発信、「9月12日(木)から9月16日(月)まで、ウィーン州を含むニーダーエスタライヒ州、ブルゲンラント州北部に、大雨洪水警報がでています。不要不急の外出は控え、河川流域に近づかないように呼びかけています。最新の情報を入手し、浸水、地滑り、土石流等にご注意ください。万が一、日本人が被害に遭われたとの情報をお持ちの方は、日本大使館までご連絡をお願いいたします」と緊急連絡を送信した。

音楽の都ウィーン市はニーダーエステライヒ州、シュタイヤマルク州、ケルンテン州などと違い、大雨や洪水は少なく、年中、比較的安全な都市だった。それだけに、この夏、何週間も猛暑と熱帯夜が続き、ここにきて1カ月分の雨が一度に降り出した。気温は急落し、一部では初雪が降ったというのだ。人間の世界だけではない。路上の鳩たちも強風と大雨を恐れ、屋根の棲家に一斉に避難している。鳥や動物たちも異変が差し迫っていることを感じているのだろう。

なお、2024年には「13日」と「金曜日」が重なるのは今回の「9月13日」と「12月13日」の2回だ。12月13日の「13日金曜日」がメディアで話題となるだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。