日本人の消費が伸びない、なぜ?:あまりにも安すぎる日本

日経に「日本人は旅をやめたのか 海外は低迷、国内は伸び悩み」という記事があります。記事ではコロナ後も数字が伸びない国内旅行や海外旅行がコロナ前の2000万人がようやく1000万人水準に戻った程度だと記されています。海外旅行については海外の物価があまりにも高いことが要因とされていますが、私から言わせれば日本があまりにも安すぎると申し上げます。

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今、日本にいるのですが、来るときの全日空機は超満席。乗客はほとんど全て非日本人。Youは本当に羽田を目指すの?と疑問に思っていたのですが、羽田の手荷物のターンテーブルに集まった人はせいぜい4-50人。つまり多くが日本を足掛かりに他国に行く客なのでしょう。このところ日本の航空会社の飛行機に乗るとCAさんの対応が良いのですが、ふと思ったのは「そうか、日本語で接客できるからだ!」と奇妙に合点がいきました。

では国内旅行はなぜ伸びないのでしょうか?訪日外国人客が押し上げたホテル価格が影響したとされます。今、仕事で京都に来ているのですが、ホテル代は四条で5000円程度で泊まっています。ホテルが多すぎて過当競争ですからタイミングを選べば大きく値段が下がるのです。ダイナミック プライシング システムも逆利用すればこうなるわけです。

個人的には日本人も国内旅行も飽きたこともあるのではないかと思います。海外旅行ブームから国内旅行にシフトして既に10年以上になりますが、そろそろ行き尽くしたのではないかと思います。旅行といえば食と観光スポットと土産ですが、食と土産の差別化は難しくなっていると思います。デパートの催し物の定番、北海道物産展がこれだけどこでも開催されると北海道に行かなくてもVRで北海道を愉しんで物産展で買ってきた食材を食べればそれで代替できます。

日本のスーパーマーケットに行き、買い物をしていると嬉しくなります。カナダに比べて「安すぎる」からです。日本円が新札に変わっていましたが、こども銀行マネーの絵柄の方が似合うのではないかと冗談を言いたくなるぐらいです。しかし、いくら安いといってもいつもの3倍も4倍も食べられないのです。安いのに鮮度は良い、品質も良いのです。正直一言、「参っちゃうなぁ」。

東京で会議の後、会議参加者と一杯ひっかけていきましょうと立ち寄った渋谷駅近くの居酒屋。お会計はおひとり様2000円ぽっきり。待てよ、学生時代、渋谷の安居酒屋で学生コンパしても一人3000円はかなり厳しい予算だったよなと思うのとあれから40数年たっても物価が一つも上がっていない、こんな幻のような国があってよいのかと思うわけです。

かつての消費は物欲でした。デザイナーズブランドから趣味のモノまで経済学的な所有欲という意識が強かったのです。物欲という欲望はコップいっぱいまで満たされるまでの事象で万国共通です。日本は30年ぐらい前にコップが小さくなって物欲がフルになり、大きな転換期を迎えます。そして経験、体験、サービスといった消費にシフトしました。食のブームもそうです。万人が食のレポーターになり、おいしいものをひたすら探し求めます。「私は限りある人生、一食たりともまずいものは食べません」宣言をした方を何人か知っていますが、そんなの長く続くわけないのです。フランス料理をずっと食べ続けてたらあなたがフォアグラになってしまいます。

小学校の時、おいしいものを食べ続けたいと思ったことがあります。その時に「天皇陛下もサンマをお食べになるのですよ」と聞いて衝撃でした。そうか、毎日豪勢なものを食べるのではないのだと。事実、私も秘書の時、数週間の会長の随行出張で業務上会食が続きグルメ三昧した帰り、JALのファーストクラスで黒服の「お食事はいかがいたしましょう」という質問に会長と私が隣同士でカレーライスを食したのは「普通のものが食べたい」一心でした。

私の大胆な予想を申し上げると日本の一人当たりの消費が伸びることはないと思います。なぜなら国を挙げて消費が急激に増えるほど欲望が伸びる要因がないからです。むしろ人口が減り、高齢化が進むのですから総消費つまり総需要は減るのが当然の流れになります。総需要が満たされないなら供給側は淘汰されるか、さもなければ外国人の需要で補填してもらうしかないと思います。

そうは言っても外国人の需要ってどれぐらいか計算したことありますか?訪日客が年間3000万人いたとします。平均滞在日数が1週間なら実質的な一時人口として58万人になります。23年の日本の人口減少数が59.5万人減少でしたので外国人が増えたぐらいでは需要は全然追い付かないことになります。

セブンイレブンが売り出している店内で揚げたドーナッツを食べようと思うのですが、ふと考えたのはドーナッツ市場の需要が増えるのではなく、ドーナッツの需要のパイの奪い合いが起きるのだろうなぁ、と。つまり優勝劣敗であり、相対評価でしかないのです。絶対評価に変えるほどのパワーがないのです。

ではお前は2050年の日本の社会をどう予言するのか、と言われたらずばり、現代のジパングであると。あまりにもユニークで世界とは異質感を保ちながら国民がより幸福で安心安全を追求し続ける国だと。各種世界ランキングからは遠く離れ、経済的にも外交的にも目立たない小国になるも世界がうらやむ国になるだろうと思います。ただくれぐれも黄泉の国にならないよう意識することが大事でしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月17日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。