昨年12月から年明けにかけ、「自民党派閥政治資金パーティー問題」の検察捜査が、異例の大規模捜査体制で行われたものの、「裏金議員」3人が起訴・略式起訴されたほかは、会計責任者の起訴・略式起訴だけにとどまり、起訴された2人についても、公判が開かれる見通しも立たず、事実関係は全く明らかになっていない。
政治資金規正法違反で起訴された清和政策研究会(安倍派、以下、「清和会」)の代表兼会計責任者の松本淳一郎氏の公判でも、検察の冒頭陳述は、単に「かねて、ノルマを超えてパーティー券を販売した場合の『還付金』『留保金』に相当する金額を除いた金額を清和会の政治資金収支報告書に記載していた」と述べるだけで、「裏金問題」の経緯、意思決定のプロセス等の具体的な事実関係は何一つ明らかにしなかった。
4月には、自民党の党紀委員会が、「裏金議員」39人に対して離党勧告から戒告までの処分を行ったが、「単なる不記載であること」を前提とするものであり、所得税の納税への言及すらなく、検察の捜査処分を前提とするものだった。
結局、「裏金問題」の真相は全く明らかにならず、裏金議員は納税すら行わないまま、4月の衆議院3補選で自民党は全敗、支持率低迷を受けて岸田文雄首相が退陣を表明した後の自民党総裁選で新総裁に選出された石破茂氏は、総裁選時に明言した予算委員会開催後に国民の審判を仰ぐとの方針に反して、就任直後に10月27日に衆議院総選挙を行うことを明言した。
裏金問題への対応が全く不十分なまま解散総選挙が行われることに対して、国民の批判が一層高まったことを受け、10月6日、石破新総裁は、派閥幹部に加えて、党の処分の対象となった「裏金議員」についても、説明が不十分で有権者の理解が得られない場合は総選挙で非公認にする方針を明らかにした。
総選挙の公示を目前に控え、「裏金議員」の説明はこれからが本番となった。
私は、裏金問題の真相が全く明らかにならない状況に対して、いくつかのルートを通じて清和会関係の「裏金議員」側に接触を図り、事実解明のためのヒアリングを行うなど、私なりに事実解明に向けての取組みを行ってきた。
そのヒアリングの結果と、これまで「裏金議員」の記者会見等での説明を基に、「政治資金パーティーでの裏金提供の背景と経緯」「パーティー券販売ノルマは、誰がどのように設定したのか」「裏金の帰属」等を中心に事実解明に取り組んできた。清和会の裏金問題について把握できた事実について私なりの分析を行った上、今後、「裏金議員」が行うべき説明とその評価について私見を述べることとしたい。
ヒアリング結果に基づく検討
1. 「ノルマの設定」は誰がどのようにして行っていたのか
清和会では、政治資金パーティー券の販売について「ノルマ」が設定され、ノルマ分の販売ができなければ議員側が自分で購入しなければならず、ノルマを超えて販売したら、その分が「還付金(ノルマ超分も清和会側に送金した後に還付してもらう方式)」あるいは「留保金(ノルマ超分はそのまま議員側で留保する方式)」として議員側に供与されるというやり方が、20年以上昔から継続してきた。
このようなやり方について、初当選の際に議員に直接説明され、ほとんどの議員が認識していたようだ。
すなわち、今回の問題のそもそもの原因は、議員側が強く達成を求められる「パーティー券販売ノルマの設定」にあったと言える(「還付金」「留保金」の供与と異なり、議員側がノルマ未達分を購入した具体的事実は確認されていないが、多くの議員が、ノルマ達成義務を認識し、それを前提として動いていたことは間違いない。)。
この「ノルマの設定」というのは、三塚博氏、森喜朗氏が清和会会長だった時代から、会長等の派閥幹部が決定し、パーティー券が配布されるときに、派閥の事務担当者から議員側に伝えられていたようだ。
ノルマは、初当選の際は低く、当選回数を重ねるごとに増えていき、閣僚になると一気に増える。それは、「派閥のおかげで閣僚にしてもらったのだから、その分、派閥に貢献すべき」という考え方による。
しかし、実際のノルマの具体的な金額は、必ずしも当選回数や閣僚経験の有無によって一律ではなく、会長等の派閥幹部の裁量(匙加減)で決められていたようだ。当該議員に対する期待や評価がノルマの金額に反映されることもあり、派閥内の上下の力関係を反映するものでもあった。議員相互間では、他の議員のノルマの金額はわからず、お互いにノルマについて話をすることもなく、所属議員は、そのようなやり方に従うしかなかったとのことだ。
2020年からのコロナ感染下では、パーティー券の販売もままならないだろうという配慮からノルマが引き下げられた。それにより、もともと支持者らに一定の枚数のパーティー券の購入を依頼していた議員は、ノルマ超の販売分についての「還付金」「留保金」の金額が従前より多額に上ることになった。
2. 還付金等の派閥での「処理」とマネーロンダリング
議員側は、初当選の頃から、ノルマ超のパーティー券売上の還付金について、派閥の事務局から、
「派閥で処理済だから」
「政策活動費だから」
「所属議員側で収支報告書に記載しなくてよい」
「記載しないように」
などと指示され、それにしたがってきたと説明している。
三塚、森会長時代など、かつては、パーティー券の売上は、「還付金」等も含めて清和会の収支報告書に計上し、そのうち、「還付金分」を清和会から党本部に寄附し、それを、政策活動費として党が所属議員に寄附するという方法がとられていたようだ。
「議員→派閥→党本部→議員」という流れで、一度、政党に入れて、政策活動費としてバックしてもらうという方法であり、この金の流れであれば、現行政治資金規正法上、政党から政治家個人への寄附は許容されているので、派閥から議員個人に適法にノルマ超の売上を供与できる。
しかし、その党本部との間のマネロンスキームはその後、省略されるようになり、結局、ノルマ超過分を派閥から議員に戻すという現在の「還流スキーム」だけが残ることになった。それに伴い、派閥側も所属議員側も両方不記載ということになった。
「清和会」側から「政務活動費なので収支報告書に記載しないでよい」と説明されていたことを、供与を受けていた所属議員の一人である宮澤博行衆議院議員(当時)が防衛副大臣辞任の際の記者会見で明らかにしているほか、政治資金規正法違反で逮捕起訴された池田佳隆氏も、昨年12月にいち早く政治資金収支報告書を訂正した際、そのように説明していた。また、自民党の調査に対する回答の中にもその旨の説明がある。
これらからも、「還付金」等について、「政党から個人あての政策活動費であるから収支報告書に記載不要」との説明が行われていたことは間違いないようだ。
もっとも、三塚、森会長時代においても、そのような党本部を介した寄附の正当化としてのマネロンが実際に行われていたかどうかは不明であり、単にそのように説明されていただけの可能性もある。
しかし、いずれにせよ、そのような「政策活動費という説明」がなされていたことは事実であり、それが、「還付金」等の性格、その帰属、違法性、についての議員側の認識に影響していたことは否定できない。
派閥と党本部との間で資金の移動が行われ、党本部で当該派閥の所属議員に対する政策活動費の支出の手続がとられていたとすれば、「合法的な裏金」として所属議員個人に帰属することになる。この場合、政治家個人に帰属する以上、当該議員の資金管理団体、政党支部等への政治資金収支報告書への記載義務はないが、一方で、原則として所得税の納付義務が生じる。
この党本部との資金移動のマネロンが行われていたとしても、ある頃から省略され、単に「政策活動費」「派閥で処理済」との説明だけが行われるようになった。その説明を、額面通りに信じていた議員がいたとすれば、政治資金規正法違反の認識も、違反を基礎づける事実認識もなかったことになる。
しかし、もし、党からの政策活動費であれば、党本部側から所属議員宛てに、支出した旨の連絡があるはずである。そもそも、派閥の政治資金パーティーの売上の一部還流という認識がある以上、「政策活動費の説明」を額面通りに受け止め「合法的な資金」と認識した議員は少なかったものと思われる。
つまり、議員側では、「政策活動費」「派閥で処理済」との派閥側からの説明があっても、違法ではないと認識していたことは考えにくいが、一方で、そのような説明を前提に、突き詰めて考えれば、資金の性格は、政党からの政策活動費と同様に、議員個人に向けられたものであり、本来は所得税の課税対象との認識につながったはずである。
3. 「ノルマ超のパーティー券の販売」の議員側の目的
ノルマに対してどのような姿勢で臨むかには、議員によって差があったようだ。最大限に努力してパーティー券を販売しても、課せられたノルマを達成するのがやっとという程度の議員にとって、ノルマ超の販売で裏金を得ようという意図はもともとない。
しかし、議員の中には、ノルマ超のパーティー券の販売によって「裏金」を得ることを意図して、積極的に販売活動を行っていた議員もいたようだ。このような議員の場合、還付金等が「裏金」として供与され、それを議員側で自由に使えることのメリットを享受しようとする意図があったことになる。
このような「ノルマ超のパーティー券の販売によって裏金を獲得しようとする意図」の有無・程度は、必ずしも実際に得ていた「裏金」の金額の大きさと一致するわけではない。
2020年以降のコロナ下で「ノルマの減額」の措置がとられたことから、それまでノルマを達成できる程度パーティー券の販売を行っていた議員に、「ノルマ減額分」が「還付金」「留保金」として供与されることになった。特に、閣僚経験者などノルマが高額に設定されていた場合には、ノルマの引き下げ額も大きく、「還付金」等の金額が高額になったと考えられる。
このように、意図することなく多額の「還付金」等を得ることになった議員は、その多くを、将来、ノルマが引き上げられた場合にノルマ未達で自らパーティー券を購入せざるを得ない場合に備え、「裏金」として保管しておこうとすることになる。実際に、将来のノルマ未達の場合のパーティー券購入費用として「還付金」等を保管していたと説明する議員も多かった。
ノルマ超のパーティー券の販売によって「裏金」を得ようとする積極的な意図は、結果的に得ていた還付金等の金額の多寡とは必ずしも一致しない。むしろ、ノルマ引下げ以前からの「裏金金額」が「積極的な裏金獲得の意図」を反映しているとみることもできる。
4. 裏金の帰属
ノルマ超のパーティー券の販売で、派閥から議員側に供与される「還付金」等について、かつては、一度党本部を経由するマネロンによって「合法化」するやり方から始まったと考えられ、その後も「政策活動費」「派閥で処理済」との説明が行われていた。
還付金等を受け取っていた議員側は、それを、資金管理団体、政党支部など、特定の団体宛の金と認識していたわけではなく、あくまで、派閥から提供される「活動費」と認識していたに過ぎない。
そして、多くの議員は、「還付金」等を留保していた目的について、「将来、パーティー券の販売ノルマが達成できなかった時に、自分でパーティー券を購入して補填しなければならなくなることに備えるため」と説明している。
仮に、販売ノルマ未達分のパーティー券を、議員側が購入して補填することになった場合、資金管理団体、政党支部の資金でパーティー券を購入した場合、収支報告書で公表することになり、派閥の所属議員によるパーティー券購入の事実が公表される事態は、派閥側も議員側も避けたいと考えるものと思われる(ヒアリングに応じた議員秘書も、「ノルマ未達分のパーティー券購入費を資金管理団体、政党支部で支出することは困難」と述べている)。結局、ノルマ未達分が生じた場合は、議員個人の資金でパーティー券を購入せざるを得ないと考えられる。
このように考えると、議員側が「派閥から供与された還付金等を、将来ノルマ未達分の補填に備えて保管していた」というのも、還付金等が政治家個人に帰属していたことを示す事実と言えるのである。
以上のようなことから、政治団体ではなく、議員個人に帰属することは明らかである。
ところが、清和会は、ノルマ超のパーティー券売上についての還付金等が、資金管理団体、政党支部宛ての寄附として政治資金収支報告書を訂正し、議員側でも政治団体に帰属するものとして収支報告書の訂正が行われている。
これは、所属議員側が、検察の取調べにおいて「仮に、収支報告書に記載するとすれば、どの収支報告書に記載していたか」と質問されて、資金管理団体、政党支部のいずれかを答えたことを根拠に、帰属先が特定され、検察の指導によって収支報告書の訂正が行われたものと考えられるが、還付金等の実態に即したものとは言えない。
清和会の場合、数年前まで、「餅代」「氷代」として、所属議員に政治資金を提供していたようであり、それは、予め「振込用口座」として清和会に届け出た銀行口座に振り込まれていた。もし、清和会側が、「還付金」等を、収支報告書に記載する前提で議員側に振込送金したとすれば、清和会に口座を届け出ている政治団体ということになるはずであるが、多くの場合、この届出口座の名義の団体と、政治資金収支報告書を訂正した団体とが一致しない。これも、「還付金」等が、訂正した政治団体宛の寄附ではないことを示していると言える。
結局、議員側が、政治団体宛の寄附との具体的な認識があったわけではないのに、検察の指導によって、資金管理団体、政党支部の収支報告書の訂正が行われ、それによって、議員側に供与された還付金等が、そのまま政治団体に帰属したことにされ、後述するとおり「私的流用」の事実がない限り、所得税の課税の対象にならないとされた。その結果、本来議員個人に帰属する収入であるのに所得税の課税を免れることになり、国民の強い不公平感につながっているのである。
政治資金規正法違反の成否
以上のような、今回の「裏金議員ヒアリング」の結果明らかになった事実関係からすると、派閥からの「還付金」「留保金」が、議員個人宛に供与されたものであることは明らかである。検察が、すべての「裏金議員」に対して、資金管理団体、政党支部の宛ての寄附だったとして政治資金収支報告書を訂正するように指導し、その帰属先の政治資金収支報告書の虚偽記入・不記載罪が成立することを前提に捜査処理したのは誤りだったということになる。
以下のような、「公職の候補者の政治活動に関する寄附」の禁止規定の適用を前提に、検察の政治資金規正法の捜査処分が行われるべきだった。
政治資金規正法第21条の2第1項は、
「何人も、公職の候補者の政治活動に関して寄附をしてはならない。」
として「公職の候補者の政治活動に関する寄附の禁止」を定め、また、第22条の2は、
「何人も、第21条の2第1項に違反してされる寄附を受けてはならない。」
として公職の候補者の政治活動への寄附の供与と受領の両方を禁止している。
そして第26条は「第21条の2第1項の規定に違反して寄附をした者」(第1号)「第22条の2の規定に違反して寄附を受けた者」(第3号)について
「1年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」
と定め、第28条の2は、
「第26条第3号の規定の違反行為により受けた寄附に係る財産上の利益は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。」
と定めている。
「政治資金パーティー裏金問題」は、派閥側が政治資金収支報告書にパーティー収入を過少に記載した虚偽記入罪(第25条1項)に加えて、派閥側に対しては、公職の候補者の政治活動に関する寄附の供与の禁止(第21条の2第1項)違反、所属議員に対しては、同寄附の受領の禁止(第22条の2)違反で、第26条の「1年以下の禁錮又は50万円以下の罰金」の罰則の適用を前提に捜査処理すべきだった。
もし、この罰則が適用され、処罰された場合には、寄附を受け取った議員側から、寄附額全額を没収すること、既に費消しているなどして没収できない場合は、追徴することになる。
しかし、上記のような罰則適用が前提にされるべきだとしても、それらの罰則を適用して「裏金議員」の処罰が可能だったことになるわけではない。
政治資金収支報告書の虚偽記入・不記載罪の場合に、会計責任者が罰則適用の対象となるのとは異なり、個々の「寄附の受領」の行為について、「公職の候補者」すなわち政治家たる議員個人が罰則の対象となる。実際に処罰するためには、政治家個人宛の寄附を受けるという犯意をもって、個別の寄附を受けたことが証拠により立証される必要がある。
清和会の場合、政治資金パーティーのノルマ超の売上の還流は、20年以上前から慣行化していたとのことであり、議員の側は、ノルマの金額や、その増減等は認識していても、実際のパーティー券売上の処理や「還付金」「留保金」についての具体的事項は秘書に任せていて認識していない場合もあると考えられる。
公職の候補者の政治活動への寄附の供与と受領の犯罪が成立するためには、個別の寄附について具体的な犯意をもって寄附・受領が行われることが必要であり、秘書に処理を任せていた場合には、政治家個人宛の寄附の受領の個別の認識がなく、犯罪が立証できない場合も多い。
実際に上記の罰則を適用して処罰できるのは、議員自身が「ノルマ超のパーティー券の販売を行う積極的な意図」を有している場合で、還付金の管理にも議員自身が関わり、政治家個人宛の寄附として還付金を受領したことについての個別具体的な認識が立証できる事例に限られる。
もっとも、犯罪の成立が立証できなかったとしても、実態としては「政治家個人宛の寄附」なのであるから、前提に受領した寄附の処置、納税などを検討すべきであろう。
裏金についての納税と没収
パーティー券の売上の「還付金」「留保金」について、検察は、所属議員の資金管理団体や政党支部宛の寄附だとして収支報告書の訂正を行わせたため、これらはすべて政治家個人に帰属しない政治資金だということになっている。政治資金であれば、原則として、議員個人に対する課税の対象外となり、議員が私的用途に費消した事実がない限り課税されない。
しかし、既に述べたように、議員個人に帰属する寄附だったのであるから、所属議員個人の所得となり、原則として、所得税の課税の対象とされるべきである。政治活動の費用として使われた事実が領収書等で明らかになる金額を除いて、雑所得として所得税の申告をすべきだ。
検察の捜査処理前提だと、政治団体に帰属した政治資金は原則非課税で「私的流用」だけが課税の対象となるのであるが、今回ヒアリング等で明らかになった事実を前提とすれば、原則として課税対象となり、実際に政治活動に充てた費用だけが控除されるという「真逆の税務処理」となるのである。
大きな差が生じるのは、議員に供与された「還付金」「留保金」のうち、使用されずに残っていた残余金の取扱いである。検察の捜査処理を受けての収支報告書の訂正を前提にすれば、残余金は、資金管理団体や政党支部に帰属し、通常の政治資金として使用できることになる。しかし今回ヒアリング等で明らかになった事実を前提とすれば、残余金は全て個人所得として申告し納税すべきということになる。
そして、前記のとおり、仮に、「政治家個人宛寄附」として政治資金規正法違反の犯罪の成立が認められれば、全額没収となるのである。犯意や個別の寄附の認識がないということだけで処罰を免れたとしても、法の趣旨からすれば、「還付金」「留保金」の残余金は、議員の手元に残しておくべきではないといえる。
前記のとおり、還付金等の実態に即したものとは言えない検察の捜査処分の方針に沿って、政治団体への帰属を前提に政治資金収支報告書の訂正が行われ、自民党の処分も、検察の処分に沿う形で行われ、その後の議員側の対応も、すべてそれを前提に行われたため、その結果、議員側は、還付金等について所得税課税を免れ、その資金を、議員側の政治資金としてそのまま使えるという、国民には到底納得できない結末となった。
検察の処分が、いまさら変更される可能性は低いとしても、自民党や議員側の対応は、実態に即した方向で行われることが不可欠である。
「裏金議員」の説明と対応の評価ポイント
解散総選挙を目前に控え、「裏金問題」について、石破自民党総裁が、「裏金議員」のうち重い処分を受けた議員や説明が不十分な議員に対して非公認とすることを含む厳しい措置をとる方針を明らかにし、改めて裏金についての説明の在り方が問題となっている。
これまで述べてきたヒアリング結果を前提に、今後、裏金議員の個別の説明においてポイントとなる点を指摘しておこう。
1. ノルマ設定への関与
今回の「裏金問題」の核心はノルマの設定である。その達成のためのインセンティブとして導入されたのが、「還付金」「留保金」であるともに、その販売実績が、派閥内での評価につながっており、実績に応じてノルマをどの程度に設定するかは、派閥会長を中心とする派閥幹部の匙加減によって行われていたようである。
まさに問題の本質とも言えるノルマの設定が、細田博之氏までの派閥会長だけに委ねられていたのか、事務総長など派閥幹部も関わっていたのかについて、派閥幹部だった議員には、単なる「裏金議員」とは別次元の説明責任がある。
前記のとおり、コロナ下では、ノルマ金額が減額されたことが、それまでの同等のパーティー券販売活動をしていた議員に、多額の「還付金」等が入ることにつながった。この際、派閥幹部は、ノルマの減額を早くから認識しており、それに応じて、パーティー券の販売活動のレベルを下げていた可能性がある。
閣僚経験者として高額のノルマを課せられていたと考えられる議員の中で、5年間の裏金総額を見ると、萩生田光一氏(2728万円)、山谷えり子氏(2403万円)、橋本聖子氏(2057万円)らと比較して、清和会事務総長だった松野博一氏(1051万円)、高木毅氏(1019万円)、下村博文氏(476万円)などの裏金金額が相対的に低く、コロナ下の2021年10月から翌年8月まで事務総長を務めた西村康稔氏に至っては、100万円と極端に少ない。このことからも、事務総長クラスの派閥幹部は、事前にノルマの減額の見通しを知り、販売活動をセーブしていたのではないかと考えられる。
2. ノルマ超のパーティー券の販売を行う意図・目的
「裏金議員」がノルマ超のパーティー券の販売を行う積極的な意図の有無は、その悪質性を評価する上での重要な判断要素である。
積極的な意図をもっていたのであれば、「領収書がいらない自由に使える金」を得ようとする目的があったということであり、選挙における買収資金のような「表に出せない金」や私的用途に使う意図があったということになる。
このような意図がどの程度にあったのかを判断する上で重要なのは、「コロナ下でのノルマ減額」によって予期せぬ形で入ってきた「還付金」等を除外した金額である。それは、意図して得ようとした裏金の金額に近いと考えられる。
3. 裏金の保管形態
「裏金議員」の記者会見での説明や自民党の調査結果等からすると、保管形態としては、「議員事務所で管理していた」「銀行口座で管理していた」の二つがある。それ以外の形態であれば、「他の資金と個人の資金と混同していた」ということであり、「合理的な説明はできない」ということであろう。
議員事務所で保管されていた場合、一般的には、その支出は、政治活動費として処理可能なものに限定されている、ということが言える。
もっとも、かつて安倍晋三元首相が「桜を見る会」問題での国会での虚偽答弁に関して、記者会見で説明した際、「前夜祭の費用補填については、合計800万円もの費用を、後援会として費用負担すべきところを、(安倍氏が認識しないまま)個人資金で負担していた」と説明した。安倍氏の事務所では、政治資金と個人の資金の区別すらついておらず、どんぶり勘定になっていたということであり、逆に、政治資金が個人的用途に使われる可能性も十分にあったことになる。
このように、議員事務所において政治資金と個人資金の両方を管理していて、最終的に政治資金収支報告書の提出時に両方に振り分ける、という資金管理の形態であれば、「還付金」等を議員事務所で管理していたとしても、個人的用途に充てられる可能性も十分にある。
銀行口座で管理されていた場合は、その口座の名義人と通帳、カード等を誰が管理していたかが重要となる。要するに、誰が引き出すことができる状況になっていたのか、ということである。
いずれにせよ、重要なことは、その資金の管理に議員本人が関わっていたのか、という点である。
この点、今年4月の自民党の党紀委員会の審査に基づく処分では、派閥幹部以外の議員については、「過去5年において、自身の政治団体に相当な額、1000万円以上、もしくは500万円以上の不記載がある議員について、会計責任者に任せきりで不適正な処理としてしまった者」の管理責任が問われ処分の対象とされた。
このように「会計責任者に任せきり」というのが、処分の要件になっているのは、検察の捜査処分と同様に、派閥政治資金パーティーをめぐる問題、派閥から資金管理団体・政党支部等への寄附の単なる不記載に過ぎないという認識を前提にしているからであり、その「不記載処理」を行った会計責任者に「任せきり」にしていた方が責任が重い、ということになるのである。
しかし、これまで述べてきたように、その前提が誤っている。議員個人に帰属する寄附であることを前提にすると、むしろ、逆の評価となる。「裏金」の管理に議員本人が関わらず、議員事務所或いは議員個人が引き出すことができない口座等で管理し、それを完全に秘書等に任せていた方が、私的流用の可能性が低く、悪質性の程度も低く、議員本人がその資金の使い途に直接関われるようになっていた場合の方が、私的な用途に使われた可能性があり、悪質だということになる。
前記2で、「ノルマ超のパーティー券の販売を行う積極的な意図」が認められ、なおかつ、裏金の管理に議員本人が関わっていた、ということであれば、私的用途或いは違法な用途に使われていた可能性が高く、最も悪質だということになる。
4. 裏金の返還の有無、納税の意思
検察の捜査処分を前提にすると、還付金等は、全額、資金管理団体又は政党支部に帰属したことになり、そのような訂正が行われている。この場合、それらの団体の資金と混同するので、「残余金」は存在しないことになる。
しかし、もともと不記載を前提に供与された「裏金」であったものが、検察の捜査処分を経て、議員側が政治活動費として使えるようになっていること自体に対して国民が納得せず、強い不満を持つのは当然である。
残余金はどうするべきなのだろうか。
既に述べたように、還付金等は議員個人に帰属することを前提にすると、全額が原則個人所得となり、その中で、議員の政治活動費に充てられたものは、所得から控除され、残余金が所得税の課税の対象となると考えられる。
「裏金議員」としては、議員個人への帰属を前提に、各年において実際に政治活動の費用として使った金額を具体的に算定し、残余金の納税を行うというのが、本来の今回の裏金問題の処理だったはずだ。そのような処理が可能であるかどうか、その意思があるかどうかも、「裏金議員」の対応の評価要素と考えるべきだ。
「裏金議員」のこれまでの説明に欠けていたこと
裏金議員に対する自民党の従来の対応がなぜ国民から厳しい批判を受けているのか、それは、自民党の多くの議員が、政治資金として収支報告書で公開もしない「裏金」を得ていたことが発覚したのに、刑事処罰を受けないどころか、納税すらしないで済まされていることに対する納税者としての強い不公平感と憤りである。
国民の多くは、裏金議員の中には、その金を個人の懐に入れていた議員が相当数いるのではないかと今も疑っている。裏金議員の説明は、その国民の疑問に答えるものでなければならない。
上記の指摘を踏まえ、「裏金問題」について十分な説明が行われること、それを自民党執行部が適切に評価することが、石破新総裁の下で総選挙に臨む自民党が、本当に変われるかどうかの試金石である。