日本の発展を支えた渡良瀬の鉱脈・足尾銅山へ

群馬県桐生市にやってきました。

群馬県東部にある、繊維産業で栄えた工業都市です。

JRの桐生駅は旧国鉄時代の様相をそのままに残した淡白な印象の駅ですが、上毛電鉄の西桐生駅は昭和初期に建てられたまま残る温かみのある建物です。かつての桐生の姿を今もそのままに残すことから登録有形文化財に指定されています。

ただ、今回の出発駅はJR桐生駅。実はこの駅からはJRのほかにもうひとつ鉄道路線がのびています。

それがこの「わたらせ渓谷鉄道」。もともとは足尾にあった足尾銅山の鉱石を輸送するために足尾鉄道が建設した路線です。その後国有化され、国鉄、JR足尾線として営業していましたが足尾銅山が閉山したのちは業績が伸びず、平成元年に第三セクターのわたらせ渓谷鉄道に移管されています。

わたらせ渓谷鉄道のことについては紙面を改めて書かせていただくとして、同線にのって渡良瀬川を北上、通洞駅にやってきました。ここは県境を超えて栃木県日光市です。前日は埼玉県深谷市にいて29℃だったんですが、ここ日光市は18℃。雨模様だったとはいえかなり肌寒いです。通洞駅は足尾銅山観光の起点となる駅。多くの乗客がここで下車しました。

足尾銅山があった足尾銅山跡へは徒歩8分ほどで到着です。

足尾銅山観光はトロッコ列車に乗るところから始まります。このトロッコで5分ほど揺られて鉱山のあった通洞坑に入っていきますが、

線路の関係上途中で機関車が切り離されます。鉱山の観光に来たのにこんなところで盛り上がり、鉄ヲタの血が騒いでしまいます。

トロッコで通洞坑の中に入るとトンネル内に駅があり観光がはじまります。

線路の先にまだ延びる鉱山施設。

線路はこの先ずっと奥まで延びていて、枝分かれする鉱脈まで作業員を運んでいきます。坑道の総延長は1200キロにもなり、これは東京から博多までに匹敵する距離です。

足尾銅山は16世紀半ばに2人の百姓「治部(じぶ)と内蔵(くら)」が鉱脈を発見したことから歴史がはじまります。江戸時代初期に最盛期を迎えますがその後産出量が減って衰退、閉山の危機に見舞われますが、古河財閥の創業者、古河市兵衛によって再興され明治の近代化の時代に日本の産業を支える原動力となってきました。その後はエネルギー革命の影響や産出量の減少もあり鉱山は衰退し昭和48年に400年の歴史を終えています。

一方で渡良瀬川流域を中心に鉱毒被害をもたらし、日本初の公害、足尾鉱毒事件も起こし公害対策の必要性がクローズアップされるきっかけになりました。

手掘りから

機械の時代へ

構内は江戸、明治、大正と時代ごとの銅産出方法の違いを人形を使ってわかりやすく説明しています。最初は手堀であったのが機械化が進み、ダイナマイトを使った掘削作業まで紹介されています。

坑内には神社もありました。常に危険と隣り合わせの鉱山においてはこういった安全祈願は必須だったのでしょう。

足尾銅山を出たあとは、少し歩いて古河掛水倶楽部を訪ねました。明治から大正にかけての足尾銅山の隆盛期に貴賓客の接待や宿泊施設として利用されてきました。一部を除いて内部の撮影はできませんが、中は洋室と和室を併せ持っている和洋折衷型。ビリヤード場なんてハイカラなものまで備え付ける施設でした。

掛水倶楽部本館の脇に佇むレンガ造りの重厚な建物は旧足尾銅山の書庫。事務所の付属設備として建てられましたが、この建物だけが現存しています。明治時代の足尾銅山の姿を偲ぶことができる数少ない史跡です。

掛水俱楽部の周辺にはかつて足尾銅山の職責者が暮らした社宅も公開されています。課長宅なんていうものもあって、課長くらいならわたしもすめたかな、と思いましたがここの課長はきっとうちの会社の課長とは格がかなり違うのでしょう。

職責者の建物の眼下には庭園も広がっています。ここに行くにはトンネルを通っていくと近道なんですが、

このトンネル、なんと防空壕でした。そんな施設まで整っていたんですね。銅の産出地ということもあって米軍から狙われることもあったのでしょう。

掛水倶楽部から歩いて足尾駅までやってきました。通洞駅から足尾駅までは800メートル。足尾の集落を散歩しながら歩けばすぐ到着です。

貨車移動車

貨物船に留置されるタラコ色キハ30。

足尾駅はかつて銅輸送の貨車を留置するための線路が多く敷設されていました。今はかつて活躍した名車たちがここに安置されています。

通洞選鉱所跡

かつて日本の産業を支えた足尾銅山。その役目を終えて50年が経とうとしていますがかつてこの鉱山で働いた人々が日本の発展に大きく寄与していたことを忘れてはなりません。

足尾銅山へはわたらせ渓谷鉄道からも、日光市側の東武日光駅からもバスでアクセスすることができます。今は中禅寺湖の紅葉もキレイな時期ですのでぜひひと足伸ばして足尾銅山観光にも来ていただきたいと思います。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。