総選挙では政治とカネをめぐってしょうもない議論が続いているが、いま日本で進行している最大の危機は、140兆円の社会保障支出が毎年3兆円以上も増え、2040年には190兆円になる社会保障危機である。特に来年から団塊の世代が後期高齢者になり、医療保険の赤字が激増する。
社会保障の赤字を消費税で埋める
ところが石破政権はこれについて何も語らず、野党の中でも維新と国民民主が問題にしているだけだ。その彼らも消費税減税を主張しているので「財源はどうするの?」ときくと、沈黙してしまう。
このジレンマを解決する方法がある。消費税を大幅に増税するのだ。社会保障支出の最大の赤字は、後期高齢者医療費の支援金などの老人医療への10兆円の仕送りである。
これは窓口負担を一律3割にし、高額療養費を現役と同じにすれば、5兆円ぐらい削減できる。残る5兆円を消費税で埋めるには、消費税1%を2.4兆円とすると、約2%の増税が必要だ。
国民年金は廃止して「最低保障年金」に
もう一つの大きな穴は、国民年金の未納と3号被保険者の約5兆円である。これは国民年金を廃止して1階部分(基礎年金)を消費税で代替する最低保障年金がベストだ。
最低保障年金(税方式)のイメージ(土居丈朗氏)
基礎年金25.6兆円を消費税で置き換えるには消費税11%が必要である。さらに前期高齢者と後期高齢者に投入されている税金12.2兆円を消費税でまかなうと5%だから、合計すると
・後期支援金・前期調整額:2%
・老人医療費補助:5%
・最低保障年金:11%
合計18%で、金額にして43.2兆円。一般会計で社会保障特別会計の赤字を埋める社会保障関係費37.7兆円より5.5兆円多いが、これは老人医療費の「暗黙の税」を消費税に置き換えるからだ。高齢者の自己負担が増やせなくても、消費税20%もあれば社会保障の赤字はすべて埋められる。
もちろんこれは大ざっぱな概算なので端数は合わないが、税収中立に計算したので、国民負担(税+社会保険料)は今と同じである。違うのは図のように逆進性が大きく世代間で不公平な社会保険料を、高齢者も同率で負担する消費税に代替することだ。
消費税にも逆進性はあるが、10倍以上の差がある社会保険料に比べれば微々たるものであり、世代間の不公平はまったくない。所得再分配は負の所得税でやればよい。
付加価値税20%は世界の常識
このプランの最大の弱点は、今のところ消費税を増税しようという党がないことである。これは消費税が竹下内閣や細川内閣や橋本内閣を倒した呪われた税だというトラウマがあるのだろうが、これは偶然だった。
EUでは付加価値税(VAT)の税率は20~25%が普通であり、それが手厚い社会保障の財源になっているので、巨額の国債を毎年発行する必要はない。日本の財政が不安定になる最大の原因は、超高齢化で社会保障の赤字が急激に膨張するのに、その財源がないことだ。このまま放置すると、そのうち医療・介護は崩壊してしまう。
必要なのは、社会保険料を消費税で代替する税制改革の合理性を国民に説明し、合意を得る指導者が出てくることだ。少なくとも自民党総裁選では河野太郎氏がそれを試みたが、選挙では惨敗した。野党はまだ消費減税などと言っているので、増税の合意ができるのは10年ぐらいかかるかもしれないが、それまで待っていると社会保障は取り返しのつかない状態になる。