所得控除を削減して「勤労税額控除」に(アーカイブ記事)

自公政権と立憲民主党が給付つき税額控除について協議を始めたが、これを立民党が「消費税の還元」というので、わけがわからない。これは所得税の還元である。国民民主党の玉木代表はわかっているが、意図的に与野党協議を妨害している。

今のようにインフレのとき所得減税することは望ましくないが、減税するとすれば基礎控除の引き上げより給付つき税額控除のほうが合理的だ。

アドホックで不公平な所得控除

国民民主の提案は基礎控除と給与所得控除の合計を178万円に上げようというものだが、所得控除を上げて減税するのは筋が悪い。これは課税対象となる所得を減らすもので、総額150兆円。所得税率の高い金持ちほど有利になる。所得控除に浸食されて所得税の課税ベースが狭く、税負担が中間層に集中している(図1)。

図1 所得控除(財務省)

さらに問題なのは、公的年金等控除(12兆円)である。これは年金受給者ひとり110万円だが、その経費の控除ではない。年金保険料を払うときは社会保険料控除(34兆円)が控除されているので、これは二重控除である。

これは社会保障審議会の年金部会でも問題になったが、玉木氏は知らんふりだ。国民民主党の減税案は老人優遇税制であり、これを是正すると老人票を失うからだ。

所得控除より「勤労税額控除」

与野党が協議している税額控除は、税率に関係なく定額を所得税を還付するもので、低所得者に有利だ。これは昔から財務省が提案しているが、ネーミングがわかりにくい。これはフリードマンが60年前に提案したもので、彼は負の所得税(negative income tax)と呼んだ。

これは図2のように所得税から定額(定率でもよい)で税を還付し、税を払っていない人には還付額と同じ給付金を出すシンプルな制度である。生活保護と違って、働くと所得が上がる。アメリカではEITC(勤労所得税額控除)と呼び、イギリスやカナダにも同様の制度がある。これにはいろいろな方法があるが、立民のいうような定額控除だと、次のようになる。

図2 負の所得税

たとえば負の所得税で毎月7万円の税を全国民に還付し、非課税世帯には7万円の給付金を出すと、最低保障額が年84万円のベーシックインカムになる。この場合は

84万円×1.25億人=100兆円

という膨大な財源が必要になる。年金受給者を除外した勤労税額控除では、対象は約8000万人になるので約56兆円。それでもこんな巨額の財源を出すのは大変である。

減税の財源は人的控除と年金控除を廃止すればいい

フリードマンの提案した負の所得税では、公的年金を廃止することになっているが、これは政治的に不可能なので、年金の既得権を認めて再分配すると、どれぐらい分配できるだろうか。

大事なのは、最低所得を保障すれば、生活保護を廃止できるという点だ。勤労税額控除は労働所得にかかるので、生活保護と違って働いたら給付を止められることもなく、所得は上がる。これで生活保護4兆円が財源になる。

最大の財源は所得控除にある。これは上に書いたように控除額ベースで150兆円、税額はその25%と考えると38兆円である。中でも基礎控除などの人的控除40兆円と年金控除12兆円を削減すると、税額で13兆円の財源が出る。これと生活保護を廃止すると、

(13兆円+4兆円)÷8000万人=21万円

だから、年額約21万円が還付できる。これは増減税同額で、既存の年金制度などの既得権は侵害しない。ほとんどの人の生活保障には十分だろう。障害者など働けない人には、特別給付金を出せばいい。

所得控除には既得権も大きいので政治的には容易ではないが、税額控除は規模を縮小すれば合意できる。その意味では(よくも悪くも)抜本改革ではないので、高所得者には還付しないで最低保障額を増やすなどチューニングすれば、政治的にも実現可能だろう。