お金の問題は何時どこでも気になる話題の一つであります。特に第三者どころか身内にすらなかなか相談できないのが相続です。自分の財産がいくらあるか人には開示したくないもので相談しにくいことはあるでしょう。またご夫婦であれば片方が無くなった際、一次相続の場合、相続税の控除が1億6千万円まである為、相続税で悩ましいことになるケースが少ないでしょう。いわゆる相続税問題はその片方の方もお亡くなりになる二次相続の際に頭痛の種となります。
では老齢のご夫婦がともにお亡くなりになるのは何時でしょうか?2023年の平均寿命のデータは男性81.09歳、女性87.14歳です。ところがこれは平均の話であり、若くして病気などでお亡くなりになる方も含まれています。実際にお亡くなりになる年齢が一番多いのは男性88歳、女性93歳です。これがポイントです。
仮に女性の93歳をベースに考えるとそのお子さんが28歳の時に生まれたとして子供は65歳です。つまり子供も既にリタイアするような年齢であり、その頃に二次相続しても「何に使うか?」という問題が生じるのです。
もう一つの疑問はリタイア後は年金と手持ちの貯金の生活で資産の取り崩しの生活になるのか、という点です。日経の記事「増える『老老相続』資産滞留、相続人の半数が60歳以上 若年層は負債増、偏り強まる」の中にこんなくだりがあります。「貯蓄残高は高齢者で上昇傾向だ。23年の貯蓄残高を世代別でみると70歳以上は前年比3.8%増の2503万円だった。全世代の平均は0.2%増の1904万円で、高齢者の上昇率のほうが高い」。
平たく言うと手持ちの資産の運用、ないし不動産などの値上がりで比較的資産が多い高齢者の方がリッチになるペースが速いということです。もちろん平均の話なので貯金がない方にとってどうでもよい話かもしれません。しかし、不動産をお持ちの方はこの10年で場所によりずいぶん上がっているのです。「現金はないけれど知らぬ間の資産家」という方は結構いらっしゃるのです。
それら高齢者が積み上げた資産が第二次相続で60代半ばの子供に相続されるときが問題です。つまり子供が何人いるかであります。今、60代半ばに差し掛かる人はいわゆる「核家族」の上に一人っ子時代がいよいよ始まったころです。兄弟がたくさんいる家庭がどんどん減り始める頃です。ということは第二次相続の被対象者は1人、ないし2人であるわけです。
相続税の控除は3000万円プラス法定相続人1人当たり600万円です。仮にひとりっ子なら3600万円、2人でも4200万円です。では二次相続の際、いくら相続するのか、三菱UFJ関連会社が調査した資料によると2018年が2114万円、2020年に3273万円に膨れ上がっているのです。2年間でそんなに増えることはいくら何でもないのでデータのぶれが大きく実態が分かりにくいのでしょう。注目しているのは2020年の中央値が1600万円なのです。なのに平均がその2倍の3273万円ということは多額の相続をしている方が多くいて、その金額が平均値を一気に引き上げていると言えるのです。
最大の疑問は60歳台半ばにして資産が急増してもどうするかであります。人の生活テンポや金銭感覚は小さい時に獲得する習性です。その上、一定年齢になるとどうしても消費力は落ちます。食も細くなるし、そんなに頻繁に出かけません。旅行の回数も減り、服飾へのこだわりも減ってきます。つまり突然多額の相続をしてもその使い道に困る、これが流れだと思います。
多くのケースでは「それならとりあえず銀行に入れておくか」「株式投資でもしようか」になり資産のフリーズ(凍結化)となり、それが次の世代につながることになるのでしょう。その場合、相続税でしっかり搾り上げられます。これはもったいないわけです。
お前なら何か考えがあるか、と言われたら「はい」と答えます。政府が公認する指定寄付先に相続資産を死後に寄贈する旨が遺言等で明示され実際に寄贈された時点でその相当額が相続税から控除されるようにするのはどうでしょうか。そうすれば一方的に財務省に吸い上げられるのではなく、自分の遺産を自分の意思で配分することができるのです。もちろん、それは相続する身内の人にとって「ふざけるな」という怒りを買うケースも当然あり得ます。しかし、高額の相続ほど被相続人は無意味なお金を引き継ぐことになる場合が多いのです。ならば社会に還元できる仕組みを作るべきでしょう。
お金は天下の回り物という言葉があります。本来の意味は金持ちのお金はずっとそこにあるわけではないという趣旨ですが、敢えてお金を天下(=社会)で回すという発想にしてもよいでしょう。ふるさと納税がこれだけポピュラーになる国です。日本にも寄付という考え方を根付かせる時が来たと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月27日の記事より転載させていただきました。