イスラエル、UNRWAの活動を禁止:パレスチナ人への支援をどうするか

パレスチナ自治区のガザ地区を2007年以来実効支配しているイスラム過激派テロ組織「ハマス」が昨年10月7日、イスラエルとの境界網を破り、近くで開催されていた音楽祭を襲撃し、キブツ(集団農園)に侵攻して1200人以上のユダヤ人を虐殺し、250人以上を人質にしたテロ事件が報じられると、世界はその残虐性に衝撃を受け、ユダヤ人犠牲者に同情心や連帯感が寄せられたが、時間が経過するにつれてその同情心、連帯感は薄れ、中東紛争でこれまでよく見られた「加害者」と「被害者」の逆転現象が起き、イスラエル批判が高まってきた。

パレスチナ難民の子供たち(UNRWA公式サイトから)

ネタニヤフ首相は戦闘では「ハマスの壊滅」を目標に掲げてきたが、ハマスのガザ区最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏の殺害(10月17日)などを通じ、その目標はほぼ達成し、イスラエル軍は現在、レバノンのイスラム教シーア派テロ組織「ヒスボラ」の壊滅を新たな軍事目標としてきた。

ところで、イスラエルは「10・7奇襲テロ事件」に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の少なくとも12人が直接関与していたと指摘、それを受けてUNRWAに支援金を拠出してきた米国、ドイツ、日本などが次々と支援金を一時停止した(時間の経過と共に、日本を含む西側諸国で支援を再開する国が出てきた)。

UNRWAはガザ区に約1万3000人の職員を抱えているが、その大部分がパレスチナ人だ。そしてパレスチナ人職員の10%以上がハマスやイスラム聖戦と関係がある。イスラエルのネタニヤフ首相は「ガザ戦争が終われば、UNRWAは解体だ」と表明してきた。

そのような中で、イスラエル議会(クネセト)は28日、UNRWAの活動を来年からイスラエル国内では禁止する法案を可決した。議会(120議席)では、92人の与野党の議員が賛成票を投じ、アラブ系議員が反対しただけだ。外電によると、新しい法律が施行されると、イスラエル当局はこの組織との接触を一切禁止する予定であり、法案の公布から90日以内に実行される。なお、当初予定されていたUNRWAをテロ組織として公式に認定する条項は、クネセトの議事日程に上がった二つの法案には含まれていなかった。

この結果、UNRWAの活動は大幅に制限される。1967年にイスラエルが併合した東エルサレムも禁止対象に含まれている。特に、紛争の続くガザ地区においては、UNRWAの支援を頼りにする約200万人の住民にとって大きな影響が懸念されている。

イスラエル側の決定に対し、UNRWAのフィリップ・ラザリ―二事務局長は28日、公式のXで、「今晩のイスラエル議会によるUNRWAに対する投票は前例のないものであり、危険な前例となる。それは国連憲章に反対し、国際法に基づくイスラエル国の義務に違反している」、「これらの法案は、特に人々が1年以上地獄のような状況を経験しているガザでは、パレスチナ人の苦しみをさらに悪化させるだけだ。現地の65万人以上の少年少女が教育を受けられなくなり、全世代の子供たちが危険にさらされることになる」と述べた。

国連のグテーレス事務総長や米国は、事前にこの法案に反対を表明した。ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、オーストラリア、日本、韓国の外相たちは、共同声明でイスラエル政府に対して国際的な義務を果たすよう強く求めた。

イスラエル側のUNRWA解体論にはそれなりの理由はある。イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ難民の救済を目的としてUNRWAが創設された。そしてハマスはガザ区でパレスチナ人に対して食糧や医療の提供のほか、学校教育まで支援してきたが、ガザ区の学校教育ではイスラム教徒のテロは美化され、イスラエルを悪者にする憎悪に満ちたコンテンツがカリキュラムとなっている。すなわち、米国やドイツ、日本からの支援金でガザ区でテロ組織ハマスの予備軍が育てられているわけだ。UNRWAの職員がハマスのテロ奇襲に関与していたことが判明し、イスラエル側のUNRWA解体要求は一層、強まっていったわけだ。

一方、国連側や人権擁護団体はUNRWAの職員がテロに関与していたという事実より、困窮下にあるパレスチナ人に食糧や医療品などを支援してきたUNRWAの職員がいなくなれば、パレスチナ人は生存できなくなるといった危機感のほうが強い。眼前で苦しむパレスチナ人の姿、負傷して苦しむ子供たちの姿を目撃すれば、欧米のメディアを含む多くの人権団体がイスラエル軍の軍事活動に対して批判的になるのは理解できる。

参考までに、1948年の国連総会決議194の第11条には、「パレスチナ難民の故郷への帰還の権利」が明記されている。イスラエルはパレスチナ難民の帰還の権利を拒否しているが、1949年に創設されたUNRWAはウェブサイトで、「UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)とは異なり、出身国への帰還を含む難民に対する永続的な解決策を模索する」と述べている。イスラエルがUNRWAに対し批判的なのは、UNRWAがパレスチナ難民の帰還の権利を認めていることもある。

イスラエル軍の軍事攻勢が終わった後、ガザを如何に統治するかは現時点では不明だ。UNRWAの今後の役割も不確かとなった。問題は、破壊されたガザに住むパレスチナ人たちの今後だ。ガザは破壊され、4万3000人余りのパレスチナ住民が犠牲となった。「ハマスの奇襲テロ」、そして「イスラエル軍の報復攻撃」は余りにも多くの犠牲をもたらした。「戦いには勝利者はない。敗者だけだ」というが、ガザの現状はその実例だ。

最後に、私見を少し述べたい。UNRWAの活動が禁止された場合、パレスチナ人への支援をどうするかだ。そこでアラブ圏が主導して「ガザ奉仕活動隊」を創設する。そのメンバーはアラブ語ができ、イスラエと外交関係を有する国出身者(例・ヨルダンやエジプト)から優先的に募集する。雇用者は国連だ。希望者は1年、2年の契約を結んでガザのパレスチナ人を支援し、医療、学校を運営する。参加者の能力、キャリアによって給料は変わる。失業中の若くて優秀なアラブ人が参加すれば、出身国の失業対策ともなるはずだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。