日本企業のナスダック上場は「やらない勇気」も大切

アメリカのナスダック市場への上場を目指す経営者が私の周りに増えています。そんな複数の会社に私も株主として名を連ねさせてもらっています。

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ご存知の通り、ナスダック市場はニューヨーク証券取引所と並ぶアメリカのメジャーな株式売買プラットフォームでテクノロジー系の企業が多く上場しています。

その中には日本でもお馴染みのアップル、マイクロソフト、エヌビディアなどの世界的大企業も含まれます。

野球に例えれば、日本の取引所が日本のプロ野球ならばナスダックはメジャーリーグです。経営者にとっては憧れであることは間違えありません。

しかも、アメリカの株式市場は、東京証券取引所等と比べ、上場審査もスピーディーで上場にかかる時間も短くなります。また、売上ゼロの会社でも上場できるような柔軟性もあります。

日本では、内部統制などの構築や2年分の会計監査が求められ、上場までに最低3年はかかるとされていますが、ナスダックは外国企業への優遇措置があり、半分程度の期間で上場までたどり着けます。

良いことづくめのように見えますが、上場後は厳しいルールが課せられます。

国内市場の場合、一旦上場してしまえば上場廃止にはなかなかなりませんが、ナスダックの場合は条件を満たさないと上場廃止になり撤退させられます。

例えば、株価が1ドルを割り込む状態が30日続けば警告を受け、それでも株価が上がらなければ上場廃止になります。

また、株価維持のためには投資家へのIR活動によって経営への理解を深めてもらい、中長期で保有してくれる機関投資家を確保することも重要です。企業としての成長戦略を描けなければ、投資家からの資金を集めることができません。

これまで多くの日本企業がナスダック上場を果たしましたが、上場廃止になってアメリカ証券市場から撤退した会社も少なくありません。

良く知られる例では、外食チェーンの「いきなり!ステーキ」で知られるペッパーフードサービスや落合陽一氏がCEOであることで話題となったピクシーダストテクノロジーズなどが上場廃止となっています。

投資家からすると、せっかく上場したとしても株価が低迷し上場廃止になってしまえば投資リターンは期待できません

ナスダック市場で上場できること自体が選ばれた企業にしかできない凄いことだと思いますが、「上場ゴール」ではなくその先まで見据えた経営を実現して、応援している投資家に報いてほしいと思います。

株式市場のメジャーリーグにチャレンジする勇気は素晴らしいかもしれませんが、入団しても活躍できる絵が描けないなら無理をしてまで行かない。そんな「やらない勇気」も大切です。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。