第二次トランプ政権の誕生
日本時間11月6日午後、日本の識者と言われる人々の予想はことごとくハズレて、トランプ大統領が誕生した。
意識高い系リベラルな識者は、単に自分の願望を述べていたに過ぎず、現実は残酷にも彼らの願いを断ち切ってしまった。曰く、これで世界はより一層、混迷の時代に突入するとお通夜状態だ。
世界のリーダーであるアメリカがリベラル政権を経て自国第一主義に回帰することで、ウクライナ支援もイスラエル支援も行われなくなり、親中政権が誕生することで中国が台湾侵攻するのを許すことになると警戒している。つまりトランプ新大統領は、リベラルからも保守からも警戒されていることになる。
トランプは『MAKE AMERICA GREAT AGAIN』を繰り返し、自国第一主義へと国民を先導する。アメリカ国内の分断は本当に深刻で、不法移民を含む野放図な移民政策を推進してきた民主党政権の遺産は、世論を二分しただけのことだ。それに憤っていたのが、都市部以外に住まう旧来のアメリカ国民であり、実はアフリカ系アメリカ人も現在の大量に溢れかえる不法移民に辟易しているのだ。
好調なアメリカ経済は、近隣のラテン系移民を呼び込むことになり、そのラテン系移民が、実はアメリカ社会の底辺を支えていることもまた事実だ。だが、今のアメリカ社会の分断の背景には、不法移民を含む移民政策そのものに対しての過度な保護政策がある。加えて、再生可能エネルギー推進のように、アメリカ社会全体のインフレを呼び込む政策がある。
確かにアメリカ経済は好調ではあるが、一方、新型コロナ感染等、世界経済の成長鈍化の要因が大きく、反動は世界全体にインフレを呼び込んでいて、アメリカ社会も例外ではない。そして、ロシアによるウクライナ侵攻がエネルギー市場全体の不安定さの要因となり、失速した中国経済は、世界的な需要過多と反面中国国内の消費失速を招いている。
そもそも中国経済の指標はどれもアテにはならない。実態経済はマイナス成長に陥っている為、輸出に頼る中国は輸出品目もデフレに陥っている。供給過剰な製造業が鈍化することで、中国は国際社会での立場を悪化させているのだ。
アメリカ経済は消費によって回っているので、莫大な輸入品が必要になる。その大消費社会のアメリカを支えてきたのが、中国だ。勿論、今でもそれは変わらない。最近ではやり方が巧妙になり、以前はアメリカの業者が中国から物を仕入れていたが今では華僑がアメリカで法人設立してアメリカ企業に成りすまして中国の製品を大量にアメリカに送り込んでいる。
アメリカの企業で物を買ったはずなのに、商品は中国から直輸入で届く。ところが、バイデン政権もトランプ前政権も、中国の覇権主義に業を煮やし、中国製品への関税をかけており、更に関税額を増すと中国を脅している。
それを恐れて第三国のペーパーカンパニーを経由してアメリカに商品を送ることもやってるようだが、そんなことをしたら、莫大な送料負担が増える可能性があり、中国国内の過剰生産品はアップアップの状態で行き場を失いつつある。
EU諸国は中国との経済的なつながりが強い国が多いが、ロシアのウクライナ侵攻が影響し、ウクライナのNATO入りが協議されている中、ロシアを支援していると言われる中国の製品に対しては、アメリカ主導で経済制裁に近いやり方を検討したりしている。
何より、中国が最も恐れているのが、香港ドルと米ドルのペッグ問題。これは普通に考えればあり得ないことなのだが、もし、中国共産党が台湾に侵攻したり、これ以上太平洋の島嶼国や、最悪は尖閣諸島を奪いに来たら、アメリカは戦わずして勝つ方法として、真っ先に香港ドルと米ドルのペッグを止めるだろう。
そんなバカなことが起きるわけないと言う人もいるだろうが、ロシアがウクライナに侵攻したように、イスラエルがイランを含む周辺国と第6次中東戦争の引き金を引きそうな深刻な事態になったり、今の国際社会は、何が起きるか分からない。
トランプ政権は親中ではない
また自国第一主義のトランプは親中だと言う誤った解釈をしている人もいるが、これは大きな間違い。トランプは親中などではない。中国は相手にしていないというのが本当だろう。
アメリカの対中戦略が変化したのは、オバマ元大統領の頃からと言われている。中国のやりたい放題にやらせていたら、いつの間にかウォルマートやターゲットの商品が中国製品に埋め尽くされていた。アメリカの製造業の危機を憂えたオバマ元大統領が、徐々に対中強硬戦略に切り替えたと言われている。
そしてついに第一次トランプ政権の時、かの有名な通商法301条に基づき、追加関税を実施した。
トランプは大統領就任後、更に追加関税を設けると発表したバイデン政権の政策を変えるとは一言も言ってない。それどころが、同盟国日本における中国脅威論を米軍に置き換え、太平洋諸国の平和と安定の意味から、軍備増強を続ける中国に対して、太平洋における米軍を増強すると共に、経済的な中国への依存度を抑えると明言している。
トランプの外交姿勢は実にシンプルで、余計な喧嘩はしないが、いつ喧嘩になってもいいような備えはしておくという考え方だ。
中国への依存度を下げるとなると、台湾における半導体技術がリスクになる。だから、九州と北海道に最先端の半導体工場が出来たことは、大きな意味があるし、トランプがこれを大事にしないわけがない。何より、最先端の半導体は、世界のごく限られた国でしか生産することができない。それが最強の同盟国である日本に出来たことは、非常に大きな意味を持つ。
実務重視のトランプは、台湾への依存度が下がっても、同盟国日本の半導体はなんとしても守ろうとするだろう。そうしなければ、アメリカ経済も困るからだ。ましてやアメリカの軍事力を重要視するトランプにとって、戦略物資の半導体技術は基幹どころか最重要品目。その意味で、中国を牽制する意味でも同盟国の半導体工場は守らなければならない。
では、ビジネスマン出身のトランプ大統領を分析する上で、要となる見方はどこか?
国際政治学者の三浦瑠麗氏は、第一次トランプ政権誕生のおり、以下のように分析している。
トランプ現象とは、その本質において、保守的なレトリックで中道の経済政策を語ることなのです。それによって、伝統的な共和党支持層を取り込みつつ、新しい有権者の獲得に成功したわけです。辻褄が合わないところも、一貫性がないところもあるけれど、保守的なのはレトリックであって政策ではありません。エリートのほとんどは、この点をいまだに理解していません。トランプ氏について、移民排斥、女性蔑視、イスラム恐怖症、マイノリティー軽視などの過激発言が注目されてきましたが、トランプ氏は同時に、高齢者福祉は不可侵であり、公共事業の大盤振る舞い、一部の投資所得への増税を公約しています。これは、「小さな政府」が金科玉条の従来型の共和党候補から出てきません。トランプ現象を、白人貧困層の不満の捌け口に過ぎないと切り捨ててきたエリートは、この点は見誤っているのです。事実、トランプは白人中上位層からも幅広い支持を得ています。
この指摘は実に的確だと思う。
■
以後、
・第二次トランプ政権に足りないもの
続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。