マスメディア権力によって情報が隠蔽され、有権者の判断が歪められた問題
野村修也弁護士「知事に流れ着いた文書の取扱いは公益通報者保護法に書いてない」
兵庫県斎藤知事や県職員に関する怪文書が県民局長によってばら撒かれていた事案に関し*1、野村修也弁護士が「知事に流れ着いた文書の取扱いは公益通報者保護法に書いていない」旨の発言をしたTV番組での動画の拡散を受けて、11月7日に本人がXで詳細説明しました。
「役務提供先等に対する公益通報」、つまりは内部通報についての義務を定めたのが公益通報者保護法11条2項の体制整備義務であるという、法令解釈を述べています。
告発文書は兵庫県斎藤知事の手元に届いた際には匿名どころか通報者との接点すらない
当該告発文書は、公益通報者保護法上の「通報」行為の事実と、文書の中身が「通報」となる実質的内容に欠けているものでした。
「通報」の事実が無かったことについては、文書入手から懲戒処分までの時系列が語られた知事記者会見(2024年8月7日(水曜日))が詳しいのでそちらを読むことをお勧めしますが、知事側は「民間人」から文書を入手したと語っています。
この話が本当か?はともかく*2、県民局長から県の通報窓口や知事部局に対して送り付けられたという形跡が無く、それ以前から県の庁舎内で出回っていた可能性もあります。*3
また、兵庫県警察においても、3月15日付で当該文書を把握したが、当該文書を公益通報として受理しておらず、一般的な情報提供として扱っているとしていました。*4*5
内部通報も無ければ、外部通報も無いことに。
つまり、兵庫県斎藤知事の手元に届いた際には匿名どころか、【通報者との接点すらない】状況でした。
通常は、何らかの連絡手段を伝えて必要な情報提供ができるようにするのが制度が想定している運用です。だってそうですよね?違法な行為の実態を公にして少なくとも当該行為の停止を願うのが公益通報の趣旨なんですから。*6
「通報」の実質的内容に欠ける怪文書:他の職員への誹謗中傷もある「不正な目的」文書
以下で当該告発文書の記述を項目ごとに具体的に精査していますが、「通報」の実質的内容に欠ける怪文書:他の職員への誹謗中傷もある「不正な目的」文書と言えます。
これは文書到達の時点で文面に存在している記述から言えるものなので、客観性に欠けることの無い判断です。「真実相当性」に焦点を当てるとこの点が隠れてしまいます。
当該文書には、証拠書類が全く添付されていません。これでは詳細を調査して実態解明しようにも、手段がありません。だからこそ通報者に記載されている事実関係を証明する証拠やその確定に資する聞き込み、他の証言者の存在を聴取する必要があるのですが、匿名どころか接点がないという本件の最重要な特徴がそれを不可能にさせています。*7
それゆえに文書作成者の特定=探索が必須なわけです。
探索禁止義務の話になるとしても、指針には探索禁止の例外が書かれており、本件はそれに該当することになります。
公益通報者保護法11条2項の文言の法令解釈に反する消費者庁の指針と指針の解説での探索禁止
公益通報者保護法自体は、こうした解釈を前提に立法されたことは明らか。指針で法律は読み替えられたと主張する人がいるが、行政が立法を覆すことを認めるべきではない。この法制度の建て付けは良くないが、だからといって、法律で命じられていないことをしなかった人を「違法」者扱いすべきではない。
— 野村修也 (@NomuraShuya) November 7, 2024
次に、野村修也弁護士は「指針で法律は読み替えられたと主張する人がいるが、行政が立法を覆すことを認めるべきではない」とも言っています。
これは何のことか?
弊ブログで9月24日時点で指摘した、この喧騒の「もう一人の犯人」、消費者庁の指針と指針の解釈のことです。
公益通報者保護法11条2項の義務は、内部通報に関してのものであるとしか解釈できないもので、それは法改正に携わった弁護士らが書いた解説書や、消費者庁による法11条2項に関する指針とその解説の議論の当初の認識ではそうなっていました。
消費者庁の議論では当初「※指針の対象となる通報は「事業者内部」への「公益通報」に限られており、その他の通報は本指針の対象とはならない」と明記されていました。
当該部分は、事業者に義務を負わせる規制項目であり、内閣総理大臣が報告の徴収並びに助言、指導及び勧告を求めることができ、違反があると認めるときは事業者名の公表までできるものです。
「事業者」とは、兵庫県斎藤知事の事案では県ですが、民間人の中小企業も該当するものです。公益通報制度が複雑であることにより企業に過剰な負担が発生していることを大企業のコンプライアス部局ですら訴えています。
そのような部分を、国民代表たる立法府の国会議員によって可決成立した法律を超えて、ごく一部の者らによる閉じた空間での議論で捻じ曲げる運用に決めてしまってよいわけがありません。
「国会軽視」と言われることがありますが、まさにそうした非難が妥当する話です。
「真実相当性」に焦点を当てるマスメディアのアジェンダセッティングに引きずられた言論空間
以上の話は、「真実相当性」は関係ありません。
公益通報者保護法2条の話が中心であり*8、3条2号・3号の話ではありません。文書が届いたその時点での判断基底・判断資料により評価可能な事柄です。
「真実相当性」に焦点を当てることは、マスメディアのアジェンダセッティングに引きずられた言論です。それによって「文書が届いた時点で真実相当性判断を通報対象者である知事本人が判断するな!外形的公平性に欠けているだろう!」という方向に誘導されてしまっているのが現状です。
本件は公益通報者保護法の観点が他の政治的論点のために付随的に持ち出された感はありますが、それを除けば、【マスメディア権力によって情報が隠蔽され、有権者の判断が歪められた問題】であると言えます。
*1:マスメディアにおいては「公益通報された告発文書に基づいて知事側から犯人探しが為されて懲戒処分までされた違法行為があった事件」のように論じられているが、そんな実態は無い。
*2:実は部下が入手していたとかいう可能性を疑われるのは仕方が無いだろう。
*3:他、今回の内容ではない知事に関する怪文書が以前から出回っていた。
*4:知事告発文書、兵庫県警にも届く 「法と証拠に基づいて必要な活動行う」と刑事部長 – 産経ニュース
*5:県民局長の告発文書、県警「公益通報として受理せず」 内容や匿名を総合的に考慮|社会|神戸新聞NEXT
*6:「通報」には「是正を求める意思」は不要と解されているが。
*7:「公益通報」に該当するためには証拠資料の添付は求められないが、事態の推移として公益通報性を否定する判断材料として何らの証拠も無い事は考慮できる。
*8:探索禁止は11条の話。
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。