「良い残業」と「悪い残業」の違い

黒坂岳央です。

昨今、残業という言葉にアレルギー反応を示す人が非常に多いと感じる。

「今どき、社員を残業させる会社はダメ」
「残業が多い人は仕事ができない」

といった話がよく聞こえてくる。しかし、批判を恐れずに言えば残業に対してただただダメ出しをするのは、労働者側の視点でしか考えていない単眼思考に感じる。

筆者は世の中には良い残業、悪い残業の2種類があると考えており、前者はむしろできるだけやるのが良いと思っている。論理的根拠を述べたい。

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悪い残業とは?

悪い残業を一言でいうと、残業代が時間単価より高いという構図で起きるものである。

筆者もいろんな会社勤務経験があるのでわかるのだが、頑張っている姿勢PRとしてのパフォーマンス残業が存在することを知っている。転職時に告げられる想定年収が、残業を目一杯やって到達する金額に設定されており、基本的に残業が前提で働くような会社である。

これが企業の成長段階にあって、イケイケドンドンの勢いで必然的に業務量が増えて残業が前提、ということなら何も問題はない。入社してくる社員も自分の成長を期待して、ハードワークを覚悟して来るからだ。問題はそうではなく、単に経営者や上司が「残業=仕事へのコミットメント」という古い価値観を持っていたり、年間を通じて人海戦術的に低い労働生産性をマンパワーだけで突破する経営をしている場合に起きる。

この場合は会社も社員も等しく不幸になる。経営者は労働生産性が低いので、割高な残業代という人件費がかさむことになり、そうした将来性のない職場からは優秀な人から去っていく。また、労働集約的な仕事は、一人抜けると残された社員全員に重圧がかかり、ドンドン人が抜けてしまう構造になってしまう。

また、働く側も生産性向上のスキルが身につかず、本当は仕事が終わっているのに帰りたくても周囲の目があって帰れないのは、人生の時間のムダになる。

こうした残業は完全に悪である。

良い残業とは?

翻って良い残業とは、悪い残業の真逆である。すなわち、残業代が時間単価より低いときに起きる。

これは繁忙期、いわゆるかき入れ時に起きる状況だ。たとえば、お客さんが大勢やってくる鉄火場では、多少割高な賃金を支払っても売上や売上単価が上がるなら会社はペイできる。

企業は繁忙期に残業しなくて済むように人員を充足すると、そうでない通常期に人あまりになって競合他社に敗北して会社は消える。そのため、通常期に残業をしない業務量を考えて人材を揃え、繁忙期は残業をして仕事の調整をするのが合理的な経営である。

また、日常業務を捌いた後に、未来につながる仕事を残業でこなしているのも「あり」という場面もある。筆者が勤務していた会社では、上司は残業時間でマクロの会計処理の自動化プログラミングをして、日常業務の労働生産性を高めることをやっていた。

こうした仕事は残業という先行投資をすることで、その後の業務効率を全体的に向上させる効果があるので、やる価値は高いのだ。つまり、労働生産性を高める施策をする活動時間に残業はありだと考えている。

シゴデキが残業する理由

筆者は小さなマンションにすし詰め状態で働くベンチャーから、東証一部上場企業で社員数1万人以上の企業まで働いてきたが、なんだかんだいって勢いがあって仕事ができる、いわゆるシゴデキほど残業が多かった。

これは一般論で言われる「仕事ができない人ほど残業が多い」という意見と反する。ざっくり下記の通り3分類に単純化してみた。

1.仕事ができない人…仕事が遅く効率が悪いから残業をする
2.普通の人…業務時間内に終わり残業なしで帰る
3.仕事ができる優秀な人…業務量が一般社員の何倍も多く抱え、その上で常に労働生産性向上を考えているため、結果として残業が多い

「優秀な人は残業しない」と主張する人は、大抵の場合「定常の作業をこなすワーカー」のことを言っている。だが作業に熟練すれば必然的に仕事は高速化するのが普通なので、その場合は「優秀な人」というより「ベテラン(熟練者)」という表現が正しいだろう。

「仕事ができる」とか「優秀な人」と評価するなら、未来の粗利を作ったり、労働生産性向上のための先行投資的な仕事をするという、普通の人にはなかなかできないクリエイティブな仕事をする人であると考えており、それにはどうやっても残業が発生するのだ。

自分は外資系企業で東大卒、海外MBAホルダーなどのビジネスマンとも働いた経験があるが、彼らは単に目の前の流れ作業を捌くのではなく、ずっと改善を続けていた。とびきり優秀な人でも残業は発生するのだ。また、彼らの特徴は仕事がものすごく効率的で正確というだけでなく、体力も総じて高かった。毎日夜中過ぎまで残業をするのに、翌朝誰よりも早く出社して仕事をしていたりする。

一方で、同じフロア内でも流れ作業のような定型的な仕事を捌く業務をやっている人は毎日残業せず帰っていった。この両者を見て「残業をする人は無能」などとは到底思えない。なぜなら仮に仕事を入れ替えたら結果は変わるからだ。優秀なビジネスマンに流れ作業を与えたら、彼らは残業無しで帰るだろうし、その逆に流れ作業者が業務効率改善の仕事をすればどれだけ残業をしても仕事を終えることができないだろう。

昨今、日本における労働環境は劇的に改善している。残業時間が厳しく制限されており、先進諸国の中で最も休日日数が多い。それがダメだとは言わないが、考えなしにとにかく残業を敵視するような価値観は正しいとは思わないのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。