私は此の「北尾吉孝日記」で『ウナギと日本人~「安値を求める時代は終わった」か~』(2014年7月19日)と題し、次のように述べたことがあります――日経新聞にも『ウナギ、店に並んでいるのになぜ「絶滅の恐れ」』という記事がありましたが、「南の海で生まれ、海流に乗って日本や中国にたどり着き、川や湖で大きくなるとまた産卵のために海に帰るという複雑な一生を送る」とも言われるニホンウナギの生態に関しては、良く分からない所があると昔から言われています。
IUCN(国際自然保護連合、International Union for Conservation of Nature)が、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定してから10年半が経とうとしています。今尚「ウナギの生態は未解明の部分も多く、養鰻(ウナギの養殖)は乱獲や気候変動の影響等で漁獲量が減少し続ける天然の稚魚に100%依存しており、不漁の年はシラスウナギ(稚魚)の価格が高騰することが問題となってい」るようです。私は、欧州のように蒸すなどしたオードブルのスタイルは好まぬものの、蒲焼だけは食べたいと思い割合鰻屋に行く方です。
本年5月、株式会社新日本科学の代表取締役会長兼社長・永田良一さんより、都内で初となる上野での「人工生産鰻の試食会」に御招待を受けました。此の人工生産鰻とは、「鹿児島県沖永良部島の清浄な海水を用いて、卵の採取・受精、レプトセファルス(幼生)、シラスウナギを経て、人工的に生産した鰻」を言います。これは稚魚からでなく、「卵から育てた鰻」であることが革新的です。
招待客30人位の前で行われた料理人による御講評に拠れば、先ず、細長いはずのウナギがずんぐりむっくりしていて見かけが悪く、次に、さばこうにも皮が物凄く固くて中々さばけずに、「大丈夫かな」と思いつつ開き焼いてみたら、出来上がりは柔らかかった、ということです。私も実際に食し、普通の鰻とそんなに変わらず美味しいと思いました。永田さん曰く、「これまでは海水でシラスウナギを親ウナギにまで育てていましたが、次のステージでは淡水で育てることができるかを検証します。その上で再び大規模な試食会を開き、皆様にとってどういう味がするのか、調理師が料理してどうなのか、そういったことを調べていく」、とのことです。
一昨年、農林水産省は「2050年に養鰻の人工種苗(しゅびょう:養殖に使用される稚魚のこと)比率100%にすることを目標」に掲げました。2024年の「丑の日」は過ぎ去りましたが私は改めて、あの卵から育てた鰻は「十分いける」との認識を持った次第です。上記の通り現在、養鰻の種苗として人工生産シラスウナギは用いられていませんが、近い将来、その資源として活用され国産蒲焼「1000円」以下といった安値安定を求める時代に突入するのかもしれませんね。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2024年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。