公金運営組織の名前を出して選挙運動とか…
兵庫県市長会の市長有志22人が兵庫県知事選での稲村和美支持声明
県知事選、市長会有志22人が異例の稲村氏支持表明 「誹謗中傷や誤解広がり懸念」緊急的な対応強調|社会|神戸新聞NEXT
17日投開票の兵庫県知事選について、県内29市長でつくる市長会の有志22人が14日、無所属で立候補している前尼崎市長の稲村和美氏(52)を支持すると表明した。表明を呼びかけた蓬莱務・小野市長ら7人が同日、神戸市内で会見した。知事選の最中に複数の県内市長が特定の立候補者を支持する意向を表明するのは極めて異例。
稲村氏支持を表明したのはほかに、清元秀泰・姫路市長▽松本真・尼崎市長▽石井登志郎・西宮市長▽上崎勝規・洲本市長▽藤原保幸・伊丹市長▽谷口芳紀・相生市長▽岡田康裕・加古川市長▽山本実・たつの市長▽牟礼正稔・赤穂市長▽山崎晴恵・宝塚市長▽仲田一彦・三木市長▽都倉達殊・高砂市長▽越田謙治郎・川西市長▽高橋晴彦・加西市長▽林時彦・丹波市長▽守本憲弘・南あわじ市長▽藤岡勇・朝来市長▽門康彦・淡路市長▽福元晶三・宍粟市長▽岩根正・加東市長。
兵庫県市長会の市長有志22人が兵庫県知事選での稲村和美候補の支持をする声明を発出しました。声明文は以下となっています。
この件について評価していきます。
公選法で禁止されている公務員による地位利用による選挙運動?
公職選挙法
(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)
第百三十六条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員~以下省略~
本件の兵庫県の市長らの動きについて、「公選法で禁止されている公務員による地位利用による選挙運動にあたる」とする言説がSNSで観測されます。
が、これは無理です。
「その地位を利用して」とは、参議院選挙の手引 平成28年[本/雑誌] / 選挙制度研究会/編112-113によれば、「公務員等がその地位にあるがため特に選挙運動を効果的に行い得るような影響力又は便益を利用するという意味であり、その職務上の地位と選挙運動又は選挙運動類似行為が結びついて行われる場合をいう。」とされています。
なお、「推薦状に単に職、氏名を通常の方法で記載しただけでは、直ちに地位利用とは言えない」とも書かれています。
同様のことは 実務と研修のためのわかりやすい公職選挙法[本/雑誌] / 選挙制度研究会/編p189-192でも書かれています。
具体的な例としては、上掲の書籍にも書かれているような事が、各自治体HPで記述されています。
その地位を利用して」とはどんな場合か
職務上の影響力又は便益を用いて第三者に働きかけることをいい、例えば、次のような場合がこれにあたります。
- 補助金の交付、事業の許認可などの権限をもつ公務員が、外郭団体や請負業者に対し、その職務上の影響力を利用すること
- 公務員の内部関係において、上司が部下に対し、指揮命令権や人事権を利用して特定候補者への投票を勧誘すること
- 市役所の窓口で住民に接する職員、世論調査で各戸を訪ねる職員などが、これらの機会を利用して、職務に関連づけて住民に働きかけること
現職国会議員の選挙時の応援演説や内閣総理大臣名義での靖国神社参拝は…?
兵庫県の市長らの動きについて、「公務員による地位利用による選挙運動にあたるから公職選挙法違反!」と論じている者は、現職国会議員の選挙時の応援演説や内閣総理大臣名義での靖国神社参拝については、いったいどう思っているのでしょうか?
どちらも活動家が刑事告訴しては違法ではないとしています。
内閣総理大臣名義での靖国神社参拝は、同名義での記帳・献花をしています。この際は公用車で移動しています。玉串料や真榊の奉納は私費で行っています。
会見が県庁の会見室で行われていることをなぜか重視している人がSNSでは見られますが、これは県の財産・管理状況にあるのだから市長らはその権限は無く、利用申請したから使えているだけです。
声明文には公印も無く、それの発出のために公務所の手続を踏まないといけないということでもなく、他人に対して稲村氏への投票・支持を呼び掛けるものではなく、自身らが稲村氏への支持を表明するにとどまります。
公権力は何一つ使われていないわけで、これを「地位利用」とは決して言えません。
地方自治法上に定められている「全国市長会」(届け出が必要)のような法定組織ではなく、兵庫県内のものですから、形式上は私的団体・任意団体です。
ただし、単なる純粋な私的団体とは呼べない事情があります。
兵庫県市長会は市の負担金と県の補助金で運営:声明は22人の有志だが
兵庫県市長会は会則を見ると、運営費用は各加盟市の負担金と県補助金から成り立っているようです。
今回は29の市長のうち、22名の「市長会有志」の名義です。文書にも市長の名前が連名になっているので会全体の機関としての声明とは距離があります。
しかし、ならば「市長有志一同」で無いのは、なぜなのだろうか?
11時から会見だったということは、登庁前の非公務だとして、これにかかる費用は兵庫県市長会から出捐されたんだろうか?
本来的には、【兵庫県内市長有志】とすべきではなかったでしょうか?
兵庫県市長「会」有志とすると、各市と県の補助金で運営されてる所がその資金で声明を出したと見られるのは必然
これについては、別個の道義的責任・政治的責任が発生するのではないでしょうか?
「兵庫県市長会」名義を使った市長らは、斎藤元彦の権力者としての振舞いを批判できるのか?
斎藤元彦氏の知事辞任・再選のための出直し選挙に至った一連の騒動では、多次元の論点がありますが、その中でも「斎藤知事の権力者としての振舞い」が批判されてました。
したがって、違法ではないにしろ、兵庫県内の市長らが権力者としての振舞いとしておかしなことをしたというのは、そこにはその観点からの斎藤氏糾弾の正当性が存在しないということになります。
確かに声明文は稲村候補の支持表明に留まっており、斎藤氏を批判するものはありません。兵庫県知事選は、斎藤氏以外にも複数の方が立候補されています。
しかし、元々この選挙は政治的には「斎藤氏の出直しを認めるのかどうか?」が争点です。その中で市長らが殊更に特定候補の支持を表明することは、斎藤氏を否定するための政治的な動きと評価せざるを得ません。
その動きに費用が発生していなくとも、公金で運営される「兵庫県市長会」の名前を使ってやっていいことではないでしょう。
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。