ロシア・ウクライナ戦争における地獄の戦い:ドローンの今と未来(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷 昌敏

2022年から開始されたロシア・ウクライナ戦争において、ドローンの活躍が目覚ましい。

もともとドローンとは英語でオスの蜂を意味する「drone」を意味している。ドローンの飛行の音が蜂の飛んでいる音と似ているからという由来だ。

また、第二次世界大戦前の1915年から、イギリス軍で使用されていた射撃訓練用標的飛行機「クイーン・ビー」という名前から名付けられたという説もある。「クイーン・ビー」は無人で空中を飛行し、軍人たちが射撃訓練をしていた。クイーン・ビーを略すと「女王蜂」となる。その女王蜂が転じてオスの蜂「drone」と呼ばれるようになったとされる。

ドローンは、現在、各種産業、災害、警備、医療、軍事、生態調査などあらゆる分野で活用されている。例えば農業分野では人手不足や高齢化に伴い機体に農薬を載せ、効率よく農薬散布をすることに使われている。警備分野では一般的に防犯カメラや警備員の巡回などが主流だ。軍事用のドローンでは、兵士の安全を確保しながら敵地の偵察や攻撃ができる点で大きなメリットがあるとされている。

1. ウクライナの戦場におけるドローンの戦術と戦略

この戦争では、FPV(ファースト・パーソン・ビュー、「一人称視点」)ドローンと呼ばれる、ごく小型で安価なドローンが最も強力な兵器として使われている。

もともと民間のレース用に開発されたFPVは、操縦士が地上から操縦し、爆発物を積んで標的に突っ込ませることが多い。ウクライナ政府は2024年中にFPV100万台を製造する計画であり、これは欧州連合(EU)が昨年に提供した砲弾数の2倍の規模になる。

戦場でのドローン運用は、まずリアルタイムで操縦士のスクリーンに映像を送信できる高性能カメラを搭載した偵察ドローンを送りこむことから始まる。これにより、操縦士は上空から標的を探すことができる。

偵察ドローンの形やサイズはさまざまだ。最も普及している中国製の「DJIマビック」はプロペラが4つあるクアッドコプター型で、世界中で風景や結婚式などのイベントを撮影する際に使用されている。

前線より後方に拠点を置く専門部隊は、より大きな偵察ドローンを使用する。標的が見つかると、その位置情報が機密性の高い方法で司令部に伝達され、ロシア側の標的データをまとめたデジタル地図「クロピバ※)」上でも反映される仕組みになっている。

※)システム「クロピバ」は、戦場で各部隊がリアルタイムの情報を共有し、攻撃を効率化する。ドローンがとらえた標的のデータを即時に司令部や前線の砲兵部隊に送り、正確な砲撃に必要な計算を秒単位で終えるという。

FPVドローンは標的の場所に直行できるため、攻撃の正確性は他の武器に比べはるかに優れている。走行中の車両は攻撃をかわすことができる場合が多いが、ドローンならば追跡して命中することも可能だ。ただし攻撃の威力は、ドローンが搭載できる小さな弾頭よりも従来型の砲弾の方が格段に高い。

ウクライナ兵らは戦闘でドローンの使用機会が増えたことにより、戦車などの重機が前線からさらに数キロメートル離れた場所へ後退せざるを得なくなっていると話す。また、歩兵らはFPVシステムや爆弾投下型ドローンを最大の脅威として挙げた。いまや、夥しい数のドローンが空中を飛行しており、塹壕への行き来や補強作業が困難になっているという。

長期かつ範囲の広い戦闘で鍵となるのは「コスト」だ。つまり、標的を破壊する際に使用する資源は少なければ少ないほど良い。FPVドローンには爆弾投下型ドローンと同様、大砲の砲弾1つよりも価格が安く、より正確性が高いことが大きな強みだ。

2. 今後の展望

ドローン技術は著しく進化しており、 AIと機械学習の進歩により、ドローンは自律的に判断し、任務を遂行する能力が向上している。これにより、より複雑で危険な任務が可能となるが、反面、自動的に人間を殺傷することになり、ドローンによる集団殺戮が行われる可能性がある。

また、多数のドローンを協調して動かす「スウォーム」技術が進化しており、敵を圧倒する戦術が実現するようになる。多数のドローンが単一もしくは複数の標的に同時攻撃を行うならば、防御することは極めて困難になる。

ドローンは、現在でも視認されにくく、撃墜するのは難しいが、今後、ステルス技術が向上し、レーダーに検知されにくい設計が進み、新素材の採用やバッテリー技術の進化により、ドローンの飛行時間や耐久性の向上が実現すれば、敵の防衛システムを容易に突破できるようになるだろう。

こうした技術的進化によって、ドローンの低コスト化と高効率化が進み、小規模な国やテロ組織のような非国家主体も高性能な戦力を持つことができるようになる。テロリストが自国からはるかに離れた地域の戦場に気軽に参加し、遠隔操作や自動化された戦闘により、無差別テロを繰り返すようになれば、その取り締まりや防止は容易なことではない。

また、サイバー攻撃によって、敵対組織がドローンの操作を妨害するだけではなく、乗っ取って逆に攻撃することができる。こうしたサイバー攻撃を防止するためにはサイバーセキュリティの強化が求められるが、一般の住民地域や商業施設などの広い地域で、サイバー攻撃を防止することは極めて難しい。

今後、ドローン戦争は倫理的・法的な課題を引き起こし、国際法や戦争法の再検討が必要となる。例えば、ドローン攻撃は、単なる砲撃などに比べれば軍事目標に対して正確に攻撃ができる。だが、誤爆や非戦闘員の巻き添えは避けられず、非戦闘員の保護という国際人道法の原則が問われることになる。

また、ドローン戦争に関する国際法や国内法が十分に整備されていないため、法的なグレーゾーンが存在する。違法な行為や無責任な行動が横行する可能性があり、特にグローバルな無法集団、テロ組織などをどう規制するのか、どこの国が主体となって取り締まるのかなど課題は多い。

ドローン戦争は、今後の軍事戦略と国際安全保障に大きな影響を与えることになるだろう。

【参考資料】

  • 「ウクライナ『ドローン戦』で変貌する戦場」2024年3月26日、REUTERS

藤谷 昌敏
1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2024年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。