黒坂岳央です。
先日の会合においてちょっとした小競り合いが起きた。終わった後、「あの人、いつもわざわざ言わなくてもいいことを言う。何か病気か障害かもね」という人がいた。検索してみると同じように考える人は結構いるようで「病気」や「障害」といったサジェストが出てくる。
結論からいうと病気や障害の可能性もゼロではないが、多くの場合はこのような症状は老化現象である。誰もが経験した「それ言う必要ある?」について取り上げたい。
失言をする病気や障害は存在する
すでに述べた通り、「それ言わなくてもいいでしょ」という失言をする病気や障害は一応ある。
ADHDは言葉がうまく使えない症例があり、アスペルガー症候群はいわゆる空気読めない症状がある。また、稀な事例としてトゥレット症は突然、挑発的な言葉が勝手に出てしまうもので「汚言症」とも呼ばれる。
だがこれらはすべて、生まれつきのもので多くの場面で当てはまるものではないだろう。なぜなら元々そうした症状を持つ場合なら、事前に周囲も理解を示すからだ。
「それ言う必要ある?」というものの多くは、途中からそのような失言が増えていったケースが多いのだ。
脳の老化で失言が増える
筆者は昔から脳の機能性や老化について強い興味関心があり、心理学者や脳科学者の書いた書籍をたくさん読んできた。そこで得た知見は「あらゆる医師が口を揃えるのは、年を取ることで真っ先に衰えるのは”感情”」という事実である。
脳は年を取ると神経細胞が減少して萎縮する。ここでいう萎縮とは比喩表現ではなく、物理的に縮むのだ。しかし、記憶力の減退などが本格的に問題になるのは、萎縮を始めてかなり先のことだ。それよりも「感情」こそが圧倒的に早く老化する。
では感情が老化するとどうなるか?簡単にいうと感情のブレーキが効かなくなるのだ。駅員や店員に暴力を振るったり暴言を吐くのは多くが高齢者である。若い頃は誰しもイライラしてもそれを制御出来たのに、年を取ると不安やイライラを我慢するブレーキが弱まり、本能が全開に出てしまうのだ。
感じたそのままを脳内で編集をせず言葉に出してしまう理由は「このまま発言すると相手に良くない感情を抱かせ、信用を失うことで自分が損をする」という冷静な判断よりも早いからだ。
感情が湧き上がる→ブレーキ→言葉選び→適切な発言
というプロセスにおけるブレーキが弱まることで、思ったままの言葉が出てしまうというわけだ。
精神科医として著名な和田秀樹氏は「肉体や容姿の衰え以上に、真の老化とは前頭葉の衰えのことだ」といっている。前頭葉は感情に強く関与しており、感動がなくなって人生をつまらなく感じ、不安やイライラが増えていくのだ。
前頭葉の老化を止める方法
ではどうすれば前頭葉の衰えを止めることができるか?自分の知る高齢者経営者たちはクロスワードパズルや計算ドリルなどの脳トレで盛り上がっている。だが、残念ながら「すでにできることをなぞる」ということをしても前頭葉には効かない。
先ほど述べた通り、前頭葉は感情を司る器官である。ここを鍛えるには文字通り、感情を動かす体験をたくさんして鍛えるしかない。だが、人生経験を積んできた人にとって、これは言うは易く行うは難しである。手軽に手を出せるものはすでに手垢がついているので大した感動はない。かといって新しいことをするのは億劫に感じる。まさにこの「億劫に感じる新しいこと」をすることで前頭葉を鍛えることができるのだ。
個人的には起業や投資がいいと思っている。これらは誰にとっても強く感情が動く体験になる。
たとえばこれまでとはまったく違う分野で起業する。といっても、定年退職後に憧れのカフェや蕎麦屋を開業など大冒険は勧められない。失敗するとダメージが大きいので、もっと小さなスタートだ。たとえば電子工作や基盤の設計をしていた人が、「子供向けの電子工作教室」を開いてみるといったものだ。これなら社会的に価値があり、相手から喜ばれる仕事になる。
また、投資はリスクを伴うのでほとんどの人にとって感情を揺さぶる体験になる。もちろん、やる時はいきなり巨額の資金を投じるのではなく、小さく1000円で始めればいい。
ちなみにギャンブルも強烈に脳に効く。パチンコ好きのおばあちゃんを家族が無理やりやめさせた結果、一気に痴呆症状が噴出したという事例がある。このおばあちゃんの老化をギャンブルが食い止めていたことを考えると、実はリスクテイクは相当に脳に効果があるのだ。
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人間はまっさきに感情から老いる。そしてその感情の老化にとって最も悪いのは「同じことの繰り返し」なのだ。同じ仕事、同じ人間関係、同じ生活を続けていくと、ドンドン脳への刺激が乏しくなって感情が動かなくなり、そして衰えに衰えると失言が増えていく。そうならないためにも感情にビビッドな刺激を与える活動を勧めたい。
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