コンプガチャ通達、要するに反対。 --- 中村 伊知哉

アゴラ編集部

我が人生において、消費者庁という役所と接点ができるとは思いもしとらなんだ、です。

でもどうやら関わらざるを得ない事態。
コンプガチャのことですわ。

消費者庁が7月1日からコンプガチャを禁止する、ついてはパブコメを求むときた。ぼくは個人として初めてパブコメに自分の意見を提出しました。


消費者庁は、景品表示法第2条の「景品類」の定義に基づき、内閣総理大臣の告示でその種類を指定して、その提供を禁止する権限を有しています。今回は、その告示を解釈する「通達」を改正し、コンプガチャを含めることにより、コンプガチャを禁止しようとすることにしました。

本来、通達というのは行政機関の内部指令であり、官庁がやろうと思えばいつでも出せる文書なんですが、世間が騒いだからか、パブコメにかけることになったようです。

業界に問題はあります。自覚もあります。だから事前に水面下で消費者庁と話しつつ、自主規制で健全化を図ろうと動いていました。DeNAとGREEのように裁判を起こすほど熾烈な競合関係にありながら、業界の危機に対応して、連携する動きを見せていました。しかし消費者庁は規制の導入に動きました。業界の中には一方的な抜き打ちという見方もあります。

消費者庁と、経産省、総務省らのスタンスの違いも見えました。健全化への要請と、成長産業への期待との対立です。この問題に関心を持つ国会議員から消費者庁の行動への疑問も聞こえます。

実はこの法律は、公正取引委員会が所管していたものが2009年に消費者庁に移管されたのですが、「独立」行政委員会から政府本体に入ってきたという点が重要でして、公取DNAが霞ヶ関ムラに入ったのに公取DNAのまま行動を取ったと映ります。

政策論としては、成長産業を支援・育成するベクトルと、健全・安心を確保するベクトルとを調整することがポイントです。後者に関心が集まりすぎ、前者が無視されている状況なのですが、知財本部で「海外展開とネットワーク」の2本柱の成長戦略を担当する身としては、ソーシャル・コンテンツの国際競争力には大いに期待しているのです。何とか折り合いをつけてほしい。

業界としては、コンプガチャ規制やむなし、ということのようです。もちろん、規制される前に、まずい点は修正し、対応すべきは速やかに対応すべきです。

一方、そもそも景表法が禁止する「絵合わせ」は、子どもがハマりやい、本来の商品より景品が中心になってしまっている、という点が問題だが、コンプガチャのユーザは大人であり、景品は商品そのものではないかという正面からの批判もあります。これは業界からは正面切っていいにくい。
コンプガチャ規制は政策として誤っている」(田中辰男さん)

これに対し、私が提出した意見は、そうした規制の内容が適切かどうか、「景品類」に当たるのかどうか、に関するものもありますが、その前に下記の2点を指摘しました。

1 恣意性について
本件基準改正がパブコメに諮られた点は評価するが、本来こうした国民の権利義務を変更するものは行政内指針である「通達」の範囲を超えており、少なくとも告示改正を要すると考える。本来は法律に基づき政省令レベルとすべきではないか。

本件改正は業界が自主規制を進める中で持ち出されたものであり、業界からは「不意打ち」との声も聞く。行政の恣意性と不透明性は厳に避けるべきところ、消費者庁の内部文書で重要な規制が左右されるのは、社会経済に不安定をもたらし、日本市場に対する投資家の信頼も下げる。
(少なくとも国民の耳目を集める本件改正が事務レベルだけでなく閣僚の決裁を経る手続となっているかどうかも疑問のあるところである。)

公正取引委員会から所管が移った消費者庁に適した行政スタイルを検討するのがよいと考える。

2 国際性について
諸外国で敷かれていない規制を国内に適用する場合、特にオンラインに関するものの場合、海外の事業者が海外サーバで行うケースが増大し、消費者保護の観点からも、産業政策の観点からも効果が薄くなる(場合によっては逆効果となる)のではないか。国際的な観点からの整合性が求められるのではないか。

特に1番を問題視しておりまして、こういうのはヤメ官じゃないと言わないかもしれないなと思ったわけです。ぼくは役人時代、多くの通達に携わりました。地方の支局に対する指示ですが、手続としては係員が起案し、課長や担当局長のハンコを取れば、あとは官房総務課の補佐が決裁しておしまいです。

つまり通達は、省内の文書として担当局レベルで出せるものであって、公の目に触れることもなく(今回のパブコメは例外措置だと思います)、大臣はおろか政務3役にも事務次官にも知らされずに出される性格のものです。

国民(企業を含む)の権利義務に変更を加え、罰則もかかるような規制を今どきこうした手法で行うのは適切ではない。まして政治主導を標榜する民主党政権らしくないでしょう。

役所の1部局の胸先三寸で産業界の行方が大きく左右されるということでは、投資家は日本市場を信用しません。コンプガチャ規制やむなし、だとしても、同時にこの際、政府もこうした手法を見直すのがよいと思います。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年6月27日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。