”自称「独裁者」の橋下市長の暴走は続いている!” と言う学者らしくない挑発的な文章で始まる憲法学者の上脇教授の書かれた「橋下・大阪市長が市職員の政治活動を懲戒免職しても違憲!」と言うブログ記事を読んだ。
読み進める内に「すでに何度か書いているが、国家公務員であれ、地方公務員であれ、公務時間外に政治活動を行うことが自由であることは、人権保障としても、民主主義としても、当然のことである。
それを否定すれば、日本は民主主義国家ではないことになる。日本は、憲法で、民主主義国家を表明している、と解される。したがって、公務員が公務時間外に政治活動を行なった場合に、当該公務員に刑事罰を課すことは、憲法違反の人権侵害を行なっていることになる。このことは、刑事罰ではなく、行政の懲戒処分でも同じである。」と言う文章にぶつかった。
法律には素人の私が、憲法学者の上脇先生に挑戦するのも無謀だが、先生が何を根拠にこの様な断定をされたのかをお伺いしたい。
先生は「国家公務員であれ、地方公務員であれ、公務時間外に政治活動を行うことを否定すれば、日本は民主主義国家ではないことになる。」と主張されるが、果たしてそうであろうか?
先生のブログには「民主国家」の定義は示されていないので、先生と論議をする事は至難の業だが、先生が公務員の政治活動を大阪市以上に厳しく制限している米国やが英国を、民主国家だと認めるとすれば、「公務員の公務時間外の政治活動の制限をする橋下市長は反民主主義者」と言う断定は、足元から崩れる事になる。
米国には連邦法で定めた米国公務員の規則の適用基準を定めるだけでなく、その違反者には捜査権、検察権を持って取締りを行うOSC(Office of Special Counsel ―特定検察官房)と言う独立行政組織がある。
そのOSCは、公務員の政治活動を厳しく制限した「the Hatch Act ─ ハッチ法」 を解り易く説明したガイドラインを出している(詳しくはこちらをご参照頂きたい)。
このガイドラインに挙げられた、公務員の政治活動で禁止された主なものには、以下の項目がる。これは公務時間には関係なく「四六時中」禁止された活動である。
- 党派性の伴う選挙での応援・反対演説を含む全ての選挙運動
- 選挙運動用のビラ等の配布
- 政治的な集会や演説会の組織活動
- 政治的団体の幹部への就任
- 推薦候補依頼のビラの配布
- 選挙での、職務上の地位や影響力の行使
- 部下からの選挙資金集め
- 取引関係にある如何なる組織又は個人との政治的接触
- 政府の所有する地域内での全ての政治活動
- 公的に支給された服装をした全ての政治活動
- 公用車を使用した全ての政治活動
- 公的地位を巡っての党派性を持つ選挙での立候補
- 反ロビー活動法で制限された草の根ロビー活動
この様に、1939年に制定された公務員の政治活動を厳しく制限したハッチ法に対して、リベラル派が起こした憲法違反訴訟に対し連邦最高裁は「ハッチ法は憲法修正第一条で規定された言論の自由に背くものでは無い」との合憲判決を下したが、この判決が確立された前例とされてから久しい。
ハッチ法違反者への処罰も、30日間の停職から解雇まで明確に規定されており、橋下市長が同様の懲罰案を策定したからと言って「反民主」と断定するには無理がある。
ハッチ法は連邦法であるので、地方公務員にはこの法律は直接適用されないが、該当する地方公務員ならびにその活動に1ドルでも連邦補助金が使われていた場合は、ハッチ法の適用対象となり、連邦補助金がゼロの場合でも大抵の地方自治体はハッチ法に似た法律を持っている。
居住した事も無く,成文憲法も持たない英国の場合は良く知らないが、友人の英国人でケンブリッジ出身の弁護士に聞いたり、インターネットで検索した範囲では、米国に似た規制が昔から確立している様である。
米国で治安の維持に携わる公務員への規制はシビリアンコントロールの原則もあり政府活動は勿論、政府批判も一般公務員より遥かに厳しく制限されている。
公務員の時間外勤務の政治活動とは関係ないが、日本の学者が愛用する「権利、義務」と英米のそれの違いを示すエピソードの一例として、地方公務員である警官に期待される時間外義務(業務ではない)に触れて見たい。
地方分権の徹底した米国の場合は、各地方の法律で異なるが、Law Enforcement officers Safety Act (LEOSA)と言う武器携行の安全を定めた厳しいルールの下で、警官は勤務外でも武器の携行を認められ、非番でも治安維持に貢献することが求められている。
その為、休暇中に強盗犯を見つけ銃撃戦で殉職する巡査も毎年出る。日本であれば「労働強化」「サービス残業」「人権蹂躙」の批判が出そうなこの伝統が、「治安維持活動」に従う警官のプライドと国民の尊敬の源になっている事も否定できない。
以上の様に、上脇先生の主張が正しければ「英米両国」は非民主国家となり、「英米両国」が民主国家だとすれば上脇先生の断定は「流言飛語」に過ぎない事になる。
是非ともご回答、ご指導を賜りたいものである。
2012年6月27日 北村隆司