なぜ「大学のフェミニスト」はおかしい人が多いのか

今月刊行の『表現者クライテリオン』2025年1月号にも、連載「在野の「知」を歩く」が掲載。綿野恵太さん・勅使川原麻衣さんに続く3人目のゲストに、美術家でフェミニストの柴田英里さんをお迎えし、「「議論しないフェミニズム」はどこへ向かうのか?」を徹底検証しています。

表現者クライテリオン2025年1月号 | 表現者クライテリオン

自分の発言は批判されると「トーンポリシングガー!」、相手の発言には全部「ノーディベートダー!」で、そもそも会話が成立しない「あたおか」な大学教員のみなさんのために、すっかりフェミニストの評判が悪くなってしまったことは、本noteの読者のみなさんはよくご存じでしょう。

もちろん、SNSにゴロゴロ転がっている「ダメな例」を嗤う的な、安易な企画ではありません。フェミニズムの発展と貢献を原点からふり返りつつ、いったい何が今日の問題をもたらしたかを探る、むしろいま一番読みやすい「フェミニズム入門」にもなっていると思います。

柴田さん作成の図表も
多数収録です!

実は「私はどんな攻撃をしてもいい、お前は一切言い返してくるな」な彼女たち(フェミニストには男性もいるけど)のおかげで、アメリカではかえって学問の自由が危機にさらされていることを、トランプ再選に際して柿生隠者さんの書いた記事で、興味深く読みました。

要は、大学の自治を「荘園の不輸・不入の権」と取り違えた教員たちのやらかしのせいで、「じゃあ国もお前らにカネ出すのやめるね」と言われかけてるのが、まもなく第2次トランプ政権となる米国の現状なんですな。

トランプを予言したアメリカ保守派の本 デヴィッド・ホロウィッツとロジャー・キンボール |柿生隠者(かきお・いんじゃ)
私は2016年の大統領選の時から、トランプが勝つだろうと思っていた、という話を、以前noteに書きました。 当時、私は現役のマスコミ人でしたが、私の周りに、トランプの勝利を予想した人はほとんどいませんでした。 自慢話のように聞こえるかもしれませんが、これは事実ですから。 私がトランプの勝利を予想できたのは、...

そうしたカン違い学者を批判する本として、『テニュアを持った過激派: いかに政治が高等教育を腐敗させたか』(1990年)みたいな本が、アメリカではトランプ現象のだいぶ前から出ていたようですが、文中に張られてたリンク先のブログに、懐かしい名前を見つけました。

タイトルはカミール・パーリアが『セックス、アート、アメリカンカルチャー』(野中邦子 訳、河出書房新社)の中で言及していた、ロジャー・キンボール/Roger Kimball の著書より。大学に巣食う、高給取りで安定した地位を得ている左翼学者を批判したものだ。

強調は引用者

カミール・パーリア! ちょうど仕事で、森まゆみさんの書評集『深夜快読』(1998年)にあたったら、まさしく『セックス、アート、……』も採り上げられていました。原著は1992年、邦訳95年。

パーリア自身は大学でも教えたわけですが、在野のフェミニスト歴史家でもある森さんの紹介によれば、こんな感じの人で――。

『セックス、アート、アメリカンカルチャー』(河出書房新社) - 著者:カミール パーリア 翻訳:野中 邦子 - 森 まゆみによる書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
カミール パーリア『セックス、アート、アメリカンカルチャー』への森 まゆみの書評。“反フェミニスト”の過激なものいい著者の名より訳者の名で読むということがある。野中邦子さんなら訳もいいし、原本も面白い、と『ジャズ・クレオパトラ』『ナンシー・キュナード』『ペギー』『オキーフ/ス

いわく、「近ごろのフェミニストはすっかり保守主義に毒され、ヒステリックなモラリズムとお上品ぶったポーズへと逆行している」。
(中 略)
いわく、「リベラルと保守派という二項対立はもはや成り立たない。リベラルを批判すると保守派のレッテルを貼られるが、一番保守的なのはかつてのリベラルではないか」。パーリアは自由意思尊重派である。中絶、男色、ポルノ、ドラッグの使用、自殺、すべて個人の自由意思にまかされるべきだという。
大学人批判も厳しい。いわく、わが世代〔47年生なので、日本でいう団塊の世代〕のユニークで大胆な人々は大学院に進まず「その結果、わが国の一流大学には、いまや立身出世に汲々となる凡庸な50年代タイプが群れをなしている」。教条的マルクス主義者はアメリカで一番のスノッブで、フェミニストの旦那はおおむねへなちょこ本の虫だとバッサリ。うーむ、ここまでいっていいのか。

『深夜快読』97-98頁
算用数字に改定

まさに、「ここまでいっていいのか」。まだまだ私の(たとえば)歴史学者批判は手ぬるかったなぁと、本場のフェミニズムに触れて再認識しましたが、この箇所だけでもすでに、大学教員の「頭をおかしくする」しくみの根本が描かれています。

「大学に属している」ことを根拠に、自分の発言には価値があるんだゾと主張する時点で、その人は公認された既存の権威に乗っかっているのだから、最も通俗的な意味で「保守的」なんですよね。最近は「SNSでこんなにフォローされてる」ことも理由に挙げるタイプが増えましたが、それは体制順応に大勢順応が加わっただけですから、ますます保守的。

そうした場合に大事なのは、自分の中にもそうした「保守性への依存」があるんだな、と自覚して物を言うことです。ところがフェミニズムに限らず、社会の現状に対して「革新的な立場」を自分の売りにしていると、なかなかそれができない。

で、ここまで大胆なことを言ってる私が「悪しき保守性に染まっているはずがないでしょ!」とPRするために、常識も良識も無視、議論のマナーとかシラネ、な態度になってゆく。心底では臆病な人ほど、イキってチキンランから降りられなくなっちゃうのと、ちょうど同じなんですな。

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ふだんは散々他人を攻撃し、「こんなに私は強い!」とアピールして支持を得ているのに、なにかあると都合よく「私は弱者、被害者」とキャラクターを180度反転させる人が多いのも、同じ理由で説明がつきますよね。つまり、自分の姿に向きあわないためのパフォーマンスが常態化してるから、やってることが一貫せずイミフになる。

哲学っぽく言えば、その人の実存自体が「ポストモダン化している」ことになるのかもですが、そんな迷惑な意味でだけポストモダンな大学は、そもそも私たちの社会に要りません(笑)。

北村紗衣的 「被害者アピール」の淵源 : ヘレン・プラックローズ、 ジェームズ・リンゼイ 『「社会正義」はいつも正しい』|年間読書人
書評:ヘレン・プラックローズ、ジェームズ・リンゼイ『「社会正義」はいつも正しい 人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて』(早川書房・2022年) 北村紗衣との腹立たしい出会いに始まる、現代フェミニズムやキャンセルカルチャーに関わる私の旅は、まだまだ続く。 最初は「何なんだ、これは?」と感じられた、想...

本人にとっては「虫のいい変幻自在さ」を誇り、実際には「既存の権威による承認」に依存するのが大学の先生だけなら、笑って見ていてもよかったのですが、そうした人の煽る風潮が広がり、そこで止まれなくなってしまったのが、先日も採り上げたトランスジェンダリズムの問題でした。

僕は「性差を越境すること」で、既存の規範を撹乱したいとする欲求はアリだと思うんです。祝祭の日だけ男女が逆になる、みたいな慣行は世界各地にあるし、アートや音楽で実践する例も昔から珍しくありません。

しかし、それは「男・女なんて区分は超えてやるぜ!」とする態度だからこそ、秩序を相対化する力を持っているわけで。本人が「私は『100%の女性』なんです。だから男子とは区別された女子大に、女性だと公認してほしい」と制度化を求めてしまっては、抵抗の形としてダメなのではないですか。

対談145頁(與那覇発言)

権威に阿らない掲載誌の個性を活かし、問題を根底まで掘り下げる対談になったと思っております! 多くの方が手に取ってくだされば幸甚です。

参考記事: 1つめは柴田英里さんのnoteより

みんな口をつぐむ「トランスジェンダー」と「GID」、そしてフェミニズムの問題|シバエリ
現在、多くのサイレントマジョリティは、トランスジェンダーの問題に対して、「よくわからないけど、とにかく触らぬ神に祟りなし」と感じていることでしょう。 「マジョリティがそう思うこと自体がマイノリティへの差別」と思うような人権意識が高い当事者やアライの方もいるかも知れません。 しかし、個人的には、想像力と他者への配慮が行...
オープンレター秘録② 「コロナの副作用」が日本のトランス問題を生んだ|Yonaha Jun
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田中東子と研究不正: 改ざんツイート&改ざん論文 【証拠あり】|編み目
要約 田中東子が執筆する論文に以下の研究不正を確認した。 Twitterからの引用における改ざんと隠蔽 オタクヘイターとして有名な瀬川深のツイートを、あたかもオタク側の主張のように引用 学術の基本である出典明記すら避け、第三者による検証を著しく妨害 英語論文の翻訳引用において、原文にない語...

(ヘッダーは、松岡正剛の千夜千冊にお借りしました。松岡氏も1944年生でパーリアに近い世代。今夏に亡くなられましたね…)


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください