財務省と「103万の壁」
所得税を支払っている人の割合が労働人口の4割だと、小野寺五典自民党政調会長が指摘し、国民民主党案による103万の壁引き上げについて異論を投げかけたことが話題になっている。
この割合については賛否が分かれるところで、直接税と間接税も含めた議論にすべきなのか?について、深掘りする必要があり、また、玉木雄一郎国民民主党代表(役職停止中)の反論についても賛否があるのも理解できる。
小野寺さんの迷言を玉木さんがすかさず論破。 pic.twitter.com/SXYc792Eih
— 新田 哲史 (@TetsuNitta) December 21, 2024
国民民主党の言う103万の壁の上限引き上げ案の根底には、何度も書いているが働き控えの状況を解消しようじゃないか、それによって実質賃金を上げようじゃないか、という提言が含まれている。また、基礎控除は欧米なみにインフレ率の上昇に応じて上限額を流動的にすべきだというのが、国民民主党の主張だろう。
103万の壁は、広く労働者の「意識」の中に刷り込まれている壁であり、企業も労働者も、その呪縛の中にいることを忘れてはいけない。この呪縛がある限り、働き控えを無意識に考えてしまうことが問題なのだ。また、実質賃金が上昇しない原因を国家が作ってしまっていることが問題なのであり、労働不足の大きな要因となっている現実を無視している。
自民党税調は財務省的思考によって、現在の税収を維持することに汲々としている。というのも、財務省設置法(平成十一年法律第九十五号)に基づく所掌事務により、財務省は財政の健全化を大命題として、如何に多くの税を集めるか?をその大きな任務としている。財務省に限らず官僚は法の遵守を旨としているので、ひたすら真面目にこの法律に従った業務を進める。
言い換えれば、財務省官僚がいなければ、日本は放漫財政となり財政は破綻することになる。日本円の信用は毀損され、国内経済は莫大なインフレに悩むことになる。国家財政とは、あくまで税により国民から徴収したものを財源としており、国家運営を行うのが当たり前であり、財務省はその任務を一生懸命に遂行している。
財務省の強力な権限により、各省庁の運営はコントロールされていると言ってもいい。いつの世も、どんな業界でも、財布を握っている人が最も強力な権限を有しているのは当たり前だ。大蔵省の時代、各省庁の担当局長が予算の陳情に訪れても、大蔵官僚は課長がその相手をしてきた。それくらい、大蔵省の権力は強大で、常に各省庁を従えてきたと言ってもいい。
そして、この国を形作ってきた自民党は、財務省(旧大蔵省)の時代から、常に二人三脚で歩んできた。これが、今に続いていて、今回自民党税調の宮沢洋一氏が自公国の三党協議で主導権を握っている所以だ。宮沢氏は「税は理屈の世界だ」と豪語する主因は、彼が財務省出身であるが故に出た言葉と言ってもいい。
宮沢洋一氏が自民党税調でありながら、財務大臣かのような発言をするのは、彼の頭が財務官僚の呪縛の中にあると言ってもいいかもしれない。
財政は均衡すべしという論理とは、財務官僚は税金を1円でも多く集めた人が出世するという論理のままの思考となっている。そして、折に触れて高橋洋一嘉悦大学教授が指摘するように、財務官僚は特別会計や税の差配を手土産に天下り先を決めているし、それを出世の階段と考えている。これを陰謀論めいたものだと批判する人もいるが、滑稽だと笑い飛ばしてもいられないだろう。
税で食べている人もいれば、規制の中で守られている業界や団体の人もいるし、税を取られたくないと考えている人もいるだろう。その為、財務省にパイプを作ろうと考えるのは必然であり、その目的故に財務官僚の天下りを喜んで受け入れる業界はいくらでもある。
従来の自民党中心の党派制を重視した各省庁と国会議員とそこに群がる業界との関係性は、これも時代は変われど、未だ脈々と引き継がれている伝統と言ってもいい。日本は中国以上の官僚支配型の政治体制であるが、それ自体は自民党が作り出した仕組みと言ってもいい。好意的に解釈すれば、旧55年体制も、今の与野党間の新たな55年体制も、この自民党と各省庁の官僚によって作られた仕組みを打破するため、今日まで努力してきたと言える。
ただ、今の立憲民主党(旧民主党)は、バブル崩壊と共に徐々に崩れていったこれまでの仕組みを、名前と顔を変えているに過ぎないし、むしろそれを望んでいるだけのような気がする。
新55年体制と国民民主党の違い
旧民主党の時代、一度政権を握った成功体験を金科玉条とするあまり、政権を担うことの苦労を知った今の立憲民主党(旧民主党)は、自民党批判をすることで生き残る術を考案した。そして、自民党は国会での質疑で野党に好き勝手にやらせることで、自民党の盤石な体制を維持してきた。
安倍晋三政権を長期維持させた最大の功労者は立憲民主党であるとも言える。旧民主党から現代まで通じる立憲民主党が犯した最大のミスは、議席と国会質疑を生贄にして、野党筆頭の立場に固執したことだ。言い換えれば、安倍長期政権を実現させたのが今の立憲民主党であると言ってもいいだろう。今の立憲民主党は野田代表以下、全員がそのことを理解していない。
そこに風穴をあけたのが「対決より解決」と言い続けてきた玉木代表率いる国民民主党なのだ。そのことが明確に国民の目に晒され、支持を高めたのが「103万の壁」問題だ。つまり、分かっていながら誰も切り崩せなかった頑強な壁に切り込んで衆院選を戦った戦略だ。実はこれによって目が醒まされたのが国民だと言ってもいい。合理性があり、将来世代へ本当の意味でツケを回さない為の政策として、大学生や子育て世代に至るまで支持を集めた原因と言ってもいい。
立憲民主党に対しては、いつまで文句を言う「だけ」の政治「しか」できないんだ?と言う素朴な疑問と、立憲民主党に対する不信感の表象が、支持率逆転の現実だろう。
国民民主党、政党支持率14%で2位 立憲民主党抜くhttps://t.co/VuWtZewIZJ
2020年9月に現在の国民民主が結成されて以来、2位となるのは初めてです。
【日経世論調査】 pic.twitter.com/GaD52nUWOl— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) December 22, 2024
立憲民主党は、この現実を直視しない限り、もはや野党筆頭などと胸を張って言えなくなるだろう。
もう一つ、国民民主党の主張の重要な点が、財務省と自民党税調の暴走を止めるのは、当たり前だが国会議員だということを示したことだろう。
衆院選で飛躍的に議席数を伸ばした国民民主党は現実を見据え、合理性のある政策を打ち出し、今の日本経済全体に何が必要か?実質賃金が上昇しないそもそもの原因とその突破口は何か?を示したことが、今の支持率上昇に繋がっている。103万の壁を178万に引き上げることの意味と、その根拠を示したことで、有り体に言えば、今の実質賃金低下の原因の一つが、103万の壁であることを国民に気づかせてくれた。
これを知っていた国会議員、特に自民党議員も、どうしてこの点に切り込まなかったかと言えば、それこそ自民党税調と財務省とのズブズブの強固な関係性であり、税制改正の問題は複雑で専門性が高く、にわか知識で語れるほど簡単な問題ではなく、ある種の伏魔殿になってしまっていた。いわんや、財務省から直接的に情報を得られないし、聞いてもなんのこっちゃサッパリ理解できない立憲民主党議員など、到底、この伏魔殿に切り込もうなどとは考えなかった。
この伏魔殿こそが、30年以上にわたるデフレ不況の一つの要因だと言えなくもない。デフレが当たり前の社会になると、如何に生活コストを抑えるか?が家計の課題となる。必然、安かろう悪かろうを許容するあまり、物の値段が上がりにくい社会になってしまう。
そこに「103万の壁」が追い打ちをかけ、家計のコストを下げるなら働いて賃金を得ようとするが、無意識のうちに「103万の壁」が企業と労働者の間に根強いが為、収入が伸び悩む。その結果、更なるデフレ思考に陥る。負の連鎖になっているこれらの実態を打破する政策を打ち出そうとしたのが、アベノミクスだ。
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以後、
・シビリアンコントロールとは?
続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。