Meta方針転換報道で朝日新聞系媒体が【ファクトチェック団体の政治的偏向】を隠蔽:英語元記事を大幅編集

何を隠したいのかがよ~くわかる

Metaザッカーバーグが第三者ファクトチェック廃止の報道

Meta社がまずはアメリカでの第三者ファクトチェックプログラムの廃止、コンテンツモデレーションを悪質性の高いものに注力していくこと、Xのコミュニティノートの運用の効果を見て同様の仕組みを導入することなどを表明し(国際問題担当社長のジョエル・カプラン氏が書いたMetaのブログ記事)、同社会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が動画でも説明したことについて、各メディアが一斉報道しました。

この件は以下でまとめていますが、日本メディアが【ファクトチェック団体の政治的偏向で信頼破壊】【多くの正当な政治的言論が検閲されている状態だった】を訴えるMeta社の発信内容をスポイル・隠蔽していました。

朝日新聞系の朝日インタラクティブ運営のCNET Japanの記事

Metaがファクトチェックを終了へ、「X」と同じユーザー主導型に 1/8(水) 10:18配信 CNET Japan Yahoo!”

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

朝日新聞が100%親会社である朝日インタラクティブが運営しているCNET Japanの記事では、このように書かれています。Yahoo!転載版では英語の元記事へのリンクすらありませんが、転載前はMetaの発表文へのリンクと英語の元記事へのリンクが貼ってあります。

Metaがファクトチェックを終了へ、「X」と同じユーザー主導型に Samantha Kelly (CNET News) 翻訳校正: 編集部2025年01月08日 10時18分 

Metaの発表文から欠落した情報として、【ファクトチェック団体の政治的偏向で信頼破壊】【多くの正当な政治的言論が検閲されている状態だった】という要素があります。

ここまでなら他の多くの日本メディアも同様なのですが(それでも大問題なのだが)、CNET Japanの記事の悪質なところは、英語の元記事ではその点に触れている(部分もある)のに、日本向けではそれと分からないように改変されているということです。*1

英語元記事を大幅編集【ファクトチェック団体の政治的偏向】を隠蔽

Meta Ditches Fact-Checking Program, Wants You to Pitch In With Community Notes
Two weeks before a second Trump term begins, Mark Zuckerberg says "free expression" is the way to go.

Meta Ditches Fact-Checking Program, Wants You to Pitch In With Community Notes – CNET Samantha Kelly Jan. 7, 2025 9:26 a.m. PT

英語の元記事はこちら。(魚拓

Meta faces ongoing criticism for its handling of misinformation; allegations of political bias; and criticism regarding the broader societal impact of its platforms.

Metaは誤情報の取り扱い、政治的偏向の疑惑、Meta社プラットフォームのより広範な社会的影響に関する批判に継続的に直面している。

「Meta社は政治的偏向の疑惑という批判に直面」と、【ファクトチェック団体の政治的偏向】とは書かずにぼかしていますが、日本向け記事ではそれすら存在してません。

Kaplan said that the fact-checking program, launched in 2016 to combat misinformation, evolved into a tool that sometimes stifled legitimate political debate.

カプラン氏は、誤情報に対抗するために2016年に開始されたファクトチェックプログラムは、時に正当な政治討論を抑圧する道具と化したと述べた。

別の個所では【ファクトチェックプログラム】の問題を述べています。

ここでも「仕組みの問題」という書きぶりであり、「ファクトチェッカーという主体の問題」と明示されていないという点でMetaの発表を丸めているとは言えますが、重要な要素に触れてはいると言えます。

対して、日本語記事は以下です。

 最初のDonald Trump政権時代を含め、Metaはおよそ10年前から、社会や政治の要求に対応して複雑なコンテンツモデレーションの仕組みを導入してきた。Zuckerberg氏は動画の中で、この仕組みが常に期待通りに機能したわけではないと述べた。「複雑な仕組みにおける問題は、間違いを犯すことだ。たとえ投稿の1%を誤って非表示にしたとしても、それは膨大な数の人々のものだ。間違いが多すぎ、検閲が多すぎるという状況に達している」(同氏)

この部分では「第三者ファクトチェックプログラム」を直接触れていないのが分かります。他の文章も同様です。

単なる「間違いの結果」としての検閲状況、という言及であり、「チェック主体の政治的偏向による結果」という要素が抜き取られた書きぶりに振り替えられています。しかも「コンテンツモデレーション」の問題として書かれています。

Metaの元文は以下です。

More Speech and Fewer Mistakes | Meta

That’s not the way things played out, especially in the United States. Experts, like everyone else, have their own biases and perspectives. This showed up in the choices some made about what to fact check and how. Over time we ended up with too much content being fact checked that people would understand to be legitimate political speech and debate. Our system then attached real consequences in the form of intrusive labels and reduced distribution. A program intended to inform too often became a tool to censor.

特にアメリカでは、そのような展開にはなりませんでした。専門家も他の人と同じように、それぞれのバイアスや観点を持っています。それが、何をどのようにファクトチェックするかという選択に現れました。そうしているうちに、人々が正当な政治的言論や討論だと理解するような内容が、ファクトチェックされすぎてしまいました。そして私たちのシステムは、押しつけがましいラベル貼りや表示数の減少という形で、現実の結果を突きつけてきました。情報を提供することを目的としたプログラムが、検閲の道具になることがあまりにも多くなってしまいました

専門家のバイアス⇒ファクトチェック対象の選択⇒正当な政治的言論がファクトチェック対象に⇒それによるラベル貼りや表示数の減少⇒結果としての検閲の道具化の流れが、一つのパラグラフ内で叙述されています。

「ファクトチェックの専門家」の要素抜きには語れません。

ここで、Metaのコンテンツモデレーションと第三者ファクトチェックプログラムの関係は、別物だが後者が前者の一部として影響するようになっていたと言えます。

例えば、第三者ファクトチェックプログラムの参加者によるファクトチェックが行われて「虚偽」「改変」判定された投稿には一定の「ラベル」が貼られ、配信数の減少、収益化や広告に関する機能の利用停止など、種々の効果が発生していました。*2

第三者ファクトチェックプログラム参加者による情報の真偽に関する評価とは別に、Metaによって種々の投稿の評価が行われていることもありますが、上述の言及は、前者と無関係のものと理解するのは不可能でしょう。

だからCNET Japanの記事は間違いを書いてはいないものの、読者の認識に「ファクトチェックの専門家の政治的偏向による正当な政治的言論の封殺」という要素が芽生えないように、念入りに「編集」されているというわけです。

海外メディアの日本語媒体版では情報が削がれているケースが

じつは、海外メディアの「日本語媒体版」では、単なる「日本語翻訳版」ではなく、情報が削がれているケースが多いです。ブルームバーグやCNNといった媒体を読んでいると気づきます。しかも、単に「丸めた」だけに留まらず、誤報になっている場合も見られます。

過去にも重要な局面で致命的な誤報となっていたり、読者が誤った認識になる事が不可避的なモノがありました。

CNET JapanのMeta社の方針変更に関する報道は、こうした日本メディアの姿勢が、またしても如実に表れたと言えます。

日本語圏のメディア情報・言論空間という巨大な「エコーチェンバ―」の作出

本稿では特にCNET Japanの記事を取り上げましたが、先述の通り、この件に関してはほとんどの日本メディアが、重要な要素を削って報道していました。

こうしてみると、「ファクトチェックの専門家の政治的偏向」という要素を認識させたくないのだな、ということが改めて明らかになったと言えます。

この状況は、日本語による情報・言論空間を実態と異なる認識で蔓延させようとする巨大な「エコーチェンバ―」が、日本メディアによって作出されていると言えます。

マスメディアが「SNSではエコーチェンバ―がぁ」としきりに論じていますが、むしろマスメディアがエコーチェンバ―を日本語圏で作ってきたでしょう。

SNSに問題があるのはそうですが、SNSでの現象は、既にマスメディアが実行してきたことが発端です。SNSの規律が強化されるのと同様に、新聞・テレビなどマスメディアにも、現行の放送法による政治的中立規制や広告規制を厳格にするなどの規律が必要なんじゃないでしょうか?

*1:日本向けに編集した上で報じることそれ自体は否定しない。それは普通に行われており、CNET Japanではそのような記事はたくさんあり、問題ないものが多い。編集によりむしろ原文よりも理解が進む効果が得られる起伏のある文章になっているケースすらある(例えばこの記事はそうだと思う)。著者の認識が多く追加されているような場合などは削る意味がある。しかし、今回のものは報道対象の背景・動機という重要要素を意図的に隠している点に悪質性がある。
*2:ファクトチェッカーの評価に基づくMetaの対応


編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2025年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。