「年収1200万円では子供3人持てない」は本当か?

黒坂岳央です。

先日、SNSで大きな話題を読んだ「年収1200万円では子供3人持てない」問題。色んな人が色んな意見を出している。

「東京では厳しくとも地方では楽勝」
「高収入の人は自分と同じ高水準の教育を子供に望むため、子供の数を絞らざるを得ない」
「問題の本質は、年収1200万円の相手から実質天引き額が約4割にも登る点にある」

このような意見だ。持論を展開したい。

BassittART/iStock

地方では年収300万円台で子供が3-4人が余裕

地方に住んでいる自分が学校や園にいくと、「子供は3-4人が普通」という感覚を受ける。どの家庭でも子供が複数人おり、1人しかいない家庭は少ないという印象を受ける。

仮に今の時点で1人でも「これからまだまだ産む予定」という話はよく聞く。先進国における少子化は非常にハイペースという話だが、子供がたくさんいる場所に身を置く自分の肌感覚では「子供だらけ」という印象なので実態とは大きく異なる。

そして筆者は親の職業は伝え聞いており、推定年収もほぼ正確にわかる。ざっくり一人あたりの年収は200-300万円ほど。夫が正社員、妻はパート、もしくは夫婦で農家という家庭も多く世帯年収で300万円台の家庭も多い。

東京に住んでいる人からすると、世帯年収300万円で子供4人とは目が丸くなるような状況だが、それでも周囲の家庭は3人、4人の子供たちを立派な社会人に育て上げている。

先日、仕事で採用した大学生の男性は4人兄弟の長男、奨学金で大学に通ってバイト代の半分は家に入れていると言っていた。礼儀正しく非常に受け答えもしっかりしており、「貧乏子沢山でまともな教育を受けずに育った粗暴な人材」という感覚はまったくない。

地方では世帯年収300-400万円でも、子供が4人いる家庭はまったくめずらしくないのだ。

子供にかかるコストは住居費と教育費

こうした事情があるために、このように真っ二つに意見が分かれる。

「子供3人なんてとても無理!」
「いや、地方にいけば半分以下の年収でも楽勝」

と。その理由はズバリ、都会と地方の住居費と教育費の考え方の違いである。

地方では家は実家暮らし、もしくは2000万円前後で一戸建てを買ってそこに住む。スイミングや英会話スクールくらいは習い事があるが、中学受験塾に通わせたり、私立小学校やインターナショナルスクールなどはあまり一般的ではない。

高校まで公立学校、大学から奨学金で通わせる。自宅は実家か持ち家。このように住居費と教育費をかけなければ子供を育てるのにそこまで巨額のコストは必要がないのだ。

逆を言えば、教育費と住居費があれば子育てコストは青天井に上がる。そして一般論でいえば年収1200万円は高収入であり、そんな高収入を稼ぎ出す親は子供にも自分が受けてきたような都会での高水準の教育を望む。

そのためには充実した教育環境が整った住居費の高い都会に住み、高額の教育費をかけようという発想になるのが普通である。そうなると正直、東京に住んで教育投資をすると思い切り税金で削られた1200万円では到底足りない、という意見が生まれるわけだ。

筆者がサラリーマンの頃、早稲田政経卒の海外MBAホルダーがいた。想定年収はまさしく1000万円以上なので、本稿のテーマに合致する。

彼には子供が1人おり、私立中学に合格したという話を聞いたが「これからお金がかかるので、練馬に引っ越しして移動は車の代わりに自転車」という話してくれたことがある。

当時、年収1000万円を天上人のように感じていた筆者は、「1000万円も稼いでいるのに、なんだかけちくさいな」という印象を受けてしまった。だが今ならわかる。彼はたった一人の子供を育てるのに本当に余裕がなかったのである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。