「露イラン間」と「露朝間」の違いは

ロシアのプーチン大統領は17日、モスクワのクレムリン宮殿でイランのペゼシュキアン大統領と会談した。両国首脳会談後、ロシアとイラン両国間で「包括的戦略パートナーシップ条約」の署名が行われた。イランのIRNA通信は「この文書は協力、特にテヘランとモスクワの経済関係に新たな機会を開くものとなる」、「テヘランとモスクワは、新たな文書の形で二国間協力を拡大する決意を強調した」といった高揚した文書で報じている。

モスクワでペゼシュキアン大統領とプーチン大統領の首脳会談、IRNA通信2025年01月17日

プーチン大統領にとって、この種の「包括的戦略パートナーシップ条約」はロシアと北朝鮮の間で締結したばかりだ。プーチン大統領は何か焦るように同盟国間との協力関係の強化に乗り出していることが伺える。欧米の外交筋は「トランプ氏が20日に大統領就任する前にイランとの間で戦略パートナーシップを締結することで、同盟国間の結束をアピールしたいのではないか」と憶測している。ちなみに、ロシア側からは、セルゲイ・ラブロフ外相、副首相兼国際北南回廊(INSTC)開発の大統領特別代表であるヴィタリー・サヴェリエフ氏、ユーリ・ウシャコフ大統領補佐官、ロシアのアレクセイ・デドフ駐イラン大使、エネルギー相兼ロシア・イラン恒久貿易経済協力委員会共同議長であるセルゲイ・ツィヴィレフ氏らが出席した。

プーチン大統領は昨年6月19日、24年ぶりに北朝鮮を訪問し、金正恩総書記と10時間に及ぶ協議を重ね、ロシアと北朝鮮両国の関係を新たに明記した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。新条約は、2000年にプーチン氏と故金正日総書記の間で締結された「友好善隣協力条約」から、1961年の相互軍事援助を明記した「軍事同盟」色の濃い内容に戻っている。

ところで、ロシアとイラン間の「包括的戦略パートナーシップ条約」とプーチン大統領と金正恩総書記間で締結された「露朝条約」は多くの分野を網羅した文字通り「包括的」な条約である点で似ている。前者は47条から成り立ち、後者は23条から構成されている。興味深い点は、前者には「露朝条約」のような「軍事同盟」を強調した内容は見当たらないことだ。

「露朝軍事同盟」では3条、4条に「両国関係が軍事同盟である」と明記されている。例えば、第3条「締約国は、地域および国際の平和と安全を確保するために協力する。いずれかの締約国に対する武力侵略行為の直接的な脅威が生じた場合、締約国は、いずれかの締約国の要請により、立場を調整し、脅威の排除に向けた協力のための具体的な措置について合意するため、遅滞なく二国間交渉のチャンネルを活性化する」、第4条では「いずれかの締約国が一国または複数の国から武力侵攻を受け、戦争状態に置かれた場合、他方の締約国は、国際連合憲章第51条および朝鮮民主主義人民共和国およびロシア連邦の法律に従い、遅滞なくあらゆる手段で軍事的およびその他の支援を提供する」と記述されている。一方、前者には「軍事同盟」といった表現が見当たらない。タス通信によると、イラン側は今回の条約について「露朝間の条約とは異なり、相互防衛条項は含まれない」と説明したという。

北朝鮮は条約に基づき、ウクライナと戦争するロシアを支援するために軍事器材などを援助するだけではなく、1万人を超える兵力を派遣している。一方、イランとロシアとの間は軍事的協力ではもっと長い歴史がある。シリアの内戦ではアサド政権を支援するためにイランが2011年にシリア内戦に介入、ロシアは2015年にシリア内戦に参戦している。すなわち、ロシアとイランはシリア内戦を通じて既に軍事的に連携を深めてきているのだ。

そのような意味合いもあって、ロシアとイラン間の「包括的戦略パートナーシップ条約」には軍事同盟といった内容は希薄となったというか、必要がなかったのではないか。対ロシアとの軍事関係ではニューカマーの北朝鮮にとってロシアとの関係が「軍事同盟」という性格を強調する必要性があったともいえる。「ロシアとイラン関係」と「ロシアと北朝鮮関係」はこれまでの人的交流や紛争地での連携などの歴史で明らかに異なるわけだ。対ウクライナ戦争では、イランはロシアに自国製の無人機や弾道ミサイルなどを送っていることはよく知られている。両国間は既に軍事同盟なのだ。

条約署名式後開かれた記者会見で、プーチン大統領は「この条約の作成には長い時間を要したが、この作業が完了したことを大変うれしい。この条約は、両国の協力のほぼすべての分野にさらなる推進力を与えるだろう。私は、この条約が貿易および経済関係のさらなる発展にも寄与することを確信している。昨年の最初の10か月間の貿易成長率は15.5%に達しており、良好な指標と考えている。私たちは原子力エネルギーを含む大規模プロジェクトを引き続き進めています。他にもエネルギー分野での新しいプロジェクトや物流分野での良好な見通しがある。また、人道分野での協力についても強調したい。観光交流が約21%増加し、交通通信も発展している。また、文化省間の協力でも目に見える進展がある。今年6月には、イランでロシア文化の日が開催される予定であり、楽しみにしている」と語っている。

一方、イランのペゼシュキアン大統領は「本日署名する重要な条約は、文化、経済、人道関係を含む両国の活動全般を網羅しており、二国間関係の発展に大きな後押しとなり、さらなる進展のための堅固な基盤を提供するものと確信している」と述べている。ちなみに、イランのアッバス・アラグチ外務大臣は「イラン・ロシアの包括的戦略共同協定の性質は主に経済的であり、貿易や観光、輸送、エネルギー、その他この分野の問題を含むすべての関連分野をカバーしている」と指摘している。

IRNA通信によると、両大統領は会談後の記者団の質問に答え、「テヘランとモスクワ当局がこの条約の署名を優先した理由は、以前の合意ではもはや両国間の関係がさまざまな側面で増大することに対応できなくなったためだ。米国の覇権との対決を含め、国際的および地域的問題において多くの点で共通かつ緊密な見解を共有するイランとロシアは、さまざまなレベルでの協力に向けたロードマップを概説した」と説明している。イランのペゼシュキアン大統領は、「両国間の協力は双方にとってウィンウィンである」と強調することを忘れなかった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。