関税男の勝算:アメリカ国内の値上げに消費者がどう反応するか

2か月ほど前、日本からカーペットの下に敷く衝撃緩衝材を大量に輸入しました。その前に試験的に少量輸入した時は普段の輸入ルートに乗せて関税を払ったのですが、この時は分量が多く、今後更にその何倍もコンスタントに輸入する予定なので関税はない方が良いに決まっています。

調べたところ、日本とカナダのTPPでこの商材は関税がゼロになる様でしたので製造業者に原産地証明を取得してもらい、関税は無税で通関することが出来ました。7%の節約です。

関税がかかっていれば私が輸入原価計算で関税相当額を販売価格に上乗せするだけですので私にとって直接的な損失はないものの消費者からすれば高いものを買わされることになります。日本では消費税が数パーセント上がるだけで大騒ぎします。しかし関税のように最終消費者に見えにくい一種の「ステルス タックス」は知らぬうちに高いお金を払わされ、最終消費者に何のメリットもない話になるのです。

トランプ氏は関税をアメリカ国民から徴収する税を減税するための財源として考えている節はあります。氏の大統領就任演説でもいかにも自分は素晴らしい考えを持っていると言わんばかりに自慢げにしゃべっていました。では国家が徴収するそれら関税がアメリカ国民の減税の財源になるのか、といえばとてもじゃないですが、そんな規模にはならないでしょう。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

トランプ氏は2月4日からカナダ、メキシコに25%関税を、中国に追加関税10%を課すと発表しました。またEU向けにも同様の関税を課すと表明、更には2月18日頃に原油と天然ガス(但し、カナダからの原油は25%関税を10%に低減)させるとも発表しています。1月31日にトランプ氏はエヌビディアのファン社長と会談したのですが、会談でファン社長に対して輸入される半導体にはいずれ関税がかかると明言したようです。

ブルームバーグはトランプ氏が「鉄鋼、アルミニウム、石油・ガス、医薬品、半導体など幅広い輸入品に今後数カ月のうちに関税を課す」とのべ、これが特定国やエリアに留まらず、世界中からのものになる公算があるとみています。

「大統領といえどもたった一人で世界を震撼させる関税を導入できるのか、誰も止めることができないのか」という質問に対して大統領報道官は「できない。ただし、大統領は撤廃することはできる」と述べています。トランプ氏自身「カナダ メキシコ向け25%関税は最終的に10%程度まで下げることになるだろう」と述べています。それがいつなのかなどは具体的に示されていませんが、少なくとも2-3か月は様子を見るのではないかという気がします。トランプ氏が選挙公約だった関税計画がとりあえず全て実行され、最高潮になったところで二国間の交渉を踏まえ、少しずつ下げていく、そういう手段を取るのではないかとみています。トランプ氏は「俺は公約は守った。そして条件交渉で勝ち取った。アメリカの勝利だ」とXあたりで述べるのでしょう。

ではカナダやメキシコはどう対応するのでしょうか?カナダのトルドー首相は早々に25%の報復関税を発表しました。また関税以外にも厳しい制裁を科す計画もあり、州ごとの計画もあります。BC州はアメリカの共和党政権州からの酒類の輸入を禁じると発表し、すでにカナダ6州がアメリカのアルコール販売の制限を発表しています。カナダは3月に首相選挙が行われるのですが、最有力候補であるフリーランド元副首相がアメリカのビールやワインからテスラ車まで100%関税をほのめかしています。基本的に「目には目を…」的な強硬な姿勢です。

メキシコも大統領が既に経済閣僚に報復を支持しており、アメリカからの輸入品目に対して5-20%の税金を課すとされています。またトルドー首相はメキシコのシェインバウム大統領と歩調を合わせるために会談をすると発表しています。既に脅されているEUは現時点では硬軟使い分けの姿勢ですが、仮に特定関税が付されれば相当の「…歯には歯を」が行われるとみています。

私が見る関税脅迫されている諸外国の姿勢は交渉を継続しながらも戦う姿勢であり、関税男と徹底抗戦しようとしているように見えます。中国はトランプ1.0の時のような正面から戦う姿勢というよりとWTOへの提訴をしながら対話をするという冷静な動きを示してます。

では25%もの関税がかかればカナダやメキシコのビジネスはどれほど打撃を受けるかですが、これはタイムラグの問題で発動される2月4日から突然世の中の色が変わるわけではありません。今回の事態を予想して多くのアメリカとカナダの会社は貿易を急いでいました。私の知るあるカナダの木材系の貿易会社はアメリカ向け輸出がこのところ急増、在庫を全部アメリカ向けに仕向けるぐらいの勢いでしたが唯一のボトルネックが輸送に使うトラックが払底したことだと述べていました。それぐらい各社自己防衛をしていたということです。

タイムラグは商品により1-3か月とみており、アメリカ国内の値上げが次々発表になり、消費者がそれにどう反応するかですが、購入の手が止まればアメリカの旺盛な消費とそれに伴う経済状況には影響が出るでしょう。一方、トランプ氏の目指す国内産業の勃興は今日や明日にできるものではなく、何年もかかるのだとみています。トランプ1.0の時も関税バトルは1年で終結しているので、最終的には元に戻るであろうと希望的観測を持っています。

カナダでは自動車など一部の産業に厳しい影響が出るとされ、まずは感情的な反感が先行しそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年2月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。