黒坂岳央です。
今どき、メディアやSNSを見ると「日本は貧しい」の大合唱である。確かにインフレと円安のダブルパンチであり、実質賃金の低下、社会保障の負担増、非正規雇用の増加といった指標は現実、厳しい生活を送る人も増えている。
だが、社会全体の視点で見ると日本の生活基盤はまだ安定している部分もあると言えるはずで極端な煽りほど貧しいとは言えないはずだ。
冷静にデータを見れば一口に「貧しい」といっても食べるものがなくて生きていけないレベルばかりではないようである。
「自分は貧しいのだ」と思わされている精神的貧困こそ、真の問題では?と感じている。
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recep-bg/iStock
日本はメディアが言うほど「超貧しい」か?
我が国のような先進国では「相対的貧困率」で評価する必要がある。
相対的貧困率とは、所得が集団の中央値の半分に届かない人の割合を指し、「等価可処分所得」を基準に計測されるものだ。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、我が国の相対的貧困率は15.4%(2022年)であり、確かにバブル絶頂期と比べると数字は悪化しているといえる。
だがこの数字をOECDのデータで他国と比べるとどうだろうか?米国の相対的貧困率は15.1%、韓国が15.3%でほぼ同じレベルである(ただし、OECDの相対的貧困率は可処分所得を基準にしており、社会保障制度の違いが大きく影響する点は一考の価値がある)。
メディアやSNSでは「日本だけが世界で突出して超貧しい一人負け状態。まるで地獄のようだ」というような極端な取り上げられ方をしているが、冷静に数字を見ると違った様子が見えてくるし、過去2012年は16.1%と今よりさらに酷かったのでその時に比べて改善しているということもできる(ただ若干統計データが古く、インフレ円安考慮でまた数字は変わるかもしれない)。
また、加えて他国と比べて治安は安定しており、インフラや生活基盤も先進国の中では安定している。
生活費で考える
確かに米国と比べれば日本の給与は安いのは事実で、円安と考慮すればかなりの差になる。
だが、「アメリカの年収を稼いで日本に住む」ということは一部の高度専門職のリモートワーカーを除けば現実的ではないことを考えると、必ずしも「生活レベル=年収格差」とは言えない事実が浮かび上がってくる。
日本の平均年収は約39,113ドルで、OECD加盟35か国中19位だ。一方、アメリカの平均年収は約69,392ドルで、日本よりも高い水準にある。メディアやSNSではこの数字を単純比較して危機を煽る。しかし、これらの数値は名目上のものであり、各国の物価水準を考慮していない。
購買力平価(PPP)を考慮すれば、各国の物価水準を反映した実質的な所得比較が可能となる。生活費についていえば、アメリカの主要都市は家賃や医療費などが高く、日本と比較して生活コストが高い傾向にある。具体的にはニューヨークの平均家賃は約3,500ドル(1ベッドルーム)に対して、東京23区では約1,200ドルで数倍の差がある。
このように、購買力平価を考慮すると、日本とアメリカの生活水準の差は名目上の年収差ほど大きくはなく、生活費や物価水準を踏まえた総合的な評価が重要だ。
特に住居費や医療費は顕著で日本では「家をケチると古くて音がうるさい」という感じだが、アメリカで家をケチると生命の危険が脅かされてしまうし、お金がなく大病を患うともはや治療が難しいというケースも少なくない。
加えて、アメリカの中上流家庭は日本より豊かなのは間違いないが、アメリカは社会格差が大きく、貧困層は日本よりもはるかに過酷な生活をしている人が大勢いる事実も考慮する必要があるだろう。
そう考えると「アメリカ人の全員が日本より遥かに裕福な生活を送っていて、日本は極度の貧困に落ちっている」とまでは言い切れないと考える。
日本は精神的貧困率が高い
もちろん、所得を増やし豊かな国家づくりを目指す努力は依然として必要なものの、個人レベルで取り組める問題として、「日本は精神的貧困率が高い」というものである。
どういうことか?実際の自分の生活はメディアが煽るほどに極端な困窮がないのに、他者との比較や過剰な煽り情報で「自分は貧しい」と感じさせられる状態を指すのだ。
それを示すイチエピソードとして、過去に生活保護者が「半額シールのついたお肉しか食べられない」「頻繁に外食ができない。気軽に旅行にもいけない」といった投稿や、東京在住者がいう「年収1000万円でも貧乏」「港区のタワマンに住めない人は貧しい」といった発言があげられる。時折「それのどこが貧しいのか!」と炎上している。
これらは冷静に考えるとおかしいと感じる。そもそも、頻繁に外食をいくという生活は「贅沢」であり、経済的に余裕がないなら栄養価の高い自炊で健康状態を確保して生活基盤の確保が急務なはずだ。
また、日本の年収中央値が400万円台であることを考えると、どう解釈しても給与所得者の5.5%しかいない年収1000万円は「貧困」と言えるはずもなく、仮に住んでいる場所の生活費が高いならよりコストの低い地域への移住を検討するのも選択肢もあるだろう。
背伸びして高い生活費で我慢をするのは、実力に見合わないプライドが高コストになっているに過ぎず、それは他者の目が気になっている「精神的貧困」という解釈になるだろう。
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