ウィーン市議会選挙(定数100)が今月27日、実施される。現地の複数のメディア報道によれば、ルドヴィク現市長の与党「社会民主党」(SPO)の第1党はほぼ確実視されているが、2020年の前回選挙の得票率41・6%を維持するのは難しいと予想されている。一方、前回の市議会選で党スキャンダル事件〈イビザ事件)が発覚して得票率が急落した極右政党「自由党」が再び勢いを回復する動きを見せている。また、社民党の連立政権ジュニア・パートナー、リベラル派の「ネオス」と野党「緑の党」が支持率を伸ばしてきた。そのほか、「共産党・左翼」同盟と前自由党党首のシュトラーヒェ氏が率いる「チームHCシュトラーヒェ」(HC)が市議会選の議席獲得を狙っている。有権者数は約111万人。

ウィ―ン市長ルドヴィク氏、ウィ―ン市当局公式サイトから
先ず、前回の市議会選挙(2020年10月11日実施)の結果を振り返る。ルドヴィク市長率いる社民党は得票率を2015年の選挙より2.0ポイント増の41.6%に伸ばし、大差で第1党の地位を保った。「緑の党」は14.8%(3.0ポイント増)、リベラル派の「ネオス」も7.5%(1.3ポイント増)と得票率を伸ばした。
一方、2015年には30.8%を得票した極右の自由党は、前党首のスキャンダルや党の分裂が影響し、7.1%(23.7ポイント減)と惨敗した。多くの自由党支持者の票が、中道右派の国民党に流れたとみられ、国民党の得票率は20.4%(11.2ポイント増)となり、第2党に躍進した。投票率は65.3%と過去2番目に低かった。
ウィ―ン市議会は‘赤の砦‘と呼ばれ、戦後から現在まで社民党が統治してきた。交通網を完備し、観光都市、国際会議の開催地としての評判を確保し、国際原子力機関(IAEA)や国連犯罪麻薬監視機関(UNODC)などの本部を誘致して第3の国連都市と呼ばれてきた。「世界で最も住みやすい都市」にこれまで何度も選出された。一方、冷戦時代、東西両欧州の架け橋として約200万人の政治亡命者が旧ソ連・東欧諸国から殺到した。また2015以降、中東・北アフリカから多くの難民が入ってきた結果、移民・難民問題が大きな政治問題となってきている。
選挙争点は教育、住居問題などの他、増加する難民対策だ。小・中等公共学校でイスラム系出身の家庭の生徒がカトリック教の家庭の子供より多くなったことが明らかになったばかりだ。ウィーン市教育関係者はドイツ語を話せない生徒が多くなり、頭を抱えている。ドイツ語学習を如何に徹底するかなどが今回の選挙でもテーマとなっている。ウィ―ン市はあと数年で200万人都市入りするが、人口増加の主因は移民・難民の増加だ。換言すれば、イスラム系移民・難民の増加だ。
最後に、ウィ―ン市議会選の見通しを簡単に紹介する。SPOの第1党は確実だが、前回より得票率を少し落とすだろう。その最大の理由はFPOが支持率20%を超える勢いを見せているからだ。シリア出身の子だくさんの難民家庭が月4000ユーロ以上の援助金を受けていることが報道されると、ウィーン市民の平均賃金の倍以上の手当てが働いてもいない難民に補助されていることに市民の不満と疑惑が高まった。そのため、SPO主導の難民政策への批判の声が再び強まってきている。一方、FPOはイビザ騒動の影響も薄れてきていることもあって、2015年の選挙時の得票率31%に迫る支持を集めるのではないかと予想されている。
オーストリア連邦レベルでは与党第1党の国民党は前回の選挙ではFPO離れした票を吸収して20%を超える得票率を得て第2党になったが、今回は選挙戦が始まる直前、国民党のマーラー党首の不正容疑問題がメディアに流れたこともあって、支持率を落としている。一方、都市に強い「緑の党」と連邦レベルで初の政権入りした「ネオス」は得票率をアップさせることが考えられる。

ウィーン市庁舎 pressdigital/iStock
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






