若手社員の間で広がる「意欲格差」

黒坂岳央です。

過去記事で書いた通り、ゴールデンウィーク明けに退職代行大手3社がこの1日だけで受けた依頼件数は250件超となっている。連休期間中の累計は、前年同期間比で約1.5倍(330件)に跳ね上がった。

依頼理由として多かったのは「引き留めが怖い」「職場に言い出せない」といった受動的な退職理由だが、「職場がヌルくて成長できない」といった自発的な離職理由もあった。これは同じ若手のなかでも、

「できる限りラクに働くことを“正義”とする層」

「若いうちにスキルを磨いて自分でキャリアデザインをする層」

という二極化が進んでいることを意味する。今のホワイト化した職場は、この両者が同居する奇妙な場所となっている。

本稿を出してしまえば、「老害」とバカにされることは分かっている。しかし、仕事をする上での重要な気づきを得る人が一人でも出ればと願い、筆を執ることにしたい。

chachamal/iStock

なぜ企業は「叱れない」組織になったのか

かつての職場では、上司の叱責は日常風景だった。もちろん、むやみに叱ることは本人の意欲を挫くのでよくないのは明白だ。しかし今は、ちょっとした間違いを指摘することすらためらわれる空気が漂っている。その背景には三つの要因がある。

第一に、「パワハラ防止法」の義務化である。特に2022年に中小企業にも適用範囲が拡大されて以降、部下を注意することすらハラスメントと誤解されることを恐れ、指導そのものを避ける管理職が増えている。

第二に、働き方改革だ。「残業ゼロ」の方針が優先される中で、育成のための面談やOJTの時間が削られ、日々の業務に追われる現場では、部下の指導が後回しにされがちだ。

第三に、「心理的安全性」への過剰な信仰がある。「否定しない文化」を勘違いし、「指導しないこと」が良いことだとする短絡的な解釈が、現場に蔓延している。

その結果、若手社員は「叱られずに育つ」ことが当たり前となり、自ら試行錯誤しながら自己流で仕事を覚えるしかない環境に置かれている。これは若手の内に成長を目指す人にとっては強い逆風となる。

前述した「ぬるすぎて成長できないから退職した」という若手は潜在的にこのリスクを嗅ぎ取ってかのような意思決定したのだろう。

仕事は30代から本番

ハッキリいう。本当の仕事が始まるのは20代ではなく、30代からである。ところが、若い頃にこのことに気づいている人は意外なほど少ない。だから突然にキャリアで詰む人が現れる。

20代は若さの魔法がかかった状態だ。若いというだけでチヤホヤされ、仕事でミスをしても、多少の生意気な事を言っても「まあ若手だから」と許してもらえる。筆者も20代で働いていた会社で随分、許されてきたと思うことがある。

ところがそのままの感覚で30代、特に30代半ばとなれば、いきなりのゲームチェンジで慌てる人が出てくる。基本的に30代以降は成長を期待される年代ではなく、結果でしか判断されなくなる。20代は与えられた仕事をこなすのがミッションだが、30代からは自走する力が求められる。

30代半ばからはもうポテンシャルも見てもらえない。20代で何でもチャレンジできる内に結果を出さければ、その後はもう実力以上の仕事ができなくなるということになる。

今の勤務先が合わないからと転職を試みても、当然「今の」スキルや経験、実績しか見てもらえないので「入社したら頑張ります」は通じない。だが、今の会社で昇給は見込めず、人間関係もよくないとなれば万が一の倒産とともに行き場を失うわけだ。

誰しもいつまでも若くはないので、30代でゲームルールが変更になった後に慌てても取り返しがつかなくなる。となると20代の内に頑張って市場価値を高めておくことは「大変コスパが良い戦略」という論理が成り立つ。

強制されないと頑張れない人が大半

世の中には「あなたらしくそのままでいい」みたいな言葉が溢れているが、正直こういう甘言に耳を貸すと困るのは自分だ。こうした言葉自体は間違いとは思わないが、多くの場合、自分が楽ばかり求める生き方を肯定するように都合よく解釈されているように見える。

今の世の中を見ていると、大半の人間は強制される環境がなければ頑張れないのが大半だ。

米国ITテックに勤務するような高学歴、ハイキャリアエリートでもリモートワークでは労働生産性が落ちることがあらゆる会社のデータで示されており、出社を要求されるように切り替わったという話がそれを物語っている。

これにはオンラインとオフラインの業務プロセスや生産性の違いもあるが、それ以上にリモートワークで一部の自走できる社員はパフォーマンスが高まる一方、サボる社員もデータ上無視できないレベルで検出されてしまっているという事実がある。このことが「人は強制力がないと頑張れない」を裏付けていると思うのだ。

人生の責任は自分で取るしかないので、どう生きるかは人それぞれ、他人がどうこう言える話ではない。そこは大前提として、だがある程度強制力を持たせて若い内に仕事ができるビジネスマンに育っておかねば、30代以降で自分の首を締めることになる場面もあるのではないだろうか。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。