固定資本減耗の国際比較:宿泊・飲食サービス業

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サービス業の代表格である宿泊・飲食サービス業について、固定資産の減耗分である固定資本減耗の国際比較をしてみます。

1. 宿泊・飲食サービス業の固定資本減耗

固定資産の維持費用とも言える固定資本減耗について、産業別の特徴を共有していきます。

今回は、前回の卸売・小売業と共にサービス業の代表格である宿泊・飲食サービス業の固定資本減耗について注目してみます。

図1 経済活動別 労働者1人あたり固定資本減耗 日本
OECD Data Explorerより

図1が日本の労働者1人あたり固定資本減耗の推移です。

今回着目する宿泊・飲食サービス業(薄ピンク)は、全産業の中で最も低い水準となっています。

宿泊するための施設(ホテル、旅館)や、飲食のための店舗と言った固定資産が必須の産業ではありますが、付加価値に対する固定資産の寄与度合いで見ると最も低いというのも意外な結果です。

2. 労働者1人あたりの推移

卸売・小売業の固定資本減耗について労働者1人あたりの水準(名目、為替レート換算値)の推移を見てみましょう。

図2 労働者1人あたり 固定資本減耗 宿泊・飲食サービス業
OECD Data Explorerより

図2が主要先進国の宿泊・飲食サービス業における、労働者1人あたり固定資本減耗の推移です。

日本(青)は1990年代フランスを上回る水準で、2010年頃にかなり高い水準に達していましたが、その後は減少傾向となっています。

近年ではフランス、アメリカを下回り、OECD平均値、スペイン、イギリス、ドイツと同程度となっています。

最近は減少傾向ながらイタリアの水準が非常に高いのが特徴的ですね。

3. 労働者1人あたりの国際比較

最新の2022年の水準について国際比較してみましょう。

図3 労働者1人あたり固定資本減耗 宿泊・飲食サービス業 2022年
OECD Data Explorerより)

図3がOECD各国の2022年の国際比較です。

日本は3,170ドルで、OECD30か国中17位、G7中4位です。先進国の中では平均的か、やや少ない水準になるようです。

4. 対国内総生産比の推移

続いて、稼ぎ出す付加価値の合計である国内総生産(Value added, gross)に対する比率でも比較してみましょう。

図4 固定資本減耗 対国内総生産比 宿泊・飲食サービス業
OECD Data Explorerより

図4が宿泊・飲食サービス業における固定資本減耗 対国内総生産比の推移です。

各国で2020~2023年と急激に上昇しています。

コロナ禍において、この産業が大きく影響を受けたことを示しています。

この指標は、固定資本減耗を国内総生産で割ったものですので、緩やかに変化する固定資本減耗に対して、国内総生産が大きく減少したことで、計算結果が急激に上昇した事になります。

日本は金額で見れば低い方になりますが、対国内総生産比だとフランスを超え、イタリアと共に高い水準が続いているようです。

日本の宿泊・飲食サービス業は特にパートタイム労働者の多い産業です。

日本の場合は、それだけ労働者の仕事に価値がつきにくい産業構造になっている事が窺えますね。

5. 対国内総生産比の国際比較

最後に、対国内総生産比の国際比較をしてみましょう。

図5 固定資本減耗 対国内総生産比 宿泊・飲食サービス業 2022年
OECD Data Explorerより

図5が2022年の固定資本減耗 対国内総生産比の国際比較です。

日本は18.0%でOECD30か国中1位、G7中1位となっています。

ただし、図4で見た通り、この産業ではコロナ禍の影響を受けていて、2022年の時点で例年並みの状況に戻っている国もあれば、日本、フランスのように高止まりしている国もある事にご注意ください。

6. 宿泊・飲食サービス業の固定資本減耗の特徴

今回は経済活動のうち宿泊・飲食サービス業の固定資本減耗について着目してみました。

宿泊・飲食サービス業は日本の場合パートタイム労働者の多い産業です。

資本で稼ぐというよりも、労働者への対価をできるだけ下げる形で成立している産業という特徴もあるのかもしれません。

今後、受付や配膳などの自動化も進んでいく事が想像される産業ですが、この分野では労働者自体の仕事の在り方が大きく変わっていくのかもしれませんね。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。