イスラエルのガザ侵攻は留まるところを知らず、新たに始まった地上作戦はハマスの完全壊滅と残る人質の全面解放を目指しています。この動きにイスラエル内でも懸念の声は大きくなりつつあるし、国際社会でも英国やフランス、カナダがこれ以上侵攻するならイスラエルへの制裁を科すとしています。
トランプ氏の初の外遊となった中東3か国歴訪は結局金儲けの旅だったようで「こんなに巨額のディールができた」と素直に喜ぶトランプ氏の顔が印象的でしたが、イスラエルを素通りしたことがイスラエルを頑なにしたようにも見えます。
イスラエルによるイランの核開発施設攻撃の示唆も日本ではあまり大きくは取り上げられませんが、極めて深刻な問題でイラン政府は仮に攻撃を受ければ報復措置を取ると明言しています。イラン革命防衛隊は「壊滅的かつ決定的な報復」を行うとブルームバーグが報じています。イスラエルのイライラはアメリカとイランの核合意を目指す交渉が行われるも、順調ではないことも影響しているとみています。イスラエルとしては絶対的な脅威となる芽は小さいうちに潰しておきたいという姿勢なのでしょう。それこそ、イランが一発イスラエルに核を落とせばイスラエルの存続問題になりかねないという危機感がその背景にあります。
ところがイスラエルの盟友であるアメリカが今回は今一つピリッとしないこともまたイスラエルを苛立てせています。おまけに21日にはワシントンのイスラエル大使館に勤める結婚間近の2人の館員が射殺されるという事件が起きました。犯人は反イスラエルというより反ユダヤに近い思想的背景を犯行の理由としています。

ネタニヤフ首相とトランプ大統領 同首相インスタグラムより
反イスラエルはガザなどへの攻撃について無慈悲で手を緩めることなく、かなり一方的な攻撃を行うネタニヤフ政権への強い批判というレベルでありました。それはまだイスラエル政府判断への反対姿勢という次元でかろうじてとどまっていたと思うのですが、ここに来て上述の大使館員への犯罪を含め反ユダヤ主義が戦前のように芽生えかねない危険性が高まっているように感じるのです。つまり一線を越えてしまい、国際社会が抑えられなった時、国際世論が爆発するという流れです。
その点において世論はあらゆる理由をつけて戦争を継続するネタニヤフ首相への批判にとどまらず、シオニストという名のユダヤの原理主義が力で跋扈することへの厳しい姿勢とも言えます。
日本ではユダヤ人に対して高いリスペクトと杉原千畝氏の「美談」を含め比較的前向きの意識が強いと思います。更にはユダヤ的発想が金持ちへの玄関的な持ち上げ方をされていることがそのような印象を余計強くさせているのだと思います。一方、ユダヤ人が多いアメリカとカナダでは学生らが声を上げ、絶対人数が少ないユダヤ系の人はそれを刺激しないような状態にあります。
イスラエルが今後、ガザでの完全制圧、周辺国に潜む反イスラエル派への攻撃、そしてイランへの直接攻撃へエスカレートするならば国際社会は反イスラエルから反ユダヤに転じてしまい、その場合、収拾がつかなくなる公算はあるとみています。
基本的には宗教戦争の一環であり、終わりがない話をしています。宗教を原因とする戦争は歴史的に長く続くことも多く、仮にネタニヤフ氏が首相を降りても強硬派はいくらでもいるわけでその点ではプーチン氏のロシアよりもタチが悪いとも言えそうです。
本来であればアメリカがコントロールすべきであり、トランプ氏はネタニヤフ氏の暴走を抑えるべきです。ただし、ネタニヤフ氏も閣内や一部政党の強硬派の声を聞かねばならないという微妙な立場に置かれており、ある意味日本の戦時中の大本営や軍部の会議を見ているような感じすらあります。トランプ氏は戦争嫌いですが、イスラエルには特別の思いがあり、例外的な立場を取り続けています。これは逆にプーチン氏を勇気づけてしまい、アメリカがイスラエルを抑えられないならロシアも戦争を止めないだけだ、というロジックが展開しかねません。
果たしてトランプ氏は立ち上がることができるのでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月26日の記事より転載させていただきました。






