連邦準備制度理事会のパウエル議長の任期は26年5月でその際、パウエル氏が再任されることはないのですが、それ以上に後任の議長がパウエル氏のポリシーとどの程度温度差がある金融政策を行うのか、これによりアメリカのみならず世界の金融市場に大きな影響を与えることになります。

パウエルFRB議長 Board of Governors of the Federal Reserve System SNSより
アメリカの現在の政策金利は4.25%。これが高すぎるか、低すぎるかは他国のそれと金利の利率だけの単純比較というわけにはいきません。政策金利名だけみても各国それぞれバラバラであり、単純に比較対照できるものでもないからです。例えば日本は「日本銀行当座預金のうちの超過準備預金の金利」、アメリカはフェデラルファンド金利、ユーロは中銀預金金利、カナダは翌日物金利…といった具合で皆違います。ただ、多くの市場関係者や専門紙は金利の水準というより金利の向かう方向で経済の温度を図る傾向が強いといったほうが良いでしょう。
故にアメリカの金利は今年、どれぐらい動きそうだという予想は一種の相場のように毎日変化していますし、日本でも日銀総裁や関係者の発言で一喜一憂するのはその上げ下げが最大の注目だからでしょう。
パウエル氏の後任をトランプ氏は早々に指名するぞ、と発言していますが、現時点でそれはホラにすぎません。なぜなら面接は一切やっていませんし、候補者の絞り込みも十分ではないからです。ただ、現時点では2名の名前が取りざたされています。一人は現財務長官のベッセント氏、もう一人が元FRBの理事だったケビン ウォーシュ氏です。
アメリカには才能ある金融指導者はいくらでもいるのでこの2名だけに限って議論する意味は全くありません。が、少なくともこのお二人のようなタイプの方が議長になれば金融政策は保守的政策からより改革的な政策に変わる公算はあるかもしれません。とはいえ、アメリカの金利の上げ下げは世界の金融に影響するのでいくらトランプ氏が「1.00%の利下げを直ちにせよ」と子飼いの議長に呟いたところで「はい、そうですね」にはならないだろうとみています。アメリカはトルコやロシアとは違うのです。ただ、ウォーシュ氏はFRBの権限が広すぎるという考え方ですので彼が指名されればFRBの独立性はやや緩くなるかもしれませんが、個人的にはそれはすべきではないと思います。なぜなら次の大統領が誰になるかわからない中でFRBが政権の影響を受けやすくするのは将来の健全性に疑問が生じるからです。
ただ言えることは今の経済状況が今後1年、維持されるという前提に立つなら先々、アメリカの政策金利は今より1.0-1.5%ほど下がるであろうことは予想できると思います。ただ、パウエル氏も来年まで利下げしないとは言っておらず、現時点では今年2回、うち1回は9月ないし10月でもう1度は12月ぐらいが想定されています。
これは専門家の意見の集計であり、来週のFOMCで利下げする可能性がゼロというわけでもありません。以前から意見しているように個人的には予防的利下げを6月にした方が良いと思いますが、それはあくまでもFOMCで政策決定者集団が決める問題であり、果敢に考えるのか、慎重になるかの違いだとも言えます。経済政策に実験ができないという前提に立てば何が正解かはわからないとも言えます。
トランプ氏は不動産を生業とするビジネスマンです。この部分は実は私と同じなのですが、不動産事業を営む者にとって金利はほかの業種の方が思う以上に宿敵の存在なのであります。トランプ氏が金利に敏感なのはその上げ下げで事業の行方が明白に変わってくるからです。当然ながら金利は低い方が良いと考えます。
では今後2年ぐらいは金利水準が低下歩調となると考えた場合、世の中のビジネスの絵図はどうなるか、ここを早読みすることがマネーのセンスにつながるとも言えます。一番わかりやすいのは金(ゴールド)でドル建てのこの価格はアメリカの金利が下がり、ドルインデックスが弱まれば金の価格は反比例して上昇します。
既に1オンス4,000㌦の声が出始めている理由の一つは昨今の世界の中央銀行の肉食的な金現物の購入量に対して採掘が追い付かなくなっている環境下でドル安がそれを後押しするシナリオです。同様なのが多くの商品価格、資源価格です。ドル建ては高くなるのですが、相対相場である他国通貨の価値が上がるので他国で見れば現実的な価格差はさほど生じないとも言えます。また不動産売買への影響も大きく、すそ野が広い建築業への前向きな影響もある一方、トランプ氏が外国人排斥をしているのが大きなマイナス要因となります。
ビットコインなど仮想通貨も上昇しやすい環境にあるのはトランプ氏がそれに傾注していることもあるし、世界で仮想通貨市場を正当化する動きがどんどん出ていることで市場流通性が極めて高まるからであります。そして仮想通貨もドル建てであるのです。
金利を引き下げたらアメリカの物価は上昇するのではないか、という懸念は確かにあります。ただ、それはインフレーションではなく、スタグフレーション化するとみています。つまり私が20歳の時から間近に見てきたアメリカは実態面の強さから余力とか惰性の経済に変化しているように感じるのです。表現は悪いですが、リタイアしたけれど預貯金がたくさんあるから使ってもへこたれない、そんな経済です。これは長い目で見ると行き詰る訳で、私からすると今、アメリカは目覚めるのか、それともカウチ族を続けのか、という話です。
個人的には世界に対するアメリカの影響力は今後低下のトレンドを継続するだろうと考えています。よって日本もアメリカにばかり頼らない体質を作ることが重要かと思います。例えば日本は英国と共に政策的にアメリカ国債を買い支えています。国債なので満期まで持てばよいのですが、30年後がどうなるかは激変社会において誰も予想できないリスクがあるとも言えなくもないのです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月12日の記事より転載させていただきました。






