尾身茂氏の発言を機に、コロナ感染中のワクチンや行動制限についての異常な言論統制があらためて問題になっている。その被害者であるアゴラとしても、当時の言論を検証しておきたい。
「コロナで42万人死ぬ」という西浦氏の偽予言
2020年3月にコロナが欧州で話題になりはじめたとき、日本でも小池百合子氏などが「大流行が起こる」と騒ぎ始めた。このとき「コロナで60日間に85万人が重症になって42万人死ぬ」という予想を厚労省で発表し、緊急事態宣言の発令を求めたのが西浦博氏だった。私は当時の感染状況から考えて、そんなことはありえないと批判した。
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— アゴラ (@agora_japan) April 17, 2020
実際には、60日間のコロナ死者は約900人。42万人の1/450だ。これを「何もしなかったら42万人死んだはずだ」と弁護する医クラもいたが、どうやったら死者をそんなに短期間で劇的に減らせるのか。
「何もしなかったら」という条件は、具体的に何をするのか言わない限り意味がない。ロックダウンで移動量を「8割削減」した欧米では日本の数十倍の死者が出たのに、半分も減らなかった日本では超過死亡マイナスの過少死亡だった(図1)。行動制限は有害無益だったのだ。

G7諸国の超過死亡(Health Foundation)
図1
初期に日本の被害が少なかった原因は、東アジアの人々にコロナ系のウイルスに対する細胞性免疫があったからだと思われる。これはアゴラでもBCGの効果として紹介したが、これもグーグルが検閲で表示しなかった。
尾身氏を評価した動画をYouTubeは削除した
コロナ分科会長の尾身茂氏は慎重派だった。2022年8月には「コロナの全数把握をやめるべきだ」と有志で提言する異例の手段で、厚労省の過剰検査に反対した。私はこれを動画で評価したが、この動画はYouTubeから削除されたのでVimeoで掲載した。
全数把握が終わった2023年5月でもコロナ死者数は、累計で約7万5000人。3年たっても42万人にはるかに及ばないが、西浦氏はその再検証も反省もしない。
ワクチンは「有害有益」だった
2021年から状況は変わった。マイナスだった超過死亡が、ワクチン接種が始まった5月からプラスになったのだ。これを説明するシンプルな仮説は、仁井田浩二氏のようにすべて直接・間接のコロナ死者だったと考えることである。

図2 超過死亡数とコロナ死者数
コロナ以外に大きな感染症や災害は起こっていないので、この推論は論理的には成り立つ。図2のようにコロナ死者数(青い線)を3倍すると、超過死亡数(赤い棒グラフ)とほぼ同じで、時系列も一致している。
このときワクチンの副反応が疑われたが、結果的には接種数と超過死亡数には(2022年初めを除いて)強い相関はない(図3)。

図3 超過死亡数とコロナ死者数とワクチン接種数(neko-inc)
ただ3億回のワクチン接種による接種後死亡報告数は2283人で、予防接種の安全基準(100万接種で死者1人以内)の7倍以上である。尾身氏は「因果関係が否定できないのは2人だけ」と説明したが、死亡直後に検査しないと死因は確定できない。
しかしワクチンの副反応だけでは、2020年以降の超過死亡数21万人は説明できないので、高齢のコロナ死者は増えたと思われる。ワクチンが重症化を防ぐ効果も多くの臨床試験で明らかだから、ワクチン接種は有害有益だったといえよう。
コロナ対策の費用対効果を再評価するとき
問題はこの費用対効果をどう考えるかである。単純にワクチン接種なしだったら死者が増えたか減ったかという基準で考えると、図2のように少なくとも2021年(デルタ株)にはワクチン接種で超過死亡は減ったと考えられる。
しかし2022年(オミクロン株)から感染者と死者が激増し、日本の超過死亡率は他の先進国より高くなったが、ワクチン接種回数との相関は強くない。圧倒的に強いのはコロナ死亡率との相関で、
超過死亡数=コロナ死者数×3
という式が2021年以降はほぼ一貫して成り立っており、超過死亡は間接コロナ死だと考えてよい。オミクロン株では、初期に死者の少なかった台湾や韓国の超過死亡率が日本より高くなった。これは東アジアの人々がオミクロン株に免疫がなかったためと思われる。
いずれにせよコロナにはまだわからないことが多いが、大事なことは行動制限とワクチンをわけて考えることだ。アゴラのメンバーにも、行動制限を批判する余り反ワクになった人が多い。行動制限は有害無益だが、ワクチンは有害有益であり、今後も費用対効果の検証と再評価が必要だ。
特に有害なのは、グーグルのような言論統制である。宮沢孝幸氏や小林よしのり氏など、YouTubeのアカウントが削除された被害者も多い。感染症のような非常事態のときこそ、政府の過剰反応に流されないネット言論の価値がある。グーグルは削除した私の動画を復元し、言論統制を謝罪すべきだ。






