なぜ日本人は「評価する側」になりたがるのか?

黒坂岳央です。

現代社会では、誰もが「自分こそが評価する側に立ちたい」という欲望を抱えている。もちろん、それ自体が問題というわけではない。多様な意見が尊重される社会において、評価の表明は自由であるべきだ。

しかし問題は、「自分もまた評価される存在である」という視点を失ったときに起こる。「あの人はダメ、この会社はなし」と言うことは容易だが、その言葉は往々にして、「あなたはどのように評価されているのか?」という問いを伴うべきだ。他人への評価が自分への評価と常に地続きであるという認識を忘れるべきではないだろう。

筆者の意見としては、評価する側より評価される側に立つポジションを目指すべきだと思っている。その方が圧倒的に得をするからだ。その論理的根拠を取り上げたい。

※タイトルに「日本は~」と入れている根拠として、日本人は「ランキング好き」「相対性への意識が強い」傾向がある研究データもあり、これは我々の実感とも一致する。

Chainarong Prasertthai/iStock

本来、評価という行為は簡単ではない

多くの場合、評価するという行為は本来、大変むずかしい。

それは単なる好き嫌いや一時の感情で下せるものではなく、全体像を見通す力、比較対象との整合性、そして一定の知見が求められる知的行為である。

たとえばレストランを評価する際に「星3つ」と言うなら、その根拠を明示しなければ意味をなさない。「他店との相対比較」「料理、サービス、雰囲気といった構成要素の重み」「再現性のある基準」などをもとに言語化してはじめて、それは評価と呼べる。

だが、現実にはそこまで到達している人は多くない。

たとえばAmazonの商品レビューに見られる「配送が遅かったので星1つ」といった書き込みは、商品そのものの評価とは無関係な感情であり、真の意味での評価行為とは言い難い。

特に注意すべきは、「批判」の場合だ。人間関係や勤務先などに対して、強い言葉で否定的な意見を述べること自体は構わないが、その批判が一貫性と正当性を持っているかどうかを吟味する姿勢は不可欠だ。

「ではあなた自身の評価はどうか?」と問われると「自分は相手を批判するすべての項目をきちんとできている」、という人は多くないのではないだろうか。

批判すれば、相手から自分も批判されることを想定してからが良いだろう。そうでなければ強烈なカウンターをもらうだけで、不毛な言い争いに終止することが運命づけられている。

評価される側を目指すことの価値

人間は「評価される側よりも、評価する側のほうが立場が上」と感じる傾向がある。一流のメジャーリーガーに対して「下手くそ!ひっこめ!」と酒を片手にやじを飛ばす酔っ払いを連想してもらえばわかるだろう。

むしろ理想的には、自分が評価される側として力を発揮することを目指すべきではないだろうか。

評価される側とは、たとえば動画の視聴者ではなくYouTuber、映画の観客ではなく映画監督のような立ち位置だ。

寄せられる意見を反映し、より良い次の作品にいかせる。一方で不満を出す側はなんのメリットもない。相手を利するだけで自分は批判することに時間とエネルギーを使うが、相手の成長に貢献するだけで自分の人生は1ミリも前進しないのだ。

評価する側は成長できない

さらに、「評価する側でいたい」という意識が強くなると、自分自身が他者からどのように評価されているかに無頓着になりがちだ。

現代は、職場も人間関係も、基本的には相対評価で成り立っている。会社に対して「イケてない」と評価する一方で、会社から「イケてないビジネスマン」と評価される可能性がある。婚活で「この人は魅力がない」と言う人も相手から「この人は魅力がない」と評価される可能性があるということだ。

相手を評価する立場は気持ちが楽で上にたった感覚になるが、実際には相手から見た自分の評価を見なくなり、自己研鑽を忘れてしまい、ドンドン後退する一方なのである。相手を批評する前に、「自分はこの会社で評価に値する成果を出せているか?」という問いを、自問自答する方が健全だろう。

世の中には、評論家ばかりが溢れている。評価はする側に取っては娯楽であり、自分を磨く努力をサボる口実となる。

だが、真に評価する力を持つ人は、その責任の重さを知っている。他人を評価したければ、まず自分が評価される覚悟を持つべきであり、会社や社会を評価したければ、自分が会社や社会から評価されるだけの価値を示すべきだろう。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。