学校時代に習ったアヘン戦争を今でも覚えている方は奇特な方か、何か理由がある方ぐらいかもしれません。英国は清(中国)との貿易において清から買いたいものは山ほどあるが、清に売るものがあまりありませんでした。そこで英国がアヘンを清に流したことで中国が大混乱に陥った話で、その後、アヘン戦争が勃発します。
私はかつて日中関係の温度差がなぜ起きたのか調査したことがあります。ある時期、南京事変に関し、様々な方と意見交流し、中国人の日本人への反感意識を探っていたところ、中国恨みの100年と題する書籍に出会ったのです。中国が恨む100年とはアヘン戦争の1840年から日中戦争、第二次大戦が終結するまで間であり、これを「恨みの100年」と称するわけです。そのターゲットは英国と日本でありますが、個人的には中国人が英国を恨みの対象にしたのか明白には感じ取れていません。日本は地政学的理由や歴史的関係を含め、恨みのターゲットになりやすかったと考えています。
さて、トランプ大統領がメキシコ、カナダとの貿易関係の見直しを迫った最初の理由の一つが合成麻薬フェンタニルが米国に不正に流通していることへの不満でした。フェンタニル、一種の合成オピオイドがアメリカやカナダで蔓延し、数多くの若者の命を奪った事実は日本ではあまり知られていないかもしれません。しかし、本質的には医薬品としての用途があり、大麻よりはるかに安価で強力であるこの薬は若者を中心に幅広い年層で摂取されています。正に清国でアヘンが瞬く間に広がったように、であります。アメリカでこれが広まった一つの理由はストレスやメンタル問題を抱えた人たちがそれを摂取することで多幸感を得やすいことがあったのでしょう。

薬物対策に執念を燃やすトランプ大統領 ホワイトハウスXより
フェンタニルは1錠数ドルで簡単に手に入ります。ただ、使い方によっては2錠飲んで死に至るケースもあるほど強力です。私の住むバンクーバーの一角に非常に荒んだエリアがあります。それはダウンタウンから歩いて15分ぐらいのところで、その一角だけはカナダとは思えないほどの光景を目にすることになります。6車線もある幹線道路の両側には人が溢れ、それらの人は無秩序に信号を見ず、車の前を平気で歩くので私は車で通るのをなるべく避けるほどです。歩道には生きているのか死んでいるのかわからない人が横たわるも誰もそれに関知せず、救急車と警察車両を見ない時はないと言ってもよいところです。彼ら(彼女ら)は若いのに腰が90度に曲がり、まるで夢遊病者のようによぼよぼと歩くまる姿はきっと1830年代の清国でも同様だったのかもしれません。
ではフェンタニルがどこから来たのかという点は中国の武漢がキーであることはほぼ間違いありません。武漢は医薬品の会社が集積しています。コロナ発症説も同地が医薬品の実験を行っていたからだという理由は確かに聞く者への説得力があります。中国はやられたらやり返す、という恨みを晴らす思想があるのですが、まさか恨みの100年の英国の矛先がアメリカになったのではないかと思われるほどアメリカ社会で深刻な問題となっているのです。
さて日経がどうしたのかと驚くほど力を入れているのが本日の朝刊トップの「〈NIKKEI Investigation〉フェンタニル、日本経由か 中国組織が密輸拠点」です。関連記事は1面、2面、3面の上に12面は全ページを割いています。しかも続きもあると謳っています。ポイントはトランプ大統領が毛嫌いするフェンタニル輸出は日本を介在していたのではないか、というものです。正直、記事は力を入れていますが、過去の話で今ではありません。もう1つはフェンタニルが武漢から日本経由でアメリカに流れていたかは「?」マークであり、名古屋にあったとされる拠点が何を意味していたのかも不明です。記事の趣旨はフェンタニルをアメリカに流す大掛かりな組織のトップが日本に在住していた(過去形か現在進行形かは不明)という話であります。
ただ日経が何を思ってこの記事をこのタイミングで掲載したのかわかりませんが、文春砲のようなこの記事は別の意味で影響を及ぼすかもしれません。それは赤沢氏が7回目の訪米で関税交渉を予定している中で交渉に面倒な切り口を入れたな、という点です。関税交渉を含め、トランプ氏の交渉術とは縦割り交渉、つまり特定の事象について専門家とその責任者が妥結する方式ではなく、二国間のあらゆる事象をぶちまけて交渉する方式においてアメリカの政権からは「この記事の意味するところは何だ?もしもフェンタニル問題に日本が絡んでいるならそれを徹底的に調べ上げたうえでないと関税交渉はできない」と言ってもおかしくないのです。
個人的には今日の記事だけを拝見する限り真の意味でのインパクトは少ないように感じます。ただし、そのような事実があったとすれば日本のわきの甘さが指摘されるのは確実でしょう。つまり石破首相や岩屋外務大臣が性善説に乗っ取った中国との関係改善を図る一方、アメリカの性悪説に立てば日本はやりたい放題できる国で、それが放置され取り締まりも緩いと思わる点です。
フェンタニルのような合成麻薬は簡単にできてしまうところが怖く、社会に蔓延しやすい特徴がある点も留意すべき点でしょう。日本では現時点ではまだ大麻絡みの問題が主で合成麻薬系の問題は少ないように見えます。ただ、これは日本でもさほど遠くない時期に起きる問題となるでしょう。そういう意味で日本政府は前倒しの事前対策を早急にとるべきだと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月26日の記事より転載させていただきました。






