国連憲章は1945年6月26日にサン・フランシスコ市において調印され、1945年10月24日に発効した。国連憲章は19章、全111条から構成され、過去、3度改正された。国連広報センターの公式サイトは国連憲章80周年を迎え、その目的などを説明している。

国連憲章 国連広報センターから
「1945年6月26日は、50カ国が国連憲章に署名し、平和、安全、そして人権の促進を目的とする組織が設立された日だ。すべての個人の尊厳を強調するこの憲章は、戦争の予防、社会の進歩の促進、そして国際法の遵守を目的としている。以来、国連は193カ国を加盟国とするまでに成長し、世界で重要な役割を果たしてきた。憲章発効80周年は、その意義と、共通の利益のために協力するという各国の決意を改めて認識させる」。
国連憲章の前文には、「われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進する・・これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した」と記されている。以上、国連広報サイトから引用した。
国連が過去80年間、「第2次世界大戦後の各国の復興を支援し、旧植民地の独立を支援し、平和を促進し、援助を提供し、人権と開発を推進し、気候変動といった新たな脅威に取り組んできた」ことは事実であり、国連の貢献は決して小さくない。
その一方、アントニオ・グテーレス事務総長は「国連憲章の原則はますます脅威にさらされている。国連憲章は選択できるものではなく、アラカルトメニューではない。それは国際関係の基盤だ」と述べ、「平和、正義、進歩、そして我々人民のための」という憲章の約束を改めて果たす必要性を強調している。国連存続への危機感の表れだ。経済社会理事会(ECOSOC)のボブ・レイ議長は「国連は政府ではなく、憲章も完璧ではないが、偉大な志と希望をもって創設された」と擁護している。
80年前に誕生した国連憲章は「第2次世界大戦後の混乱の中、大恐慌とホロコーストの傷跡を負い、国際連盟崩壊の痛ましい教訓を学んだ世代によって制定されたもので、新たな世界的協定を象徴する」が、21世紀を迎え、その改革が急務となってきている。
グテーレス事務総長は「国連憲章は単なる羊皮紙とインクの文書ではない。それは、諸国間の平和、尊厳、そして協力という約束だ。憲章は始まりに過ぎず、世界が日々実践しようと努める理念と原則を定めたものだ」と強調し、国連憲章の死文化に警告を発している。
世界中で戦争や危機が発生している。ロシア軍が2022年2月、ウクライナに侵攻し、これまで数万人の犠牲者、負傷者が出ている。イスラム過激派テロ組織「ハマス」のイスラエルでの奇襲テロを契機に、イスラエルとハマス、そしてイランとの戦争が起きたが、国連は戦争・紛争の解決にほとんど関与できず、蚊帳の外にいる。国連への信頼度は地に落ちてしまった。
ところで、欧州連合(EU)で新規加盟国を求めた拡大政策が叫ばれた時、一人の政治家が「加盟国は増えればそれだけ、その組織の行動力、結束力は弱まる」と述べていた。国連は80年前の国連発足当時は50カ国に過ぎなかったが、現在193か国の加盟国だ。193カ国の加盟国を抱える国連は193の異なる国益外交の衝突の場となってしまっている。
その一方、世界最強国・米国の国連離れが進む一方、国連内での中国の影響力が急速に拡大している。中国共産党政権は国連専門機関のトップポストを掌握するなど、その影響力は国連最上層部までに及ぶ。例えば、グテーレス氏は中国のウイグル民族に対する中国共産党政権の弾圧政策を厳しく批判したことがあったか。法輪功信者への強制臓器摘出問題に対して北京を追及したことがあったか。大国間の利害調整は重要だが、中国の人権蹂躙問題に対する事務総長のスタンスは過去、揺れてきた。
国連改革と言えば、安全保障理事会の改革を意味することが多い。ロシアと中国の2カ国と米英仏の3カ国の常任理事国が対立している現時点では、世界の紛争は解決できない。対立を調停し、妥協可能な解決策を見出すためには、安保理改革だけではない。国益を超えた明確な理念を提示する必要がある。共生、共栄、共義の世界実現の為の理念だ。そこで共通の価値観を有する新しい国際機関の創設という案が飛び出すわけだ。
当方は4年前、このコラム欄で「直径最大200ナノメートル(nm)の新型コロナウイルスは今日、民族、国境、大陸を超え、世界全土でその猛威を振るっている。一方、われわれ人類は民族、国境、大陸の壁を超えることが出来ず、戦い、苦悩してきた。このままの状況が続くならば、人類はウイルスよりも劣る存在となってしまう。民族、国境、そして宗教の壁という‘地の重力‘から自らを解放しなければならない」と書いた。国連改革の前に、人類は飛躍しなければならないのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






