赤沢氏が7度アメリカに行き、関税交渉を進めてきました。その熱意には脱帽だと申し上げましたが、7度目は正直、散々だったと思います。端的に言えば「相手にしてもらえなかった」のです。

トランプ大統領に恭順の意を示した赤沢大臣 ホワイトハウスXより
北米で長くビジネスをしている私から見ると交渉のスタンスが違い過ぎるのだと思います。赤沢氏に課せられた任務は100点満点とは言わなくても80点から90点は取ってきてほしいという期待感だったと思います。特に石破首相の懐刀のような赤沢氏に対する思いは大きかったのでしょう。一方、アメリカは交渉が暗礁に乗り上げるのは無意味で時間の無駄と考えます。つまり、赤沢氏の7回の交渉が一進一退だったのか、曲がりなりにも前進を続けたのか、であります。
このスタンスの好例がアメリカとイランの核開発交渉でした。明らかに一進一退となったところでトランプ氏は「話し合いなどしてもムダ」という判断を下し、力による圧倒をします。赤沢氏が確か6回目の交渉を終えた際にトランプ氏が日本を「タフ」と称し「だめなら手紙が一枚行くだけだ」と述べたのですが、日本の報道機関は後者の部分を一切報じませんでした。
関税交渉はアメリカ有利のまま、各国がディールを進めています。遅れているとされるEUはフォンデアライエン欧州委員長がディールの用意はできていると述べています。カナダも破綻寸前でデジタルサービス課税を撤廃し、交渉を原点に戻しました。
日本の場合、ポイントはいくつかあります。①25%の自動車関税を飲むのか?②自動車産業からの政府への突き上げと責任追及をどうかわすか?③財務省は負けを認めるか?④参議院選への影響は不可避か?です。
①については報道が必ずしも正しいわけではありません。日本メーカーでは既にアメリカで現地生産を進めている車種も多く、また部分生産の場合の関税計算は容易ではありません。ただし、勝ち組と負け組が出るのは事実で日本の自動車メーカーに再編を促すきっかけとなる可能性は秘めています。
②の自動車産業の声ですが、強烈な不満を呈することになるでしょう。一方、赤沢氏の持つ交渉カードが弱いカードを数多く持っていたような気がしてなりません。絵札とかエース級のカードはなかったのでしょう。持たせなかったのは誰でしょうか?石破氏の責任は重いと思います。
③財務省は負けを認めるか、の意味です。日本メーカーは値上げに対して極めて慎重です。例えば税金やコストなど外部環境で30%のコスト増が生じた場合、欧米メーカーは30%ないしそれ以上を当たり前に価格引き上げをします。私もカナダでは全く同様で何の遠慮もありません。「おまえ、値上げしたか?」と言われれば「〇〇が上がったのだからやむを得ない。俺のせいではない」でそれ以上の議論にもなりません。ところが日本メーカーは頑張っちゃうわけです。外部環境で30%上がりましたが、企業努力で10%値上げに留めさせていただきます、と。
これが日本国内で完結するなら良いのです。ところが外国が絡んでくると移転価格税制の問題が生じます。移転価格の説明はここですると長くなるのでしませんが、20年ぐらい前に大きな話題になった国際間の関連会社間取引における取引価格の妥当性です。仮に日本車を売るアメリカの会社が「そんなに値上げできないから一部は自社で吸収する」とした場合、その値引き分を誰が吸収するかなのです。アメリカの関連会社がそれで赤字になっても移転価格制度上、それは受け入れられません。日本車販売のための本国の指示だろう、ということになり、その値引き分は日本本社が負担すべきものになるのです。するとどうなるかといえばアメリカの自動車販売会社は実質赤字でもアメリカで税金を払い、親会社の日本企業の決算は悪化し、黒字幅減少となり、税収が減るというシナリオです。
専門家である財務省は当然のことながらわかっていたはずです。よって関税25%交渉に固執したのは実は財務省ではないかとすら勘繰っているわけです。
では最後⑤の参議院選への影響です。仮にトランプ氏が参議院選前に関税交渉の結果なり見込みを発表し、それが日本の交渉敗北と取られる内容なら石破政権には強烈な打撃となるのは必至です。参議院選で自民が負けるかどうかは別問題だと思いますが、石破氏が政権遂行能力を失いそうだという強烈なメッセージとなり、野党が勢いづく公算はあります。選挙は水物なので予想しがたいですが、野党戦国時代で東軍の与党に対して西軍の野党は野党同士の牽制が多いように見えます。
ところで石破政権はアメリカからは好まれていないとみています。石破氏がNATO首脳会議に行かなかったのは石破氏が行く気が失せるほどの何かがあったとみています。そしてそれは我々一般には見えない力が理由な気がします。石破氏と岩谷氏は媚中派として中国にはすごく好まれます。それがアメリカには非常にムカつく話だということです。
もしも起死回生の逆転交渉ができるとすれば石破政権から自民党主流派へバトンを戻し、再交渉を進めるしかないとみています。政権が実質的に外圧により瀬戸際にあることは小学生でも感じ取れる状況でしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月1日の記事より転載させていただきました。






