選挙前に連立構想を示せ
25年参院選は世論調査の予想通りの結果になりました。日本の政治はどこに向かうのでしょうか。少数与党、野党は中小政党に分散という流れの長期化は不可避で、本格的な連立政権の時代に入っていくだと思います。参院選がそれを示唆しました。その場合、何が必要になってくるのでしょうか。
昨年10月の衆院選で自民党が大敗し、自公政権は数合わせの政治に奔走し、案件ごとに協力相手を探す手法を繰り返し、予算、法案を通すために、野党ごとに要求を丸呑みしまし。財源を考えない無責任の政治が常態化し、信頼を失いました。この手法は日本の財政を悪化させるだけです。もう終わりにしなければなりません。本格的な連立政権を作る時代が不可避になったと思います。
そのためには、選挙前に連立を組む政党と連立構想を決め、選挙公約として有権者に示すべきです。選挙が終わってから連立相手を物色して、「数合わせ」するから舐められ、有権者からは信頼を失う。選挙を勝てると考える連立構想を作り、公約することが必要です。石破政権が繰り返した目先の「数合わせ」は、有権者にとっては迷惑な話で、政党政治の透明性が欠けます。
もっとも各野党も少しでも議席を増やそうとして、ポピュリズムに走りました。野党は結集できずに分散化し、その結果、自民党は少数与党とはいえ「第一党」のままで、今のところ石破首相は続投の意向です。国民民主党は「自公との連立には乗らない」(玉木代表)いっています。
野党には石破退陣に追い込み、秋には総選挙に持ち込み、議席をさらに増やして、この度は連立構想を練ろうとするのかもしれません。8月に入ると、1日が日米関税交渉の期限ですから、その前に石破首相は退陣できない。6日は広島の原爆犠牲者の追悼式典、15日は終戦(敗戦)記念日ですから、与野党とも政治の流れを確定しておくシナリオをすぐには書けません。

石破首相と森山幹事長 自民党HPより
自民党政治80年の終焉
自由党と日本民主党が合体して自民党となったのが1955年11月、二大政党制を目指すつもりで小選挙区制を導入したのが1994年です。自民党の政治資産は次第に消滅してきており、ついに歴史的な転換点にきたことを示唆しているのが25年参院選だと思います。
長期政権を記録した安倍政権がなしたことといえば、トランプ米大統領、プーチン大統領と親交を結んだこと、異次元金融緩和と財政拡張を軸とアベノミクスでしょうか。そのトランプ氏は戦後の繁栄を下支えした世界秩序、国際機関、各国との同盟関係の破壊であり、プーチン氏はウクライナ侵略です。アベノミクスがもたらした金融財政上の負けの資産もいかに巨大かが否定できなくなっています。
トランプ氏のディールという名の威嚇外交(高関税、グローバリゼーションの否定)で、世界は大転換期にきています。日本が無傷ではあり得ません。対米従属関係はいつまでも続かないし、対中関係を改善して信頼醸成を試みる外交も必要になってくるでしょう。日本はそうした歴史的な転換期を迎えているのに、参院選での議論は「財源論なしに手取りを増やす」、「意味があいまいな日本人ファースト」、「社会保障費の財源を失う消費税の減税・停止」に明け暮れました。
政治部長の解説は舌足らず
各紙の政治部長はどんな解説を書いているでしょうか。「主要野党では議席を伸ばしたものの、既成政治批判の中に埋没して感がある」(朝日)、「一日も早く政治を安定させ、国の針路を定める必要がある」(読売)とありきたりの書きっぷりです。「世界も日本の政治も歴史的な転換期を迎えている」という基本的な命題に全く触れていません。
社説はどうだったでしょうか。「閉塞感をもたらしている政治の現状に有権者は変化を求めた。政局の混乱を最小限にとどめるため、与野党には責任がある」(日経)も、日本の歴史的転換点における政治のあり方という文言はありません。
「自公政権は終わりを告げ、新たな連立を構築する時を迎えている。財源にも責任を持つ連立政権の枠組みを広げていく必要がある」と、読売は正論を吐いています。「部分連合を続けるのか、連立の拡大や組み替えを目指すのか」と、朝日も連立のあり方に触れています。そこまでいうなら「国際社会における日本の立ち位置をしっかり考える連立を作り、選挙前に有権者に示すべき時代にきた」と主張すべきでした。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年7月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。






