政治的失敗を自然災害にすり替える石破ロジック

自民・公明が大敗した参院選から1夜明けた2025年7月21日、石破茂首相(自民党総裁)は記者会見を開き、改めて続投を表明した。

会見で、続投の理由について「我が国は今、米国との関税交渉あるいは物価高、明日起こるかもしれない首都直下型地震、あるいは南海トラフそのような自然災害。そして戦後最も厳しく複雑な安全保障環境。国難とも言うべき厳しい状況に直面をいたしております」などと語ったが、これには強い違和感を覚える。

確かに日米関税交渉は重要な局面にあり、実際に7月23日には妥結に至った。しかし、この交渉で日本側がどれほど国益を守れたのか、トランプ大統領の強硬姿勢に対して有効な成果を得られたのかは疑問が残る。交渉の詳細が明らかになるにつれ、国民の評価も定まってくるだろう。

政治の停滞を避ける必要性も当然だが、これは自らが招いた問題であり、続投の理由にはならない。自民党は比較第1党ではあるが、2024年10月の衆院選で56議席、今回の参院選で13議席、合計69議席を失っている。この責任は非常に大きい。

続投の意向を示した石破首相
NHKより

そもそも、石破首相は2024年9月の自民党総裁選で「選挙の顔」として期待され、総裁に選出された。しかし、その期待は完全に裏切られた形だ。衆参両院で過半数割れという戦後初の事態を招いた責任は重い。

通常であれば、このような歴史的敗北を喫した指導者は潔く身を引き、党の再生を新たなリーダーに託すものだ。それが民主主義における政治的責任の取り方である。

さらに、米国との関税交渉や物価高と首都直下型地震や南海トラフなどの自然災害を同列に扱うことはできない。関税交渉や物価高は政治・経済政策の結果であり、政府の対応次第で改善可能な問題である。特に関税交渉については、7月23日の妥結内容次第では、今後の日本経済に大きな影響を与える可能性がある。

一方、地震などの自然災害は人為的にコントロールできない事象だ。異なる性質の問題を並列することで、政治的責任を曖昧にしようとする姿勢は、国民の信頼を得られないだろう。

そもそも首相の発言は、日本語としても不自然である。「米国との関税交渉あるいは物価高、明日起こるかもしれない首都直下型地震、あるいは南海トラフそのような自然災害」という表現は、文法的に破綻している。

「あるいは」という接続詞の使い方が一貫せず、「南海トラフそのような」の部分では助詞が脱落し、文章の流れが途切れている。これは単なる言い間違いではなく、論理的思考の混乱を反映しているように見える。

政治的課題と自然災害を無理やり結びつけようとした結果、日本語の構造そのものが崩壊してしまったのだ。国のリーダーが国民に向けて発する言葉としては、あまりにも稚拙であり、この言語能力の欠如もまた、続投への疑問を深めるものである。

今回の選挙結果は、裏金問題への対応の甘さ、物価高への無策、そして国民の声に耳を傾けない姿勢への明確な審判だった。

石破首相が本当に「国難」を憂うのであれば、現在の政治的混乱を打開する道を真剣に模索すべきだろう。7月23日の関税交渉妥結を契機に、その内容と影響を国民に丁寧に説明し、理解を求める努力も必要だ。国民が求めているのは、選挙結果を真摯に受け止め、政治の信頼回復に向けた具体的な行動である。

今後の政権運営においては、野党との建設的な対話を進め、国民の声により一層耳を傾ける姿勢が不可欠だ。それができなければ、政治不信がさらに深まることは避けられない。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)