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いよいよガソリン税の暫定税率が廃止の方向に?
政府与党の選挙での敗北により、野党が長年主張してきたガソリン税の暫定税率廃止が現実的な政策課題として浮上してきました。
ガソリン価格の高騰に苦しむ我らにとっては朗報に聞こえるかもしれません。
だけど、ガソリン税って地方自治体での道路の補修などにも利用されているんですよね?
道路の補修というと、突然大きな穴が空き、尊い命が奪われたこともありました。
なにせ、私がその数日前にもそこを通過した生活圏内のことでしたので、この税制改正が今後道路の維持管理に与える影響はどれくらいあるのかが気になります。
そこで、税理士としては専門外ではありますが、複雑なガソリン税の仕組みを整理した上で、暫定税率が廃止された場合に地方自治体が直面する課題について、整理しておこうと思います。
ガソリン税の基本的な仕組み
ガソリン税とは2つの税金の総称
私たちが日常的に「ガソリン税」と呼んでいるものは、正確には揮発油税と地方揮発油税という2つの税金の総称です。
一般的に「消費税」と言われるものが、実は国税(7.8%)のほか地方税(2.2%)に分かれているのと同じです。
これらは、ガソリンスタンドでガソリンを購入する際に、価格に含まれる形で課税されています。
現在の税率は以下の通りです:
- 揮発油税:48.6円/リットル(本則税率24.3円+暫定税率24.3円)
- 地方揮発油税:5.2円/リットル(本則税率4.4円+暫定税率0.8円)
- 合計:53.8円/リットル
つまり、1リットルあたり53.8円という税金がガソリン価格に上乗せされているわけです。
仮に、レギュラーガソリンの店頭価格が170円程度だとすると、その約32%がガソリン税ということになります。
意味がわからないのですが、さらにそのガソリン税にまで消費税が課されているのです。
このガソリン税は、自動車取得税や自動車税と合わせて、道路整備を緊急かつ計画的に行うための「道路特定財源」とされていました。
要するに、クルマを使う人のために、道路はあるのだから、その整備のためのコストもそのクルマを利用する人が負担するというものだったのです。
暫定措置のはずなのに、もはや恒久的な課税が
暫定税率は、1974年の第一次石油危機を契機に導入された「暫定的な」税率の上乗せ措置です。
当初は、期限付きで導入されました。
しかし、「暫定」という名前とは裏腹に、この措置は延長に次ぐ延長を重ね、実に50年以上も続いています。
この上乗せ分である25.1円の暫定税率は、全国平均のガソリンの小売価格が1リットル当たり160円を3か月連続で超えた場合、自動的に課税されなくなる「トリガー条項」というものがあります。
しかし、2011年の東日本大震災のあと、復興財源を確保するためとして、以来この「トリガー条項」は凍結されたままなのです。
一般財源化の意味するところ
道路特定財源の一般財源化は、2009年に当時の民主党政権下で「コンクリートから人へ」というスローガンのもと実施されました。
これにより、ガソリン税収は道路整備という使途の縛りから解放され、より柔軟な財政運営が可能になりました。
現在のガソリン税収は道路整備に限定されず、社会保障、教育、防衛など、あらゆる行政サービスの財源として使われているのです。
かつては「道路を使う人が道路整備費を負担する」という明確な理屈がありましたが、一般財源化後のガソリン税については「なぜクルマのユーザーだけがその負担を強いられるのか」という根拠が不明確になったとも言えます。
社会資本は人間と同様、急速に老朽化している
一方で、我が国の社会資本ストックは高度経済成長期に集中的に整備されたため、今後一気に老朽化することが懸念されています。
2023年の時点で、道路・橋の約37%が建築後50年を経過しています。
それが、2040年の段階では、道路・橋の約75%が建築後50年以上を経過することになるのです。
つまり、道路などの社会資本については、老朽化によりその維持にカネが余計に掛かるようになるのに、そのメンテナンスの必要な数が一気に増えるという、全くもって人間の高齢化社会と同じような問題を抱えているということです。
すでに、全国で年間約10,000件の道路の陥没が発生しています。
ガソリン税の暫定税率の有無とは関わりなく、十分な道路の補修に予算が回らなくなれば、この先その道路の陥没事案は飛躍的に増えていくことになるでしょう。
暫定税率廃止による影響は1.5兆円の財源喪失
国全体への影響
財務省の試算によると、ガソリン税の暫定税率を廃止した場合、年間の税収減は約1.5兆円に上ります。これは消費税率0.5%分に相当します。
政府としては、消費税の大幅な減税は飲めないけど、こっちなら仕方がないと思える財源規模なのかもしれません。
内訳を見ると:
- 揮発油税の減収:約1.3兆円
- 地方揮発油税の減収:約0.2兆円
一般財源化されているため、この減収は特定の分野に限定されず、国の財政全体に影響を及ぼすことになります。
地方交付税への影響も懸念される
地方揮発油税の減収分だけが、地方自治体の税収の減少をもたらすだけではありません。
国税である揮発油税の減収が、地方交付税を通じて地方財政にも影響を与えることになります。
地方交付税の総額は、所得税・法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の19.5%、そして地方法人税の全額で構成されています。
揮発油税は直接的には地方交付税の原資ではありませんが、国の一般財源が減少すれば、地方交付税総額の確保も困難になる可能性があります。
暫定税率廃止による1.3兆円もの国税減収は、間接的に地方交付税の削減圧力となることが懸念されるのです。
減税には必ず負のインパクトがあることの覚悟は必要
ガソリン税は、すでに一般財源化されており、道路整備だけでなく、社会保障や教育など幅広い行政サービスの財源となっています。
それなのに、なぜクルマのユーザーだけが負担を強いられるのか。
その上、ガソリン税の暫定税率には、もはや課税の大義名分はなく、その廃止の声にも説得力はあるといえます。
とはいえ、地方自治体にとっては、地方揮発油譲与税の減少という直接的な影響に加え、国の財政悪化による地方交付税への間接的な影響も懸念されるのです。
特に財政力の弱い自治体では、限られた財源の中で、住民サービスの低下は避けられないでしょう。
1.5兆円の減税で、どれだけインフレになるのかはわからない。
だけど、ガソリン税の暫定税率のような、もはやなぜ課税されているのかわからないものでも、なくなると、直接的、間接的に、我らの生活にも影響は出てきます。
つまり、どの税金であっても減税は、我らに恩恵をもたらすだけではなく、別の負担増や不便を我慢することも求めて来るということです。
税金の全てを政治家や官僚が無駄に使っているわけではないのですから。
2040年には年間190兆円に達すると言われる社会保障費。その桁違いの金額を賄うためには、消費税の増税や社会保険料の増額は避けられません。
その負担増を可能な限り減らすためには、社会保障給付の削減に手を付けざるを得ないのですが、そのインパクトは、ガソリン税の暫定税率廃止のどころではない、大きなものになることを覚悟しないといけないでしょう。
編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年7月29日エントリー)より転載させていただきました。






