日本の財産所得は多いのか? 1人あたりと対GDP比の国際比較

Rudzhan Nagieva/iStock

この記事では、財産所得の国際比較をご紹介します。

1. 日本の財産所得

前回は、日本の経済主体別に財産所得を可視化してみました。

付加価値の生産に伴う所得ではなく、資産の運用によって得られる財産所得は日本の場合徐々に増加傾向にあるようです。

今回から、財産所得についての国際比較をしていきたいと思います。

まず、日本の財産所得について確認してみましょう。

図1 財産所得 日本
国民経済計算より

図1が日本の財産所得の推移です。

賃貸料利子海外直接投資に関する再投資収益法人企業の分配所得、その他の詩投資所得といった項目が、受取側(プラス)、支払側(マイナス)の両側に同じくらいずつ計上されています。

これは、基本的に財産所得は国内主体同士で受払いがされているためで、それぞれの差分は海外に対するものとなります。

財産所得(受取)の合計から、財産所得(支払)を差し引いた財産所得(正味)が、結果的に海外に対する正味の財産所得となります。

今回は(正味)と記載しますが、資料によっては海外からの純受取と表現されることもあるようです。

日本の場合は、財産所得(正味)は徐々に増加していて、2022年では33.9兆円に達しています。

今回は、この日本の水準が海外と比べてどの程度なのかを国際比較していきたいと思います。

2. 1人あたりの推移

まずは、人口1人あたりの財産所得(正味)について、為替レートでドル換算した推移から眺めてみましょう。

図2 1人あたり財産所得(正味) 為替レート換算値
OECD Data Explorerより

図2が主要先進国の1人あたり財産所得(正味)のドル換算値(為替レート換算)です。

所得なので購買力平価(家計最終消費支出)でドル換算しても良いと思うのですが、国際的な金額の大小が重要と思いますので、今回は為替レートでドル換算した数値をご紹介します。

日本(青)はドル換算値でも増加傾向が続いていて、ドイツと共に非常に高い水準に達しています。

アメリカは2010年代まで、フランスは2000年代まで、イギリスは2000年代中盤まで高めの水準でしたが、その後低下しています。

カナダが常にマイナスで推移しているのも非常に興味深いですね。

海外への支払が常に超過している事になります。

3. 1人あたりの国際比較

次に、人口1人あたり財産所得(正味)について、国際比較してみましょう。

図3 1人あたり財産所得(正味) 2023年

図3が1人あたり財産所得(正味)の国際比較です。

上位はノルウェー、デンマーク、スウェーデンと北欧諸国が並びます。

日本は2010ドルで先進国第4位、G7で1位となっています。

ドイツ、スイス、韓国も水準が高い方になるようです。

一方で、ルクセンブルクやアイルランドが極端にマイナス額が大きいのも特徴的です。

特にアイルランドは近年経済水準が急激に高まっている国です。

他国からの投資が増え、財産所得としての支払が大きく超過している様子がわかります。

4. 対GDP比の推移

つづいて、金額ではなく対GDP比についても確認してみましょう。

図4 財産所得(正味) 対GDP比
OECD Data explorerより

図4が主要先進国の財産所得(正味)対GDP比の推移です。

基本的には人口1人あたりのドル換算値とそれほど変わらない位置関係ですが、日本の水準の高さが一層際立っていますね。

日本は海外からの受け取り超過がGDPの6%近くに達している事になります。

5. 対GDP比の国際比較

最後に、財産所得(正味)対GDP比の国際比較です。

図5 財産所得(正味) 対GDP比 2023年
OECD Data Explorerより

図5が財産所得(正味)対GDP比の国際比較です。

対GDP比で見ると日本が最も高い水準となるようです。

プラス側は比較的所得水準の高い国々が並びます。

マイナス側は東欧やな南欧など経済発展中の国が多く、海外からの投資がどれだけ超過しているかという関係が良く表れているようです。

6. 財産所得の特徴

今回は1国全体の財産所得について国際比較してみました。

日本は海外との財産所得では受取が大きく超過している国である事がわかります。

日本の場合、証券投資(株式投資)では対外投資も対内投資も同じくらいの規模で相殺しますが、直接投資では対外直接投資が大幅に超過します。

その分だけ、財産所得としてのリターンも大きく超過している関係として捉えれば、今回の結果とも符合するのではないでしょうか。

図6 対外資産負債残高 日本 2022年
財務省資料より

図6は日本の対外資産負債残高を表していますが、直接投資は対外直接投資が大きく超過している事がわかります。

他国は対外直接投資と対内直背投資が相応の水準となりますので、財産所得としてもかなりな部分が相殺すると推測されます。

このような背景のもとに、海外との財産所得の収支も影響を受けていると理解すれば良いのではないでしょうか。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年8月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。