各方面の報道を重ね合わせると来週にも既に決められた「ある場所」でトランプ氏とプーチン氏が直接会談することになりそうです。アメリカ、ロシア側双方からの発表ですので前回、プーチン氏とゼレンスキー氏の会談を目論み、トランプ氏も参加するかも、といったあやふやな内容とは違い、より現実的で会談が実施されそうであります。

プーチン大統領(クレムリンHP)とトランプ大統領(ホワイトハウスHP)
ところでこの会談とは別にインドのモディ首相が不仲説が伝えられていた習近平氏と8月に会談することが報じられています。世の中は一本の糸ではなく、数多くの因子が複雑に絡み合っていますが、このあたりを中心にウクライナ問題についてどのような会談と展開が想像できるのか、考えてみたいと思います。
まず、ウクライナ問題の現実的解を語るうえで私が考えているのはトランプ、プーチン、ゼレンスキー各氏の政治余命であります。可能性としては短い順にゼレンスキー、トランプ、プーチン氏と前提を立てています。これは長い目で見た本件の根幹をなす貴重な点であると私は考えています。プーチン氏は「満足」という言葉を知らないので妥協を引き出すのが難しい人だというのは安倍―プーチン会談の歴史を見ればご理解いただけるでしょう。とすれば時間軸が最も長いプーチン氏が交渉には有利であるとみています。
トランプ氏は功を急ぐのが短所であり、特にその攻め口が金融制裁的なビジネスマン的思考が強く出るところが特徴です。言い換えるとトランプ氏はウクライナ問題に仲介して何を得ようとしているのか、そして中長期的な地域和平をどう描いているのか不明瞭で、私にはとりあえず「武器を置け」というようにしか聞こえないのです。
とすればプーチン氏が求める絶対条件、東部ウクライナ割譲とウクライナのNATOへの将来にわたる非加盟宣言=実質的にウクライナを無力化させることをトランプ氏との2人の会談で暗に合意することが可能なのでしょうか?もちろん、過去、戦争の当事国ではない第三国が和平を提示することがなかったわけではないのですが、ゼレンスキー氏の性格からして「この線で行こう」と提示されて素直に「はい」と受け入れるものなのか、首をかしげるところであります。
次にインドと中国です。トランプ氏の戦略である「ロシアとの商取引をするものにはペナルティを課す」という点についてどう対応するのか、この足並み調整が8月の両者会談の重要なテーマの一つであることは間違いないでしょう。インド、中国はロシアから原油を購入していますが、報道が二転三転しており、つい1-2日前はインドはdoesn’t matter (関係ねぇ!)という論調だったものがLet’s see (どうしようかね?)に変わってきている感はあります。報道を読み取る限り、モディ首相は考えあぐねているようでここは習近平氏と調整するのがベストという判断に動いたと見ています。
これが何を意味するかといえばトランプ氏とプーチン氏が会談しても即座の本質的解決はないことを前提にしているように見えます。
一応、考えられるシナリオは
- トランプ氏仲介により停戦合意。和平合意に向け突き進む:可能性はかなり低い
- とりあえず停戦するもその後、交渉も進まず外的状況は何ら変わらず:ありうる。その場合、中印のアメリカ関税対策要
- 会談の実質成果ははなく、停戦もなく、継続交渉:最もありうる。その場合、中印が外交を含め、どう立場を表明するか?
- 会談決裂、アメリカはロシアを威嚇:やりかねないが、トランプ氏はそこまでの度胸はない
結局のところ、仮に停戦になろうともアメリカがロシア関連の経済制裁を解かない限り、ロシア産原油輸入などの関税問題が消えることがなく、中国とインドはトランプ氏が25%程度のペナルティ関税を課そうという点にどう対応するか切実な問題になります。
私の考えるところでは中国もインドもアメリカになびかない、つまり関税でいじめられているブラジルやG20会議にトランプ氏が不参加としている南アフリカを含め、BRICSの構成国の結びつきをより強化させ、泥沼に陥ることになりかねないとみています。
ではそれ以外の国、特に新興国は踏み絵になるのか、といえば「いいところ取り」をする傾向がますます強まるとみています。言い換えるとアメリカの覇権主義は案外もろく、崩れやすい状況を促進するだろうとみています。またトランプ氏が派手に立ち回れるのはどう見てもあと2年が精一杯です。とすればロシアも中国もインドもそれぐらいは「耐えられる」でしょう。
トランプ氏の次もトランプ氏に似た人になるかもしれない、という指摘はあるでしょう。個人的にはトランプ氏ほど精神力やタフさをもった人はそう現れないとみています。つまり次の大統領が誰になるにせよ、尻ぬぐいをさせられるし、世界中がアメリカにプレッシャーをかけるとみています。
米ロ会談をすれば私はプーチン氏がほくそ笑むと見ています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月8日の記事より転載させていただきました。






