ジャングリア沖縄が7月25日にオープンした。
「CMとかけ離れてる」と、広告と実態のギャップを指摘した批判がネットに投稿されている。だが、こうした批判は今に始まったことではない。
「映画は広告を超えられるか」
1970年代に、映画『犬神家の一族』『人間の証明』『復活の日』など、大仰なTVCMを流していた角川映画を揶揄する言葉である。
当時の映画の広告は、主に新聞※)とポスターがメインであり、TVでCMを流すことはなかった。映画界には「テレビが映画の客を奪った」と、テレビを敵視する風潮があったからだ。そんな時代に、TVCMを多用した角川映画は、多くの批判にさらされた。その多くは「広告と作品の質が乖離している」というものだった。ジャングリアに対する批判と同じだ。
※)金曜の夕刊テレビ欄下に映画広告が掲載されていたことをご記憶の方もおられるだろう
当時と異なるのは広告が飛躍的に「進化」したことだ。映像加工技術が向上した。キャッチコピーの作成術が洗練された。結果、ギャップがさらに広がり、嫌悪感もより高まった。ジャングリアは、その最新例と言える。
そのギャップを、以下に整理する。

株式会社ジャパンエンターテイメントプレスリリースより
ギャップの要因
・PV(プロモーションビデオ)
まずはPVだ。スパ(SPA JUNGLIA)のシーンをみてみよう。
日が落ちて暗くなりかけたジャングリア。空を見上げスパに浸っていた女性が、鳥の声に惹かれ体を起こす。眼下に広がるジャングル、首を動かす恐竜たち、そして、打ち上げられた花火にうっとり。「パワーバカンス」というキャッチコピーにふさわしい映像に仕上がっている。
だが、実物はやや見劣りするようだ。開園後、報道で公開された映像では、木々の中に立つ鉄塔と送電線が目につく。キャッチコピーで謳う「没入」どころか「興ざめ」だ。PVに近い体験をするには、夕刻以降に利用する必要がある。
・アトラクション数(22種)
22のアトラクションがあるという。だが、ショーが7種含まれているうえ、似たアトラクションも多い。「バンジージャンプ」類が2つ。「ジップライン」類が2つ。「吊り橋」が2つ。コースが2種ある「バギーボルテージ」も、アトラクション2つとしてカウントされている。
これらを考慮すると、体感が異なるアトラクションは、実質11種程度だ。
・キャッチコピー
「沖縄本島北部に広がるやんばるの森の真っただ中に、圧倒的なスケールで新たに誕生する大自然没入型のテーマパーク」
これが、ジャングリアのキャッチコピーである。「やんばるの森の真っただ中」と「大自然」に違和感がある。
一般的に、やんばるとは名護市以北、国頭村・大宜味村・東村の3村を指す。ジャングリアがある今帰仁村は、「やんばる」に近い場所ではあるが、厳密には「やんばる」とは言い切れない。23年11月のジャングリア発表会見では、記者が「やんばる」を用いた表現について問いただす場面もあった※1)。
「大自然」についても同様だ。ジャングリアが建てられたのは、ゴルフ場(オリオン嵐山ゴルフクラブ)跡地だ。その跡地に3万本植林してジャングルを「演出」している。「やんばるの森の真っ只中」というよりも、「やんばる近くのゴルフ場跡地に植林した森の中」、といった方が実態に近い。

左:ジャングリア公式サイトより 右:たびらい沖縄アクティビティより
植林して日が浅いせいか、樹木も低く緑も薄い。実際に訪れた人の感想に「ジャングルというより大きな公園」というものがあった。アトラクションが地味なことと相まって、「公園」「フィールドアスレチック」といった印象を受けてしまうのも無理はない。
「盛る」理由
ジャングリアを手掛けるのは、USJを再建したことで名高い「マーケッター集団『刀』」(株式会社 刀)である。
「刀」がジャングリアに力を入れるのは、上場を目指しているからだ。ところが、このところ同社の評判が芳しくない。原因は、自社の業績悪化、クライアントの業績悪化、不利益な報道にある。ざっと見てみよう。
まず、自社の業績は2期連続赤字である。令和5年11月期決算の当期純利益は△183百万円(赤字)。令和6年11月期決算(直近)の当期純利益は△2,436百万円(赤字)と、赤字額も拡大している。イマーシブ・フォート東京の不調が影響したと言われる。
次に、クライアントの業績も思わしくない。「刀」は、西武園ゆうえんちのコンサルティングを請け負い、21年にリニューアルオープンさせている。当初は好調だったものの、その勢いは続かず、親会社である西武HDの決算では、23年3月期に32億円、24年3月期に41億円と、合計73億円の減損処理がなされている。
加えて、自社にとって不利益な報道があった。25年6月、NEWSPICKSは、クールジャパン機構が刀に投資した80億円の一部が、森岡氏の個人法人に支払われたのではないか、という疑惑を報じた。刀は7月1日・3日の2回に渡り、プレスリリースで否定したものの、イメージ悪化は避けられない。
ジャングリアの前身プロジェクト「沖縄USJ」は、菅官房長官(当時)が開業予定地を視察した。ジャングリアの記者会見には石破総理が出席している。政府の期待も大きい。
名誉を挽回し、期待に応えたい刀にとって、ジャングリアは成功必達プロジェクトなのだ。
だからこそ、プロモーション・マーケティングに、力が入り過ぎたのではないだろうか。
これは「刀」だけの問題ではない。CGを駆使した映像や、巧みな言葉は期待感を高める、いや高めすぎる。どうすれば、フィクションと受け取られないか。どうすれば、嫌悪感を抱かれないか。この先、広告はさらに難しくなるだろう。
広告を超えられるか
初動で、躓いた感があるジャングリア。だが、木々が成長し、緑が濃くなれば、より「ジャングル」感は強くなる。
第2期として宿泊施設や「日本のコンテンツ」を発信するエリアをつくる構想があるとも言われる。ジャングリアが広告を超えるのは、これからなのかもしれない。

左:開園後写真 右:開園前イメージ画像
ジャパンエンターテイメントプレスリリースより
【注釈】
※1)沖縄のジャングリアに3つの不安 熱意と配慮の落とし穴|日本経済新聞社






