人気取りに税金を使うな! ─ 震災がれき漂着の北米に調査団派遣

北村 隆司

1ヶ月ほど前のNHK特集でキャスターが「米国西海岸に漂着する瓦礫の処理に、日本政府も対策を練るべきだ」と無責任な「脳天気」発言をしたのに驚いたが、先日の新聞報道で「米西海岸に瓦礫が漂着し始めている問題を考える『会合』に、環境省派遣のNGO『JEAN』や研究者のほか、オブザーバーとして同省職員が参加した云々」と言う記事が出て、改めて、政府までが脳天気に犯された事を知りがっかりした。


肝心の、日本での瓦礫処理も侭なら無いこの時期に、政府職員や私的団体の代表を税金を使って費用丸抱えで米国に派遣する理由が解らない。

そこで、その「会合」を調べて見ると、米国のNGO組織「The Ocean Conservancy」が主催する勉強会(Work Shop) に過ぎず、米国連邦政府から誰も出席していない『会合』だと言う事が解った。

米国の窓口である「The Ocean Conservancy」は歴史も古く、1,300万ドル強の年間事業費を自ら調達し、登録ボランテイアーも90万人を超え、BBB(The Better Business Bureau)の評価でも、総事業費の 68%を活動費、20% を資金募集活動費に費やし、一般管理費は僅かに 12%の立派なNGOである。

それに比べ、日本のNGOと紹介された「JEAN」は、実はNGOではなく、営利事業も認められ、事業目的に公益性をがなくても構わない一般社団法人に過ぎない組織で、若し「JEAN」が自らをNGOと名乗ったとすれば詐称と非難されても弁明出来まい。

NGOでもNPOでも無いJEANの内容は、定款で決められた社員名簿も見当たらず、経費の内容から判断して、専従者は役員1名だけだと思われる組織とは名ばかりの団体である。専従者が役員一人では、総収入の70%以上を占める「調査事業」も、多分、官公庁等からの「調査依頼」を丸投げにしているのであろう。兎に角、事業費の大半が一般管理費では、とても満足な活動が出来る状態ではない。

「JEAN」のHPに掲げられた事業目的自体は多いに歓迎したいが、財務諸表に表れた実態では、税金のたかり組織と思われても止むを得まい。自立できないこの様な団体の乱立は、ごめん蒙りたいものだ。

会合の主催者のThe Ocean Conservancyはその調査報告で「漂流瓦礫の大半は水中に沈み、150万トン程度が太平洋に漂流していると試算され、その内、1~5%が海岸に打ち上げられる可能性があり、あらゆるレベルでの協力を得てこの処理に当たるべきだ」としているが、日本の瓦礫問題に比べれば、極めて小さな問題で、The Ocean Conservancyも、外国政府は勿論、米国政府の援助も求めてはいない現状である。

それにも拘らず「環境省は、大量のがれきが漂流する可能性を懸念する現地の声に応えて、NGOのネットワークを活用し、今後の支援策を検討する」と言う報道が事実とすれば、税金を使って米国に媚を売ったり、自己宣伝する行為に等しく、断じて許すべきではない。

日本に限らず、どこの先進国でも自然災害に備えて「予備費」を計上し、災害規模が予想外に大きい時は、臨時予算を組む事が通常で、米国でもDHS(Department of Homeland Security)と言う巨大組織の中に、災害対策、災害復旧専門の部門を設けており、地方政府が処理できないとすれば、漂流物の問題もこの部門が対策に当たるのが当然である。

貧困国相手なら日本政府も乗り出すべきだが、世界最強,最富裕国である米国に、相手政府からの要請も無いのに、日本政府が血税を使って瓦礫処理の援助をするとすれば「度の過ぎたお人好し」として馬鹿にされるのが堕ちである。

然も、米国は京都議定書への署名を拒み、先進国では唯一のバーゼル条約の非締約国であるなど、環境問題には最も非協力的な国で、多くの国に迷惑を掛けて来た事実も忘れてはならない。
物には順序がある。

広義の「海洋汚染」の犠牲者である「水俣病」の患者には一銭でも惜しむ日本政府が、第一の義務である自国民の健康被害を二の次にして、オレゴンやアラスカの州民に媚を売ることは許されない。