ロシアとウクライナの和平は、領土問題については、方向性が見えてきた。クリミア半島については、もはやウクライナの奪還は誰も本気で考えていない。
もともと歴史的にウクライナとは関係が皆無で、タタールの軛からの解放の仕上げとしてオスマン帝国の勢力下にあったのを、エカテリーナ二世が獲得して、セバストポリ軍港を築いた土地である。
それをウクライナ人フルシチョフがソ連の首相だったときにお手盛りでウクライナにくっつけたものだし、住民は少数民族のタタール人を除けばロシア人だけに等しい。
東部二州もロシアがすべて占領しているルガンスク州は帰趨ははっきりしている。問題は、ドネツク州でロシア軍が70%占領しているのを残りもロシアに引き渡すようにプーチンは要求している。
このへんになると、ロシアが占領している南部との取り引きも出てくる。たとえば、ザポリージャ原発周辺と引き換えにということだってありうる。また、それ以外もロシアとしてはクリミアの安全が保たれるなら交渉の余地はあると思う。
あとロシアにとって大事なのは、ウクライナ全域にわたるロシア語話者の権利保護と親ロシア派と反ロシア派に分裂しているロシア正教会の地位保全だ。いずれも、少数民族として保護されるべきなのは当然だ。
つまるところ、ウクライナ問題というのは、ロシアおよびロシア語話者、ロシア正教会の保護をどうするかという問題なのだ。ロシアとしては、根本に遡れば、ウクライナという1991年までは存在したことのない国家だとか、果たしてウクライナ語がロシア語と別の言語といえるかというのを疑問視するのは当然である。
ただ、成り行き上、そうなってしまったし、国家としては国際的承認を得ているのだから我慢するしかない。
しかし、ウクライナが西側とロシアの緩衝帯ならともかく、NATOやEUに入るのは容認できない。たとえば、戦後、沖縄を独立国にすべきだと米国が考えたら、そうなっていたかもしれない。
しかし、その沖縄が中華人民共和国に吸収されるとか、中国と軍事同盟を結ぶとかするならそれはもう我慢できないのと同じだ。
ウクライナ紛争は国際法的にはロシアが全面的に悪くウクライナは被害者だ。ただ、実体的に考えると、伝統的にロシアの中核的な一部であり、歴史的にはロシア国家揺籃の地であるキエフだとか、歴史的にウクライナとまったく無関係な黒海沿岸をロシア国家から切り離すのは不自然だ。
さらに、口約束とはいえ、ブダペスト合意のころは、ベーカー発言を引き合いに出すまでもなく、東欧諸国をNATOには入れないはずだった。それをポーランドあたりまでならともかくも、バルト三国だとか、さらにウクライナやジョージアまで勢力圏に入れようかというのは、無理があるし、ロシアが存立基盤を脅かされると感じるのにも合理性がある。
ロシアのウクライナ侵攻は真珠湾攻撃か華北進出みたいなもので国際法上アウトだ。しかし、西欧諸国とウクライナ国家との関係は、満州人たちをけしかけて、満洲国を建国したことのほうに似ている。
その意味で、ロシアをこれ以上、追い詰めないようにプーチン大統領を安心させる措置は必要だし、それさえすれば、ロシアが過剰防衛する必要もないのだ。

米・ウクライナ・欧州主要国首脳会合 8月18日 ホワイトハウスXより






