ガザ問題を巡り「外交官たちの蜂起」:「ハマスの壊滅」を目指すネタニヤフ首相

イスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ自治区ガザの完全制覇を決め、ガザへの攻撃を始めた。一方、ガザに住む50万人以上のパレスチナ住民はイスラエル軍の攻撃から避難する一方、食料や水、医療を手に入れるために苦戦、多くのパレスチナ人が飢餓状況下に陥っている。米国を除く国連安保理理事14カ国は27日、ガザで「飢饉が発生している」と報告されたことについて、「人為的な危機だ」と懸念する声明を発表したばかりだ。イスラエル軍のガザ攻撃を批判する声が国際社会ばかりか国内からも高まってきているが、ネタニヤフ首相は目下、ガザ攻撃を再考する考えはない。

マインル=ライジンガ―外相 アルプバッハ・フォールムで 2025年8月25日 オーストリア外務省公式サイトから

そのような中、オーストリアの外交官や元外相たちがストッカー現政府宛てに公開書簡を送り、ガザ戦争に関する政府の方針を変え、イスラエルのネタニヤフ首相に政策変更を強く求めるだけではなく、イスラエルと欧州連合(EU)の連合協定の停止など制裁を支持すべきだと主張している。なお、同書簡はオーストリア代表紙「プレッセ」(8月27日付)に掲載され、大きな反響を呼んでいる。

公開書簡では「国際社会は、ガザにおけるルールに基づく戦後秩序の崩壊をリアルタイムで目の当たりにしている。飢餓を戦争の武器として利用し、民間インフラを完全に破壊し、民間人、医療従事者、ジャーナリストを標的とした殺害を行っている。国連人権システムと国際刑事司法制度の関係者は過去2年間、中傷と脅迫を受け、公認の援助団体は信用を失墜させられた。イスラエル指導部は現在、パレスチナ住民の強制追放を公然と主張しており、これはイスラエルをパーリア国家へと変貌させるだろう」と警告を発している。

公開書簡の署名者には、ベニータ・フェレロ=ヴァルトナー元外相、ペーター・ヤンコヴィッチ元外相、ヴォルフガング・ヴァルトナー元外相、元ボスニア国際代表のヴォルフガング・ペトリッチ氏とヴァレンティン・インツコ氏、元EU大使ハンス=ディートマール・シュヴァイスグート氏、元ワシントン大使エヴァ・ノヴォトニー氏ら26人の外交官、元外交官らが入っている。

「オーストリアも、ガザにおける耐え難い苦しみを終わらせ、ハマスの手から残りの人質を最終的に解放するために、国際社会の圧倒的多数に加わるべき時が来た」と、現リビア大使バーバラ・グロッセ氏、ヨルダン駐在大使マリーケ・ジンブルク氏、そして外務省西バルカン担当特別代表ウルリケ・ハルトマン氏を含む外交官たちは述べている。

公務員の立場で政治的発言することについて、ペトリッチ氏は「状況が極端で、国際法のあらゆるルールに違反し、文明国間で通常行われるあらゆる事柄を無視している場合、それは例外であると私は考える」と指摘、公務員も声を上げなければならないと主張している。

26人の外交官の公開書簡に対し、ベアテ・マインル=ライジンガー現外相は28日、ガザ戦争に関するオーストリア政府のこれまでの方針を堅持すると発表した。

同外相は7月、30カ国外相による敵対行為の即時停止を求める共同アピールに署名したが、今回の外交官たちの公開書簡に対して、「オーストリアは、イスラエルの安全保障、生存権、そして正当な自衛権に全面的にコミットしている。2023年10月7日にハマスが行った蛮行なテロ攻撃を強く非難し、全ての人質の即時解放を求める。同時に、パレスチナ民間人の苦しみは、無関心ではいられない。民間人の保護と国際法の尊重が不可欠だ」と説明している。

なお、駐オーストリア・イスラエル大使のデイヴィッド・ロート氏は27日、公開書簡への憤りを表明している。曰く「この戦争の責任者であるテロ組織ハマスに責任を問う代わりに、この書簡はイスラエルを非難し、中東で唯一の民主主義国であり、オーストリアの緊密な同盟国であるイスラエルに対する前例のないEU制裁を支持するよう求めている」と公開書簡の署名者を批判している。

公開書簡は最後、「オーストリアは決断を迫られている」として、「オーストリアもまた、今こそ自らの発言がどれほど真剣なものか、決断を迫られている。EU・イスラエル連合協定および資金プログラムの停止、そして貿易制限の導入は、真剣に検討されるべきである。とりわけ、人権侵害、戦争犯罪、そして人道に対する罪を犯したり支援したりする者に対する包括的な武器禁輸措置と制裁が不可欠だ。オーストリアもまた、ガザにおける耐え難い苦しみに終止符を打ち、ハマスの手から残された人質の解放を最終的に確保するために、国際社会の圧倒的多数の声に加わるべき時が来ている」と明記している。

上記の問題について、当方の見解を少し書き足したい。まず、今回のガザ戦闘はハマスの「奇襲テロ」(2023年10月7日)が契機となって始まったことを忘れてはならないだろう。その意味で、イスラエルのハマスへの報復攻撃には正当性がある。同時に、アラブ諸国に取り囲まれたイスラエル国家の生存権を尊重すべきだ。

問題は、ネタニヤフ首相は1200人以上のユダヤ人が虐殺され、120人以上が人質にされた「ハマスの蛮行」を絶対に許せない、という姿勢は理解できるが、報復、憎悪からは本当の解決は難しいことだ。ネタニヤフ首相は「ハマスの壊滅」を目指しているが、第2、第3のハマスがガザの廃墟から新たに生まれてくるだろう。ある時点で報復をやめ、共存の道を模索していかなければならない。さもなければ、戦いは永遠に続く。ユダヤ民族は受難の民族だが、パレスチナ人も同様だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。