
今年の夏休みは広島を旅しました。市内を旅して少し時間に余裕ができたので、広電に乗って一路西へ。終点の広電宮島口駅に到着しました。その名の通り、世界遺産厳島神社で有名な宮島に渡る玄関口となっている駅です。

宮島に渡る船は松大汽船とJR西日本の2社が運航しています。運賃はどちらも同じ200円なのですが、JRの青春18きっぷで乗れるのはJR西日本の渡船のみ。一方、広島電鉄の一日乗車券で乗れるのは松大汽船の渡船だけです(切符の種類によって船がフリー区間に含まれないものがあります)。
わたしは両方とも持っていなかったので早く出航する方に乗船します。時間は16時を回っており、帰りの船は満杯の客を乗せて宮島口港に戻って来ました。

満杯の客を乗せて帰還する渡船。

船が少し進むと望遠レンズの向こうに厳島神社の鳥居を捕らえることができました。この日は19時に干潮を迎えるとのこと。その時間までいられないのですが、もしかしたら鳥居の下までいけるかもしれません。

船に揺られて10分ほどで宮島駅に到着。松大汽船とJRの共同の駅舎ですが、JRで電車が来ず、船だけの駅というのは全国でもここだけです。渡船も以前は青函連絡船、宇高連絡船、仁堀航路があったんですがいずれも廃止されてこれも全国でここだけになっています。


駅の近くの土産物店でごみをくわえる鹿を発見しました。ごみをポイ捨てするのはやめましょう。宮島の鹿の歴史は古く、12世紀末に宮島を旅した西行法師の「撰集抄」にも鹿がいた記録が記されています。約6000年前に瀬戸内海ができたときに本土と生き別れになった鹿が残ったとも、本土から泳いで渡ってきたとも言われていますが詳しいことはわかっていません。
鹿は神の遣いとも言われます。宮島は神宿る島。そんな島に神の遣いが常住するのは偶然なのでしょうか、必然なのでしょうか。

10分も歩くと厳島神社の大鳥居に到着しました。日が西の方向に沈むので逆光になってしまっています。鳥居の脚はまだ海の中のようです。

鳥居に近づく前に、厳島神社にお参りすることにします。厳島神社の祭神は市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)、田心姫命(たごりひめのみこと)、湍津姫命(たぎつひめのみこと)。宗像三女神と呼ばれ、アマテラスとスサノヲの誓によって生まれた三女神は、道を護る神とされています。
道の代表的なものといえば、航海。593年に海上交通の要衝であった瀬戸内海の中部に航海の安全を願うために建てられたのが始まりとされています。今では航海を始め、交通安全、商売繁盛、芸能上達といったご利益があるとされています。なお、厳島の名も祀られている市杵島(いちきしま)姫命の名が転じてその名がついたとされるのが有力です。

現在のような立派な平安時代の寝殿造りの姿になったのは1168年以降で、当時事実上政権を握っていた平家、特に平清盛が安芸守に任命され、厳島神社を篤く信仰していたことから改築を命じ、貴族の邸宅のような姿に生まれ変わりました。

こちらは社殿から見える鏡池。引き潮のときになるとこのように手鏡のような姿を見ることができます。鏡にあたる部分からは湧水が湧いていて、海に向かって流れていきます。

右学房の向こうに瀬戸内海を望む。



厳島神社の床板は少々隙間が空いています。これは満潮時に受ける水圧の力を逃がすためで、社殿が水圧で破損することがないように工夫されたものです。また、この板は二重構造になっていて、今見ている板は養生板と呼ばれるもの。神社本来の板はこの下に全く同じ形をしたものが並んでいます。本来の板を傷つけないようにするための配慮です。

社殿を巡っていたら寄り一層潮が引いていました。これなら鳥居の下まで行けるかもしれません。鳥居が海の中にあるのは島全体が神の島として崇められていて、島に鳥居を建てるのは畏れ多いから。厳島神社自体海中にあるのも同じ理由です。人が上陸するのも畏れ多いため、先人は舟で来て海の向こうからお参りをしていました。鳥居の内側、つまり島全体が神の領域なのです。
こんな大きなものが海中で沈むことなく立っているのが不思議ですが、海中の千本杭の上に乗っかっているだけ。固定されているわけではないのです。三つ脚の袖柱でバランスを取っているのと屋根部分に重しとなる石が乗せられており、それらの重みで自立しています。

先人の知恵は恐ろしいものだとありがたみを感じながら袖柱にタッチ。ご利益を享受したいと思います。

古くから神の島として崇められ、壮麗な寝殿造りの社殿で祀られた宮島。世界遺産に登録されたことでその名は世界に届き、洋の内外を問わず多くの観光客で賑わうようになりました。
駅に至る道は参詣道となって土産物店も多く並び、平清盛の時代とは全く異なる参拝方法に変わっていますが、せめて先人の知恵や歴史を知ったうえで、彼らに思いを馳せながら神宿る島に参りたいと思いました。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年8月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。






