【映画評】後妻業の女

後妻業 (文春文庫)

 妻を亡くした80歳の耕造は、結婚相談所主催の熟年男女が集まるパーティーで、可愛らしく自己紹介する63歳の小夜子との再婚を決める。その後、持病があった耕造は他界し、彼の遺産はすべて小夜子が相続することに。耕造の娘の朋美は、公式証書遺言状を突きつける小夜子を不審に思い、裏稼業の探偵を使って小夜子を調べると、実は小夜子は、独り身の高齢男性の後妻におさまり資産を狙う凄腕の“後妻業の女”であることが判明する。その裏には、小夜子と手を組む結婚相談所所長・柏木の存在があった。小夜子は、次のターゲットに不動産王・舟山に狙いを定めるが…。

直木賞作家・黒川博行の同名小説を原作に、資産を持つ高齢男性の後妻となりその財産を狙う“後妻業”を描く「後妻業の女」。金や欲と共に、孤独や悲哀をも描く熟年婚活犯罪劇は、なるほど大人の映画だが、これをコメディーと呼ぶには少し抵抗がある。後妻業・小夜子と凄腕のサオ師の、犯罪者同士の攻防ならいざ知らず、ここには素人の高齢老人を食い物にし、時には命にかかわる犯罪の存在すらあるのだから、笑いごとではないのだ。だが見ている間は、大阪弁のコミカルな響きと出演者の演技力が、細かい疑問をカバーしてしまう。どんな(高齢)男性もイチコロの後妻業のエース・小夜子を演じる大竹しのぶが抜群のハマリっぷりで見事だ。脇役も実力派が揃っていて、小夜子の悪事を調べつくす勝気な娘役の尾野真千子や、裏社会に通じる謎の探偵役の永瀬正敏がこれまた良い。個人的には獣医役の柄本明のひょうひょうとした演技が笑いのツボだった。

熟年男女の婚活には、高齢化社会と、孤独への恐れや弱さが垣間見える。映画はあくまでもエンタテインメントなので、クライマックスとその後は、典型的なご都合主義だった。だが、このお話、いつか迎える自分の姿として、親世代の“あるある”として、さらには日本全体の心配事(?)として、見ておくといいかもしれない。
【60点】
(原題「後妻業の女」)
(日本/鶴橋康夫監督/大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、他)
(悲哀度:★★★★☆)


編集部より:この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年8月28日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式サイトより編集部で引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。