不動産のクラウドファンディング、興味ない人には「なんじゃそれ?」だと思いますが、驚くことに出資募集額の規模は年間2000億円程度もあり、成長過程にあります。
それじゃわからない、と言われそうなのでごく簡単にわかりやすく説明します。あなたが港区の高級住宅物件の情報を見て「素敵!だけど価格が3億円だって」となれば「庶民の私には高嶺の花どころじゃありません」でした。でももし、この物件を100人で300万円ずつ出してオーナーになりませんか、と言われたらどうしますか?
ここで返事は割れると思います。住んでみたいけど100人もいたらだめだよね、という人と住まなくても絶対値上がり確実なら「『俺、港区の高級物件投資しているんだ』って自慢できるじゃないか」という人がいると思います。数年後に300万円の元本に100万円のリターンがついて400万円が戻ってきたら悪くないよね、になるでしょう。
前者の「住んでみたい」というのはどちらかといえばタイムシェア的な利用権形態としてかつて流行しました。海外では一時話題になりましたが、現在ではリゾート地で残る程度です。メキシコあたりに旅行に行き空港を出る際に「100㌦の食事券、上げるよ」の手口で売り込みに引っかかることもあります。日本では割としっかり根付いていて、リゾートトラスト社などが長年経営をしています。どちらかというと会員制ホテルのようなものでリターンがあるというよりエクスクルーシブな気にさせるといったほうが良いでしょう。
一方、不動産クラウドファンディングは住むのではなく儲けに特化していると言えます。当然ながら投資対象も足の速いところ、つまり値上がりしやすく売れやすい特定物件や案件ということになります。
しかし、死角がないわけでもありません。今年7月ダイムラーコーポレーションというクラファン企業が負債総額3.3億円で倒産しました。何が問題だったかといえば会社の業績が急激に悪化し、債務超過になった上に、責任者である社長が急死、しかも取締役は社長一人だったことでにっちもさっちもいかなくなった、というのが理由であります。
もう一つの例が日本共生バンクとその傘下の「みんなで大家さん」関連。この会社の成り行きや組成は複雑怪奇でおまけにロンドン市場に関連企業のMOH Nipponを上場までさせるも決算書不備で一時、売買停止の憂き目に立たされました。そのMOH社が9月8日に決算発表しましたが内容は目も当てられない数字です。この「みんなの大家さん」は不動産開発案件への投資で物件価値が数十億円単位のものが主流、約4万人から2000億円を集めたとされます。が、同社は個人投資家に配当ができなくなり、その行方が注目されています。

笑顔が消えた大家さんたち 「みんなで大家さん」HPより
これらクラファンは事業に資金調達のレバレッジをかけたい経営側と少額でも不動産投資が出来て一定のリターンが得られるという小口投資家とのマッチングかと思います。では本当にその息はあっているのか、私にはここが死角があると考えています。
まず経営側はカネを集めることに特化しています。また不動産案件によっては金融機関が貸せない案件がありますが、この資金を素人投資家から集めているという言い方もできます。例えば大都市によくある旗竿物件。これは不動産が狭い通路の奥にあって通路面積が狭いため再建築不可の物件であります。当然、不動産価値は近隣相場に比べてかなり安くなります。私が旗竿物件を嫌がらないのは開発する手法と旗竿を最終的に一団の土地にする隣接地買収というやり方を時間をかけてやるからです。クラファンは、例えばですが、このような銀行が貸せない物件を力技で進める、と言ったらよいでしょうか?
上述の「みんなで大家さん」でも手掛ける大型物件の1つは土地の権利関係やかつての用途が芳しくないいわゆる問題物件で大手が誰も手を出さない案件を高額で取得しています。専門家からすれば「手を出してはいけない物件」で開発の素人が手に負えるものではありません。クラファンの経営者は概してデベロッパーではなく、集金に特化しているところがミソなのです。
一方、投資家側はとにかくリターンだけを求めています。またクラファンの特徴は特定物件に対して決まった期間を解約できない状態の下、お金を預けるので待っている間、「あの投資、どうなったのかな?」と気になるわけです。ところが私のように不動産の甘いも酸っぱいもそれなりに経験している者からすれば「そんな思った通りに事は運ばない」のはこの業界の超常識であることを体得しているのです。一方の投資家側からすれば「あの社長、ウソを言ってんじゃないの?」と疑心暗鬼になりやすいともいえるわけです。
そりゃそうです。何百人、何千人も投資家がいれば皆さん、理解度も期待度も違うわけで経営側には質問や意見、更には批判やら「訴えるぞ」という脅しまで何でもありなのです。私は事業家というのは一種の芸術家だと思っているのです。ビジネスという芸術を通じて思い描いた作品を作り、マネタイズするのです。ですが、「お前は本当に絵が描けるのか?」「そこは白じゃなくて青だろう」といった声は投資家が多ければ多いほど酷くなり、制御不能になるのです。
クラウドファンディングは不動産に限らず、様々な分野である程度の市民権を得たと思っています。一方、製品や開発案件系のクラファンは情報が駄々洩れになるリスクがあるのです。「誰もやったことがない」を売りにする事業家は知恵やアイディアだけが勝負なのです。それがクラファンを通じて漏洩してしまうのです。不動産の場合は特定物件なので情報漏洩は問題になりませんが、期待度が高すぎる上に「期待利回り〇%」がありきなのがもっともやりにくいところです。
不動産には市況があるのです。当然、良い時と悪い時があります。私は日本の不動産はそろそろ上げ一杯だと見ています。つまり踊り場を経て行方を見守る段階だと考えています。特に建築費が暴騰したい今、不動産開発は容易ではなく、エンドユーザーも「そこまで出せない」という抵抗が見られます。また外国人ブームだったことも宴をさらに盛り上げたと思いますが、外国人ブームも一旦沈静化する気配が見えてきています。
世の中、同じトーンが続くことはありません。不動産クラウドファンディングも私は一種の流行ビジネスだと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月11日の記事より転載させていただきました。






