
函館を旅しています。前回ご紹介した五稜郭をあとにして市電に乗ると函館駅方面に向かい、十字街停留所で下車しました。

函館の市街は函館駅方面の陸地と函館山をつなぐ砂地、陸繋砂洲に広がっています。実は今回午後着の便で函館に来たため、十字街に来たときにはすでに日が傾きつつありました。行きたいところはまだたくさんあるため先を急ぐことにします。

ただ、お昼にカレーパンしか食べていなかったためお腹が空いていました。この近くにあるSNSで見つけて昼食時には行列ができるというラーメン店に入ることにします。
その名は「ヤマザキ洋服店」——え? 洋服店?

中に入ればそこはカウンターの並ぶちょっとおしゃれなラーメン屋。ただ、そこに置かれているものがちょっと独特。


給水器があるのは古いミシンの上、棚の上にもミシンが置かれています。この場所は昭和10年に開業したヤマザキ洋服店という洋品店があった場所で、ここをラーメン店にする際にその名を受け継ぎ、建物の中も洋服店らしくリノベーションしてラーメン店として営業しているのです。

函館名物のあっさり塩ラーメン。手もみの平打ち麺は喉越しよくつるっといただけます。何より丼ぶりの「ヤマザキ洋服店」のロゴが目を引きます。洋服店と名乗りながらラーメンを出す店はないですからね。

ラーメン店を出るとだいぶ日が傾いていました。写真にもだいぶ影が落ちるようになっています。古い建物が残る函館山の麓にはこのような古い建物が多く並びます。江戸時代末期に開校した函館は北海道の中では最も早く都市化が進んだ町であり、函館山の北東の港に面したエリアには教会などの多くの古い建物が残されています。

八幡坂を下から望む。
このエリアは山から海にかけて平地がほとんどなく、高台に街が開けたため、港に向けて坂道が多く作られています。

その中で最も有名な八幡坂(はちまんざか)に来ました。坂の銘板の下にオルゴールの歯のような絵がありますが、これがこのエリアで高台から港方面に向けて延びている坂の全てです。狭いエリアにこれだけの坂があって、すべてに名前がついています。

ご紹介している八幡坂は道幅が広いうえ、まっすぐ港に向けて道が伸びるので最も見晴らしのいい坂です。数々の映画やCMのロケ地にもなっており、中でも台所洗剤チャーミーグリーンの宣伝は一世を風靡して、今でもこの坂を「チャーミーグリーンの坂」と呼ぶ人もいます。最も今はチャーミーグリーンもなく、キュキュットとかJOYに代わっていてチャーミーグリーンを知る人も少なくなってしまいましたが…
ちなみに私が撮影している場所、人がわんさかいます。鎌倉高校前の江ノ電と海が見える踏切以上の数です。数年前はこんなことはなかったんですが、これもインバウンドの影響でしょう。

日が暮れる前に他の坂も歩いて紹介したいと思います。こちらは基坂(もといざか)と呼ばれる坂で、函館の道路の基準点となる里程元標が置かれた場所です。

坂の上には元町公園が整備されていて、公園の上の高台には函館公会堂が顔をのぞかせています。

元町公園の上から眺める函館港の景色もみごとです。近くには高校がありますがこんな景色を毎日見ながら登下校できるなんて羨ましい限りです。

太い坂ばかりかと思えばこんな裏路地のような坂もあります。こちらは「チャチャ登り」と呼ばれる坂。アイヌの言葉でチャチャは「おじいさん」。おじいさんは背中を曲げないと登れないことからこの名がついたとされています。

チャチャ登りの近くにあるのがロシア正教のハリストス正教会。ハリストスはギリシャ語でキリストのこと。ロシア領事館の隣に建てられ、一時は日本のロシア正教布教の拠点となっていました。

日が落ちつつあるので、夜景で有名な函館山に登ろうとロープウェイ乗り場に歩を進めます。この近くにあるのが二十間坂。これだけ道幅が広いのは、火災による延焼を避けるため。道幅が広いので大砲などの軍備輸送にも使われました。戦前、函館山は軍事拠点とされていて一般市民は登ることができませんでした。

さて、それでは函館観光のメインスポット、函館山に登ることにしましょう。ロープウェイに乗って山頂に向かいます。

すっかり日が暮れてきました。函館港を夕暮れ時の太陽光が赤く染めてマジックアワーを演出します。
と、ここまではよかったんですが、ロープウェイを降りて展望台に登ろうとするとそこにいたのは山のような人!あまりに人が多くて展望台が崩れ落ちないか心配になるほどでした。ラッシュアワーを超える密集の中徐々に徐々に展望台の最前列に向かうことができ取れたのがこちら。

函館は陸繋砂洲で本土と函館山を結ぶ地形が特徴ですが、その特徴的な地形が宝石をちりばめたように煌びやかに彩られています。この写真を撮るまですし詰め状態で大変でしたが、並んだ甲斐がありました。

金森れんが倉庫。
夕暮れ時の函館坂道エリアの散歩は見晴らしのいい絶景の連続で見る者を大いに楽しませてくれました。日中ももちろんいい景色なのだと思いますが、日暮れ時は街が赤く染まったり、夕方独特のアンニュイさが感じられたりしてこの時間でしか感じられない不思議な気分を味わえます。少し時間をずらしてちょっと違った顔の函館を見るのも楽しいのではないかと思います。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。






