黒坂岳央です。
昔からずっと、筆者は老化と死が怖かった。
中学生くらいでうっすら薄くひげが生えた時、子供心に「ああ、これでまた死に一歩近づいてしまった」という解釈をした。成年になった時も嬉しさより悲しさ、虚しさの方が圧倒的に強かったことを覚えている。
とにかく年を取りたくない、という恐怖は30代になってもずっと続いた。20代の頃から肉体の老化に抗う努力を始め、アンチエイジングという言葉が流行る前からその手の書籍や記事を読んでいた。
ところがずっと続いた死と老化の恐怖がピタリと止まった。それは子供が成長する実感ができてからだ。どんな宗教、思想やスピリチュアルを覗いても止められなかった不安がまるでスイッチを切るように消えたのだ。
昨今、何かと「子供なんて負債」「自由がなくなる」といった子供を持つことに否定的な意見が多い。筆者は子供を持つメリットはとても書ききれないほど感じているが、今回は「死が怖くなくなる」という点にフォーカスして提案したい。
※ 本稿は子を持たない選択を否定する意図は一切なく、単に個人のイチ意見の表明に過ぎない。最終的な解釈は各々におまかせしたい。

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子供は自分のバックアップ
時間をかけて考えてみた。なぜ、急に恐怖のスイッチが切れたのだろうか?と。根拠となりそうなものの1つが「遺伝子」である。
肉体は「遺伝子の乗り物」という考え方がある。遺伝子の観点で言えば、人生は遺伝子が描いたシナリオに基づいて展開されるものに過ぎず、次の乗り物へバックアップすることを命題とするという意見だ。
食事、仕事、恋愛などあらゆる活動は「遺伝子を次につなぐための動機に過ぎない」という見方であり、確かにそれも一理あると感じさせられる。
子供が生まれた瞬間はまだそうは思わなかった。だが、徐々に言葉を話し、歩き、走り、園や学校へとステップアップする様子を見ると、「これは自分の遺伝子のバックアップなのだな」と感じる事が増えてきた。
後頭部を見ると、自分とまったく見分けがつかないほど似ているし、自分が昔ハマった意味のない遊びと一緒のことを庭でやっているのを見て、ハッとさせられることもあった。何かと感覚が似ているし、好みの食事、アニメや漫画も同じだ。実家の母親に合わせると「声や動作のすべてがあなたが子供の時の丸ごとコピーのよう」という。
要所要所で、「これは他人の遺伝子ではなく、他ならぬ自分の遺伝子だ」と感じる言動がある。もう一人の自分がそこにいる、という不思議な感覚は今も変わらない。
バックアップの安心感
パソコンのデータや合鍵を考えるとわかるが、「バックアップがある」という安心感は大変心強い。家の鍵がたった1つしかなければ不安で仕方がないが、2つあるだけで「万が一1つなくしても大丈夫」という安心感が非常に強い。パソコンのデータは3-2-1ルールと言って2つでは足りず、3つあれば安心感が違う。
人生も同じだ。仮に自分が死んでも子供がいる。まあ老化や死があってもいいだろうという感覚になった。もちろん、積極的に死にたい気持ちなどはない。むしろ、子が独立するまで、まだまだ死ねないしやることは無限大にある。しかし、漠然とした恐怖はもう完全に消えたといっていい。健康診断の結果も怖くなくなった。
「子供のためなら親は命を捨てられる」という表現、子供の頃は「さすがにそんなこと出来る人はいないだろ。大げさな」と思っていた。しかし、今ならそれはよく分かる。子供の命の危機が迫る中、自分の命で救えるなら救済に本当に「一切」の躊躇はない。ロジカルに考えても、自分よりバックアップした方が重要度が高い。
心理学には、人が人生の後半で「自己超越」に至ると言われる。生存本能からの恐怖を超え、他者や次世代へ意識が向かう段階だ。おそらく自分は今ここにいる。
たとえばマズローは、自己実現のさらに上位に「自己超越欲求」を置いた。自分が中心ではなく、他者を通じて存在の意味を見いだす段階である。子どもを持つことは、その「自己超越」を強制的に体験する契機になるのだろう。
子供がすべてではない
ここまで子を持つことで起きる心理的変化を取り上げてきた。だが、ここで「子どもを持たなければ死の恐怖は克服できない」という話をしたいわけではない。
というのも、人によっては、作品や弟子、会社、理念など、別の形で“自分を超えた存在”を生み出す人もいる。子どもはあくまでその一つの形にすぎない。天才クリエイターの多くは、晩年になっても精力的に作品やビジネスを出し続けている。彼らはこうした自己表現をすることで、死の恐怖を克服しているのかもしれない。
◇
そして世界の見え方が変わった。ニュースで見る環境問題や戦争も、「自分の老後」ではなく「子の未来」に関係する話として解釈するようになった。
昔は「自分の死後の世界」に全く興味がなかった。しかし、今は違う。死後の世界が混沌では子に影響するので困る。我が国もできるだけ良い状態のまま、子に託したいと思うように変化したのだ。
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