生業が不動産事業でありますが、私には駅前不動産屋のあの野暮ったい広告のべた張りとか、土地の売買に絡み、時としてグレーゾーンの人が暗躍する舞台など正直申し上げてよいイメージはあまり出てこないのであります。
アパート経営にしても比較的高齢の大家が細かいことをテナントに言ったりして大家とテナントの関係も時としてウィンウィンの関係を築いているとは言い難いと思います。
そんな不動産事業において私が90年代後半に打ち出したのがサービス付きコンドミニアム(日本でいうマンション)の提供でした。私が考えたコンセプトとは住宅購入者は「こんなコンクリートの四角い枠組みだけを買うのか?」」という疑問でした。建築中の建物の躯体工事が上がっていく中でコンクリートの壁が水平、垂直に立ち上がっていくとまさにボックスのような箱に見えるのです。私が当時思ったのは「こんな箱を人々は数千万円から億単位のお金を使うのか?」という単純な疑問でした。

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高層住宅が出来上がる過程を私は「コンクリートの上に化粧をする」という表現を時折します。化粧ですから様々なパタンがある中で最も美しく、時代の要請にマッチしたものを売り出す、これがデベロッパーの仕事だとも言えます。その上、北米ではコンドミニアムに洗濯機、乾燥機、冷蔵庫、レンジ、ガスレンジ、オーブンなどは標準備え付けです。私はそれは「アクセサリー」だと考えています。たとえば90年代に冷蔵庫のポルシェと言われたSub Zero製の冷蔵庫を標準装備で導入したこと、涼しいカナダで空調完備の住宅としたこと、さらに後にはSub Zero製ワインクーラー装備など業界初を次々と打ち出しましたが、正直私が一番やりたかったのは違うことでした。
それは今でいうサブスクのはしりとも思われるサービス付き住宅でした。例えば隣接するホテルのフィットネスやプールにアクセスできる、ホテルからケータリングできる、ハウスキーピングサービスを受けられるといったオファーを提供したのです。正直、数年で止めることになりました。理由は一部サービスの需要が多すぎて継続出来なくなったのです。
ただ、私の中では今でも住宅というハードにサービスというソフトを融合させたいとずっと思っています。世の中、SaaS(Software as a Service)とかMaaS (Mobility as a Service)という言葉が浸透してきていますが、Property as a Service というカテゴリーがあってもおかしくないのです。
報道に東京建物が東京都荒川区に開発した建物で子供の送迎サービスを提供すると発表しました。共稼ぎ家庭の送り迎えを建物が契約する第三者業者が行なってくれるというわけです。これは素晴らしい案だと思います。私が人事面接をする中で「子供の送迎で働ける時間は10時から2時です」といった方は良くいらっしゃるのですが、労働集約的な業種では正直、その時間だけではどうにもならない、つまり雇う方も雇われる方も妥協の産物になるのです。これが解消できれば潜在的労働人口の実質増加になるとも言えないでしょうか?
私は最近ある経験をしました。自分が住むコンドミニアムの中にあるフィットネスの機器は建物完成以来20年、一度も更新されていません。よくメンテされているので使用には耐えられますが、混雑時には使いたい器具やマシーンが使えません。そこで管理組合の会長に「年度予算からマシーンを少しずつ刷新、増加させてはどうか?」と提案したところ、「管理組合の業務は今ある資産を維持管理することであり、刷新、増加はその中に含まれていない」というにべもない返事。私からすればそれはやらないための言い訳だろうと思い、そうとう食ってかかったのですが、ダメでした。
もしもこのフィットネスルームにサブスクとしてNPO的な低額で定額の課金制度を設けながらも常に最新の器具やタオル、リフレッシュメントなどが備えられていたら付加価値は上がります。その価値がわかる人はフィットネスルームを使用する人しかわからないのですがあれば便利です。
ソーシャルルーム(多目的ルーム)もありますが、ほぼ誰も使わないムダスペースになっています。それは使うことのメリットを謳うプランがないからなのです。それを提供すればよいのです。地下駐車場でも付加価値をつけるサービスはいろいろ思い浮かびます。コンドミニアムのValetサービスや洗車サービスなんてなかなかユニークだと思います。
各住居に対してもサービスの提供はいくらでも思いつきます。ハウスクリーニングにしても実は一番やりたくないのはベランダ/バルコニーの掃除。これをやってくれるなら有償でもお願いしたいです。ケータリングサービスもあるでしょう。家に客が来るのはこちらではごく当たり前。フードデリバリーでもいいけれど盛り付けを含め、プレゼンテーションが十分ではないかもしれません。私はかつてシェフの訪問サービスをお願いしたことがあります。食材から食器まで全部持ち込んでもらい、家のキッチンで調理してあたかもお抱えシェフのようなサービスをしてくれたのです。これはかなり好評でした。
日本でも一部の不動産は億ションが今やダブル億ション(2億円)の時代になっています。が、そこでどんなサービスを提供できるかが価値の違いになってくる時代が来るはずです。ほとんど利用価値のわからないコンシェルジュがにっこり挨拶をしてくれるだけでよいのか、という疑問もあります。
不動産デベロッパーは変わる時代だと思います。そのような斬新な発想、そして管理組合とサービス提供は切り離して単独オペレーションできる仕組みづくり、これができれば不動産事業は新たなる領域に入れると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月20日の記事より転載させていただきました。






